異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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極東

PHASE-457【男の娘の笑顔の破壊力よ】

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 ウィザードが頼りない状態で敵のど真ん中に行くわけだし、味方は多い方がいいだろう。
 それならS級さん達を動員してもいいだろうが、そうもいかない。
 厳命が下っているとコトネさんは言っていたけど、絶対ではないだろうからな。
 時が下れば翼幻王ジズの考え方も変わるかも知れない。
 ドヌクトスだけでなく、バランド地方に翼幻王ジズ軍のやつらが襲撃をしてくると想定すると、S級さん達の存在は必須になる。
 有能な集団は守りに残しておきたい。魔大陸では少数で目立たず行動がメインだろうし。
 
 パーティー構成は――――、
 ランシェルとシャルナが回復。
 炎の力がわずかだけど復活。そのわずかがとんでもない、最強さんのベル。
 ゲッコーさんの偵察能力と隠密行動に、卓抜した実戦能力。
 お笑い要員の、香港アクション映画の人。
 で、俺。

「おい、何か侮辱された気がするのですが」

「キノセイダヨ。コクリコ」

「その抑揚のない言い方はやめてもらいましょう!」
 躍りかかりそうなところをしっかりとランシェルが羽交い締めで拘束。
 早くもコクリコのあつかいが分かっているようだな。頼りになるメイドだ。
 男だけど。
 
 魔大陸で本格的に戦闘に突入したら、準レギュラー的存在の、第三帝国の凄いヤツを召喚して戦うし。
 何とかなるかな~。

「あの、真剣に考えていらっしゃるようですが、やはり同行は許してくださいませんか……」
 俺が真剣に考えている事が、自分をパーティーにいれるかの判断だと勝手に解釈したようだ。
 不安を覚えつつも、コクリコを放さないのはお見事。
 そもそも俺の考えでは、ランシェルは既にパーティーに含まれている。
 回復魔法が使えるってところで話が脱線して、パーティー入りを許可してなかったもんな。
 流れ的にOKだと判断してくれてもよかったんだが、やはりちゃんと、お願いする。と、言わないといけないよな。
 それを知らないランシェルは、悲しげに黄色い瞳を潤ませている。
 潤んだ瞳は何とも妖艶で見とれてしまう。

 ――――は!? いかん! いかんぞ!

「いや、お願いするよ。期待しているから」

「ありがとうございます! トール様のため、身を粉にして励みます」
 了承すればすっごく喜んでくれる。
 八重歯が愛らしい笑み。
 笑みを見れば、本来なら俺の心は、幸福感で大いに満たされたのだろう。
 が、しかしだ! しかしだぞ諸君!
 諸君って誰だよ。って話だが。
 これだけの愛らしい笑みを湛えていたとしても、ランシェルはインキュバス。
 サキュバスではない。
 男なんだ。
 どれだけ可愛かろうが男だ。
 なぜ女の子じゃないのかと、俺はこの世界の運命に対して歯を軋らせてしまう。

「本当に、よろしくお願いします」

「お、おっふ」
 不意に距離を縮めてきての上目遣い。
 こいつは男の喜ばせかたを理解しているようだな。流石は夢魔といったところか。
 本当に……、なんで男なの? こんなにも艶やかな髪と柔肌なんだよ。
 ぎゅぅぅぅぅぅぅぅって、したくなるくらいの存在なのに。男だなんて…………。
 
 ――………………っ!

「納得いかねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!」
 心に積もり積もった思いが、咆哮となって出てしまった。

「うるさい」

「あ、はい」
 冷たい声のベルに怒られる。
 お前がランシェルみたいに、俺に対して甲斐甲斐しいなら、こんな咆哮もないんだけどな。
 ――――新たにバトルメイドのランシェルが、パーティーに加わってくれた。
 男だけどメイドのランシェルだ。

「よろしくお願いします」
 笑顔で接近されると、効果は抜群だな。
 気をしっかり持たねば!
 誤った道を歩まぬように、気をしっかりと持たねば!!

 テッテレー♪

「お!」

「何か音がしましたね」

「俺だ」
 これを言い訳に、俺はランシェルから離れて、一人でプレイギアを見る。
 いいタイミングで鳴ってくれた。
 というか、一段落したら鳴るシステムなのだろうか? 
 いつも戦いが終わって、ちょっと時間が経過したら鳴るイメージだな。
 もしかしてセラのヤツ、俺の状況をのぞき見とかしてんじゃねえだろうな。

 ――……ふむ。レベル41か。
 3アップだな。
 俺のレベルは評価性だからしかたないか。
 ゼノとの戦い、一応は勝利したけど、あいつはゲッコーさんの恐怖に呑まれたからな。十全の力でなくなった相手を倒したと言っても過言ではない。

 その後のクロウス達の襲撃も、ゲッコーさんとS級さん達が活躍してくれたからな。
 俺が召喚しているけど、俺の実力での評価じゃないからな。仕方ないか。
 3アップでも十分だな。
 もっともっと強くなって、ゼノクラスを一人で倒せるようにならんとな。




「んじゃ、さっそく行きますか」
 先生と別れた次の日には、ドヌクトスより俺たちは出立。
 侯爵はいまだ起き上がるまでには至っておらず、先に寝室に赴いて、挨拶をすませた俺たち。
 その後、姫に拝謁し、新たなる旅立ちを伝えた。
 確定していない以上、姫には呪解の事は伏せての出立の挨拶だった。
 
 姫との挨拶をすませ南門に移動すれば、イリーたち騎士団に、コトネさん達メイドさん。
 ゲッコーさんに留守を任されたS級さんたち百人に、この都市を救ってくれたと感謝している冒険者の面々に住人の皆さん。
 これだけ盛大に見送ってもらえるのは嬉しいね。
 頑張ろうって、勇者として奮い立たされる。



 ――――久しぶりにハンヴィーでの移動。
 やはり初めて乗車する者には快適な乗り心地と、移動速度が驚きのようである。
 でも、俺の隣じゃなくてもいいんじゃないかな。ランシェル……。
 男友達より、エルフかまな板の方がよかったな。
 しかもメイド服のままだし。

「その格好で旅するの?」

「はい、正装なので」
 男なのに? などとは言うまいよ。
 ――――今ごろ侯爵は、同じメイド服を着ているサキュバスさん達に介抱されて、さぞ幸せな時間を満喫しているんだろうな~。
 
 満喫している姿を想像すれば、沸々と、嫉妬という名の湯が煮えたぎる。
 ハンヴィーをUターンさせて、侯爵領を乗っ取って、侯爵に取って代わろうという野心が芽生えてしまいそうな、いけない俺。
 大勢に見送ってもらって、勇者として頑張ろうと思っていたのはなんだったのか。
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