異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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ダンジョン何階まで潜れる?

PHASE-672【姐御!】

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「鼻息荒くせず、浮かべた涙を拭ってちゃんと見る。トールが先ほどから剣を向けていた相手を」
 そう言うと、コクリコはファイアフライの封じられたタリスマン数個を周辺に投げ、一帯を明るくする。
 俺にはビジョンがあるから意味はないけども。今後の事を考えた自分用ってことかな。

「ぬ? ……ぬぅ!?」
 濃霧の中で目をこらせば、見えてくるのは――岩。
 俺が剣を振るっていた位置には大きな岩があった。
 岩のように硬い鱗だと思っていたのは、正真正銘の岩だったわけだ。
 珍しい形状の岩。つまりは奇岩。
 それも沢山ある。
 山の形。細長く天井まで伸びているものや、逆L字のような形状の岩などなど。

「こんなにも岩のある光景だったのか? この地底湖。というか俺は岩を相手に戦っていたのか……? いや、でもしかしだぞ。最初にここに引っ張り込まれた時は奇岩群なんてなかったぞ」

「多分ですが、初手で幻術にかかっていたのでしょう。十三階で霧に引っ張られていましたからね。霧に触れる事で発動する幻術でしょう」

「幻術か」

「はい。霧に触れる事が発動条件となると、水系のイリュージョンダンサーだと思います」
 イリュージョンダンサーなる水系の幻術魔法は、霧を対象者に触れさせることで幻術にはめるそうだ。
 にしても――、

「何とも小粋な魔法名だな」

「大昔の話ですが、幻術に囚われた者の行動を目にした周囲の者が命名したそうです。馬鹿踊りをしているように見えたからだそうです。馬鹿踊りに見えたそうですよ。馬鹿踊りに!」

「…………」
 暗に俺が馬鹿だと言いたいのだろうか? 三回も馬鹿踊りと言ったあたりきっとそうなんだろう……。
 反論なんて出来ねえ……。
 確かに、岩に向かって全力だして戦う姿を第三者が目撃すれば、頭が残念な人に見えてしまうもんな……。
 それに転移からの油断せずにのはずが、こうやって引っ張り込まれているわけだからな……。あの時のコクリコの呆れた声を簡単に脳内再生できる……。
 で、そんなコクリコのビンタで正気に戻ったわけだ。
 幻術系は他人に解いてもらうってのがセオリーだからな。
 俺一人で戦い続けていたら、いずれは体力が尽きてやられていたな。
 現状でも無駄に手の握力を奪われてしまっているが……。
 
 ミストドラゴンが俺たちから離れているこの間に休めるのはありがたい。
 とりあえずポーションを一本飲む。今後のミストドラゴンの出方次第では更なる激闘になるかもしれないから、ハイポーションは温存。
 
「あれ、そう言えばリンは?」

「トールが連れ去られた後、ここまで追いかけてはいましたよ」
 途中までは一緒、この地底湖についてからは姿をくらましたという。
 今回は案内人であって、戦いでは協力はしてくれない。死に直面しそうになったら双方を止めるとは言っていたけども。
 つまりはどこかで見ているって事か。

『おのれ小娘、邪魔をして!』

「相対する者なのですから当然の行動でしょう」

『うるさい! 小者の分際で!』

「コソコソと隠れて使用するのが幻術と他愛ない魔法。よくもまあ偉そうに上から言いますね」
 ――……。
 少しのしじまの後に、

『貴様が言うな!』
 氷塊が無数に飛んでくる。
 さっきまでと違って濃霧の向こう側から。
 今までは巨影から飛んできたけども、今回はその姿がなかった。
 でも声の場所は相変わらず掴みずらい……。
 
「愚かな。ポップフレア」
 タリスマンによる強化が影響しているようで、ポップフレアもサイズが大きくなっている。
 氷塊群に向けて放ち――、

「ばぁぁぁぁくはつ!」

「え!? なにそのなんちゃら不敗みたいな決め台詞」
 コクリコの声に合わせてポップフレアが呼応するように爆発。
 爆発は着弾だけでなく、術者のタイミングでも可能だというのが理解できた。
 小規模な爆発だったけども、俺たちに向かってくる氷塊群は爆発により粉々に破壊され、ダイヤモンドダストみたいな幻想的な光景を地底湖に作り出す。

「ふん」
 と、鼻で笑い、琥珀の瞳が強気に煌めくコクリコの姐御。

「かっこいい……」
 こんなにも頼りになるコクリコを俺は知らない。
 チートさんに優秀なハイエルフが原因で、普段はどうしても実力が薄まって見えてしまうが、いやはや――、

「強いじゃねえか」

「何を今更。元々、私は強いですよ。今では我が眷属、オスカーとミッターという双璧も備わっていますし。それにいまなんとか不敗とも言ったではないですか。不敗――私に似合いの言葉ですね」

「おう……」

「まあ、これは相手が大したことがないというのもあるんですけどね」

『何だと!』
 おっと、言われてムキに返してくる辺り、本当に大したことなさそうだな。
 というか、やはりキッズ臭が漂っている。

『生意気な小娘だ』

「小娘呼ばわりしていますが、声から伝わってくる精神年齢は大人とは思えませんよ――ガキ」

『お前ぇぇぇぇぇえ』
 ああ、これは本当にキッズのようだな。しかも結構なわがままさんタイプだろうな。ムキになりやすいもん。甘えられて育ったようだ。

「囀らないで姿を見せたらどうです。ガキじゃないのなら――ね」
 囀るな――か。強者として言ってみたい台詞だな。
 とにかく、今回はコクリコの姐御が格好いい。
 言葉尻で間を作る口跡が、強者の風格を醸し出している。
 
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