異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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レティアラ大陸

PHASE-541【不沈という安心感】

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「俺の心配なんていいから、皆、さっさと乗り込もうぜ!」
 あえて明るく振る舞って話題を変え、直ぐさまこの地よりの撤収を発案。
 背後が怖くてかなわない……。
 ここからゾディアックでミズーリまでの移動となると時間がかかりそうだから、迅速に動かないと。
 車は運転できるようになったけど、流石に船舶となると自信が無いからね。
 ゲッコーさんだけで往復してたら時間がかかるだろうな。

「では、バタリオン」
 移動時間を考えていれば、トラックの時みたいに地龍が魔法を唱える。
 今回は俺たちにも付与がされたようで、体が輝き直ぐに光は不可視となった。

「レビテーション」
 これにリズベッドが続けば、

「おお!?」
 俺が興奮する。
 体が宙に浮いている。
 フロートの時よりも高い位置に体が浮いていた。
 まさか生身で空中浮遊する事になるとは! 流石はファンタジーだな! というかようやく飛翔できる経験が出来そうだ。

「凄いなリズベッド。飛行魔法も使えるんだ」

「距離は限られますが。あの位置までなら問題ありません。では、行きましょう」
 長距離は難しいみたいだけど、体一つで空を飛べるって凄い。
 短い間だったけど、皆で仲良く楽しい空中移動を経験した。
 潮風がなんとも心地よい空の旅。
 透明度の高いベタなみの海は、ベルの瞳のようなエメラルドグリーン。
 海中の岩や珊瑚が綺麗に見えている。
 横を見れば俺たちと同じ高さを飛翔する海鳥。こいつらはいつもこんな絶景を見ているんだな。

「――――これは覚えたい魔法だな!」
 着地早々に、興奮気味に語る。

「しっかりと基礎を学んでくださいね」
 優しい笑みのリズベッドに甘えて、直ぐに使えるようにして。と、口に出そうだったぜ。
 言っちゃうとベルが怒るからぐっと我慢。
 コツコツと実力をつけないとな。

「それにしても壮観だな。浜辺から見た時も驚嘆だったが、乗って見回せばこれまた驚嘆だ」
 ガルム氏が鉄で造られたミズーリに驚きをかくせない。
 集落の面々も同様だ。
 なぜ鉄が浮くのか? と、シャルナと同じ感想を述べている。

「本当に大したものだ。なんという広さなのか。船なのにまるで町のようではないか」
 ガルム氏に続いて、長い首で見回す地龍。

「まあ、二千人以上は生活できるからな」

「なんと!? 勇者トールは本当に規格外だな」
 地龍に感嘆の言葉を賜れればミズーリだって喜ぶだろうさ。

「よし早速、出航しよう」
 プレイギアを甲板で手に取り、ミニマップを見れば、周囲には赤い点はないので、今のうちにこの大陸から離れたい。

「ミズーリ。抜錨」
 言いたいだけ。
 左拇指がスティックに触れ、艦が動く。
 艦首を向ける方角は北東。バランド地方は城郭都市ドヌクトスへと続く海岸へと舵を切る――――。



 ミズーリでの航海は、安心感しかない。
 これに乗っているだけで、敵に襲われても問題ないと思えてしまう。
 要塞からの不眠不休に、ミズーリという無敵のゆりかごの効果も相まって、コクリコやシャルナはシャワーで疲れを流し、腹を満たしたら、太陽はまだ高い位置だけど、即、眠ったようだ。
 俺が拠点としている艦長室を二人で独占とのこと。
 俺専用とも思うけども、現在の序列で考えるなら、第一位である魔王のリズベッドに使用してもらいたかったね。

 地龍は露天艦橋でゆっくりと横になり、その側ではゲッコーさんが周辺の警戒を行ってくれている。
 甲板部分には地龍が植物で作ったケージが有り、家畜はバランド地方に到着するまでそこで大人しくしてもらっている。
 ベルはモフモフ達と一緒になってミズーリの調理場で、これまたミズーリの食材を使用して、リズベッドと集落の面々をもてなしてくれている。
 目にしたことのない食事に皆さん舌鼓。
 ビールも口にあったようで、ガルム氏たちは喉に走る刺激が癖になったそうだ。
 かくいう俺も――、

「かぁぁぁぁぁぁ! 喉の仏さんが喜んでるぜ!」
 と、コーラの強炭酸を楽しんでいた。
 刺激が体に駆け巡る快感。

「おっさん臭いぞ」

「ゲッコーさんも随分と飲んでるようで。ビールの空き缶がいくつも足元に転がってますよ。ちゃんと捨ててくださいよ」

「わかってますよ」
 露天艦橋に降り注ぐ陽射しの元で俺はミズーリを操る。
 要塞近辺のどす黒い瘴気の世界からしたら天国の洋上。
 薄雲があるくらいで、見事な好天だ。

「トール。お前まったく寝てないだろう。少しは寝た方がいい」

「ゲッコーさんもでしょ。ベルだってそうですよ」

「三日くらい起きていても問題ない。それ以上は記憶力の低下に繋がるからどんな状況下でも仮眠はとるがな」
 プロの軍人の段取りの良さを学びたいところ。

「このままオートで進めても問題ないだろう。何かあれば起こしてやる」

「そう言われてもですね、不眠不休なんですけど、あんまり疲れてはいないんですよね」
 自律神経である交感神経が高ぶっているようだ。
 徹夜でゲームした時も、フレンドと協力して難敵を倒した後、喜びから来る興奮で寝付けなかったからな。

 ――――!

「それは未だに気が高ぶっておるからでしょうな」
 背後からのしわがれ声が、俺の心の声を代弁する。
 胡座をかいて露天艦橋に座る俺は、空を仰ぎ見るように顔を上げ、弓なりになって後ろを見る。
 今回はしっかりと全体をこの目に捉える。
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