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レティアラ大陸
PHASE-542【新ピリア】
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「ゴブリンの翁。ええっと、たしかアルスンさんでしたか」
反っていた体を戻して、ちゃんと向き合う。
「そうです。しかし流石は勇者殿。ワシが気配を消して背後に立っても驚きもせんとは。今回は完全に気配を消したつもりだったんですがな」
「寝ていないから神経が研ぎ澄まされているんでしょうね」
「ご謙遜を」
まあ正直、すでにこのくらいのことでは慌てふためかないよ。
翁は大したものだとかかと笑うけど、ゲッコーさんの背後の立ち方と比べれば、顎髭を生やしたゴブリン老の接近は驚異ではない。
というか初対面は黒頭巾で分からなかったけど、立派な顎髭が生えてたんだな。
翁らしく皺もかなり刻んでいる。
額の皺の深さが、人生経験の深さってことだろうな。
「要塞の如き巨船に、潤沢な食糧。寝室も整っておれば、汗を流せる場所もある。このような代物を召喚できる勇者殿ともなれば、ワシの気配を察知するなど容易いでしょうな」
笑みつつ濁った黄色い瞳が、俺をじっと見てくる。
濁ってはいるけど、それは加齢のものであって邪悪というものではない。
好々爺のような笑みを湛えての称賛はありがたいけども、
「それでなんのご用でしょうか。翁」
「いやなに、これほどの力を有しておる勇者殿の力を見てみたいと思いましてな」
「見たい? 試すじゃなくて?」
ガルム氏の話では、この翁はリズベッドの周辺警護を影となって務めていた、言わば御庭番のような存在だ。
主の安全を第一と考えて行動する事を旨とする存在。
「救ってもらったことには感謝しております。大恩にはこの老体を全力で酷使して返そうと思う所存」
だけども、主である魔王が今後、危機にさらされるのは受け入れられないってところか。
だからこそ、勇者である俺の実力を物差しにして、パーティー全体の実力を測ろうとしているのかもな。
俺で測れるのはコクリコとランシェル。よくてシャルナまでだろうけど。
とにかく俺を試したいようだ。
体から漏れているからな。
殺意とかってのじゃない。すくんでしまうような圧は感じない。
闘気って例えるべきかな。
「リズベ――魔王殿には、現在のレティアラ大陸よりも安全な場所に移ってもらい、玉体を癒やしてもらおうと思っています」
「玉体なんて言葉を知ってるんだな」
横から茶々を入れないゲッコーさん。
「ありがたいこと。ですがこれより向かうは人の世界。我ら亜人を受け入れるとは思えませんな」
「俺のギルドでは受け入れてますけどね」
「エルフやドワーフをでしょう」
「いえいえ、コボルトもいますよ。ギルドに入る意思があるなら、ゴブリン、オーク、種族を問わずに受け入れますよ」
「ほう」
目を細めて俺を見るのは疑っているからか。
「ギルドで受け入れる亜人達は、ベルの庇護下に入ります」
「あの美姫の?」
俺たちの中でもっとも強い存在が後ろ盾になることで、亜人達に対する偏った考え方を改めさせていると伝える。
「力業のような改めさせ方ですが、現状ではそれが効果的なのでしょうな。そして、それを可能としたのは勇者殿の人望と実力ですな」
「いや、ベルですよ」
「ですが美姫をコボルト達の長に任命したのは勇者殿でしょう」
「はい」
「なれば、やはり勇者殿の徳ですな」
かかと笑う翁。
緑色の肌からなる顔の皺が更に増え、深くなる。
亜人を受け入れるだけの器がある人物だというのは理解してもらえたのか、俺を試そうとしていた闘気のような気配が翁から消える。
消えると同時に話題も変わった。
「して、勇者殿はどれほどの能力が使えるので?」
初期ピリアと禁忌のブーステッド。大魔法のスプリームフォールだと伝えれば、怪訝な表情に変わる。
思うことは分かっている。
初期ピリアからいきなり飛んでのブーステッドだからね。
魔法だってノービスとばして大魔法なんだし。
魔法の方はリズベッドのおかげ。ブーステッドは意地で習得して、使いたくても使えない。使えば反動が体にある状況。
「なんとも変わった体得で」
「耳が痛いですね」
「いやいや、勇者だからこその規格外な体得でしょうな」
フォローしてもらうけども、結局は俺の実力不足だ。
「しかし、勇者殿なら次の段階にも進めるでしょう」
「ほうほう」
翁の発言を耳にすれば、自然と体は前のめり。ズイッと翁に接近すれば、背を反らしている。
「中位のピリアを覚えてみてもいいでしょうな」
「是非ご教授を」
鍛えてからちゃんと覚えないとベルが怖いけど、現状の実力で引き出せる力ならそれはOKと考えていいのではないだろうか。
手軽に魔法やスキルを習得。ではなく、俺の現在の実力に見合った能力って事だし。
ピリア習得はそもそもそうやって覚えるってカイルも言ってたし。
コクリコからボコボコにされて習得する事が、あり得ないものだったわけだしな。
