異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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極東

PHASE-456【ワンドにこだわる意味が分からない】

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 俺とコクリコが口角泡を飛ばすとばかりの中で、クスリと鈴を転がすような笑い声をもらしたのはベル。
 柔和な表情に見とれてしまう。

「ど、どうしたんだ?」
 動悸が高くなっているからか、上擦った声になってしまった。

「いや、随分と余裕があると思ってな」

「余裕なんかあるわけないだろう。いっぱい、いっぱいだよ。ベル達がいるから少しは平静でいられるんだ」

「そうなのか」
 おっと、照れていらっしゃる。今の発言はポイントが高かったようだ。

「ベル達の足を引っ張らないように頑張るさ」
 ここで好感度を更に上げたいと思う俺。

「励めよ」

「おう!」
 ――……元気に返事はしてみたが、ベルの喜ぶ姿から分かるのは、やはり上官と部下との関係性が強いような気がしてならない。
 せっかく照れた表情が見られたのに、直ぐに凛としたものに変わってしまった。
 まあ好感度は上がっているからな。そこは維持しよう。いつもこの辺で俺は調子に乗って痛い目に遭うからな。

「足は引っ張らないように」

「お前は調子に乗るなよな!」
 再び始まるコクリコとの言葉のどつき合い。

「あ、あの……」
 申し訳なさそうに、俺たちの中に割って入ってきたのはランシェル。

「どうした? 話なら聞くぞ」
 俺の事を騙していた後ろめたさがあるようだが、俺は気にしないとばかりに軽い口調で返す。
 正直、騙して精気を奪い、意のままにするって事に荷担していたというより、実は男だった。という衝撃の方が大きかったからな。

「私も連れて行ってくださいませんか」

「お、なぜに?」

「少しでもお役に立って罪滅ぼしをしたいのです。足手まといにはなりません。それに主であるリズベッド様を救い出したいのです」

「リズベッド。主って事だから」

「はい。我らが魔王様です。トール様、お願いします。私も一行に加えてください」
 移動中の食事などの生活面のお世話もしてくれるらしい。
 回廊での戦闘で見せたランシェルの動きは見事なものだった。俺と戦った時は本気ではなかっただろうし、戦いの場では活躍してくれるだろう。
 力仕事もお任せくださいと付け加えてきた。
 そら男だからな。とは、口には出さない俺は紳士。

「などと言いつつ、後ろから私達を……」
 空気の読めないコクリコがはっきりと言ってしまう。
 こういう時の空気を読まない力ってのは欠点でもあるが、長所でもあるよな。

「その心配はないさ」
 主を救いたいという気持ちは本物だし、それを自分たちでは出来ないから、俺たちにお願いしているわけだし。

「この命にかけて虚言は述べません。私はシャルナ様同様に回復魔法も使えますので、お役に立つと思います」
 回復魔法はありがたいね。
 でも、ゼノに仕置きという暴力を受けて、なぜ回復魔法を使用しなかったのか? と、聞きたかったが、普通にメイドをしているだけの存在がそんなの使えば、俺たちに怪しまれるからだよな。と、問う前に勝手に理解して、咀嚼して嚥下。

「なん……だと…………」
 回復魔法が使えると知ったところで、ノービスさんが自分の立ち位置が揺らぐのではと戦々恐々。
 回復魔法が使える時点で、俺のパーティーでの優位性はランシェルの方が上になってしまうよね。
 恐る恐る攻撃魔法が使用出来るのかと聞いてみれば、ランシェルは使えないと返していた。それを聞いて安堵しているが、ファイヤーボールクラスなら、ゲッコーさんのグレポンとかでいいし。シャルナもいるし。お前のパーティーでのレゾンデートルは、魔闘家――――というより、武道家として頑張っていくしか存在できないと思うんだが。

「爪系の武器でも侯爵に頼んで準備してもらうか?」

「私が手にするのはワンドのみです」
 なんなのそのこだわり。
 メイドさんとの戦闘では、ワンドから魔法は出さないで、そのワンドで剣を捌いたり、メイドさんを突いていたよな。
 もやは打撃武器として使用しているよね。

「爪が駄目なら、強度のある棍棒か、メイスみたいなのを用意してもらうか?」

「トール。私はロードウィザードですよ。そんな物を使うわけないでしょう」
 鼻で笑ってきやがる。
 お前の戦闘スタイルを目にした人なら、俺の考えが正しいと首肯してくれるぞ。
 ウィザードと自負したいなら、それっぽい戦いをメインにしろ。
 後衛にいろ! 常に後衛に布陣しろ!
 香港映画みたいに動きがど派手すぎて、前衛というイメージしかないんだよ。
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