思い出すと腹も立つが、あれがあったからブーステッドを覚えられたのも事実なので、最近は大きな怒りの波は訪れない。
それ以上に新たなるピリアの習得に心が躍る。
反っていた体を戻して、ちゃんと向き合う。
「そうです。しかし流石は勇者殿。ワシが気配を消して背後に立っても驚きもせんとは。今回は完全に気配を消したつもりだったんですがな」
「寝ていないから神経が研ぎ澄まされているんでしょうね」
「ご謙遜を」
まあ正直、すでにこのくらいのことでは慌てふためかないよ。
翁は大したものだとかかと笑うけど、ゲッコーさんの背後の立ち方と比べれば、顎髭を生やしたゴブリン老の接近は驚異ではない。
というか初対面は黒頭巾で分からなかったけど、立派な顎髭が生えてたんだな。
翁らしく皺もかなり刻んでいる。
額の皺の深さが、人生経験の深さってことだろうな。
「要塞の如き巨船に、潤沢な食糧。寝室も整っておれば、汗を流せる場所もある。このような代物を召喚できる勇者殿ともなれば、ワシの気配を察知するなど容易いでしょうな」
笑みつつ濁った黄色い瞳が、俺をじっと見てくる。
濁ってはいるけど、それは加齢のものであって邪悪というものではない。
好々爺のような笑みを湛えての称賛はありがたいけども、
「それでなんのご用でしょうか。翁」
「いやなに、これほどの力を有しておる勇者殿の力を見てみたいと思いましてな」
「見たい? 試すじゃなくて?」
ガルム氏の話では、この翁はリズベッドの周辺警護を影となって務めていた、言わば御庭番のような存在だ。
主の安全を第一と考えて行動する事を旨とする存在。
「救ってもらったことには感謝しております。大恩にはこの老体を全力で酷使して返そうと思う所存」
だけども、主である魔王が今後、危機にさらされるのは受け入れられないってところか。
だからこそ、勇者である俺の実力を物差しにして、パーティー全体の実力を測ろうとしているのかもな。
俺で測れるのはコクリコとランシェル。よくてシャルナまでだろうけど。
とにかく俺を試したいようだ。
体から漏れているからな。
殺意とかってのじゃない。すくんでしまうような圧は感じない。
闘気って例えるべきかな。
「リズベ――魔王殿には、現在のレティアラ大陸よりも安全な場所に移ってもらい、玉体を癒やしてもらおうと思っています」
「玉体なんて言葉を知ってるんだな」
横から茶々を入れないゲッコーさん。
「ありがたいこと。ですがこれより向かうは人の世界。我ら亜人を受け入れるとは思えませんな」
「俺のギルドでは受け入れてますけどね」
「エルフやドワーフをでしょう」
「いえいえ、コボルトもいますよ。ギルドに入る意思があるなら、ゴブリン、オーク、種族を問わずに受け入れますよ」
「ほう」
目を細めて俺を見るのは疑っているからか。
「ギルドで受け入れる亜人達は、ベルの庇護下に入ります」
「あの美姫の?」
俺たちの中でもっとも強い存在が後ろ盾になることで、亜人達に対する偏った考え方を改めさせていると伝える。
「力業のような改めさせ方ですが、現状ではそれが効果的なのでしょうな。そして、それを可能としたのは勇者殿の人望と実力ですな」
「いや、ベルですよ」
「ですが美姫をコボルト達の長に任命したのは勇者殿でしょう」
「はい」
「なれば、やはり勇者殿の徳ですな」
かかと笑う翁。
緑色の肌からなる顔の皺が更に増え、深くなる。
亜人を受け入れるだけの器がある人物だというのは理解してもらえたのか、俺を試そうとしていた闘気のような気配が翁から消える。
消えると同時に話題も変わった。
「して、勇者殿はどれほどの能力が使えるので?」
初期ピリアと禁忌のブーステッド。大魔法のスプリームフォールだと伝えれば、怪訝な表情に変わる。
思うことは分かっている。
初期ピリアからいきなり飛んでのブーステッドだからね。
魔法だってノービスとばして大魔法なんだし。
魔法の方はリズベッドのおかげ。ブーステッドは意地で習得して、使いたくても使えない。使えば反動が体にある状況。
「なんとも変わった体得で」
「耳が痛いですね」
「いやいや、勇者だからこその規格外な体得でしょうな」
フォローしてもらうけども、結局は俺の実力不足だ。
「しかし、勇者殿なら次の段階にも進めるでしょう」
「ほうほう」
翁の発言を耳にすれば、自然と体は前のめり。ズイッと翁に接近すれば、背を反らしている。
「中位のピリアを覚えてみてもいいでしょうな」
「是非ご教授を」
鍛えてからちゃんと覚えないとベルが怖いけど、現状の実力で引き出せる力ならそれはOKと考えていいのではないだろうか。
手軽に魔法やスキルを習得。ではなく、俺の現在の実力に見合った能力って事だし。
ピリア習得はそもそもそうやって覚えるってカイルも言ってたし。
コクリコからボコボコにされて習得する事が、あり得ないものだったわけだしな。
思い出すと腹も立つが、あれがあったからブーステッドを覚えられたのも事実なので、最近は大きな怒りの波は訪れない。
それ以上に新たなるピリアの習得に心が躍る。
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