異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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北伐

PHASE-718【やっぱりアンデッドの有用性は高い】

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 俺の音頭にテンションの上がった皆さんは、近くの人達とタンカードを豪快にぶつけ合って酒を呷る。
 タンカードだって只じゃないんだから、もっと丁寧に扱ってほしいな。
 消耗品に対しても細かい俺は、お金持ちになっても心はしっかり中流階級。
 皆を見渡した後にコクリコを見れば、俺の発言のどれかが琴線に触れたようで、早速メモしている。
 どうせ回天の部分だろうけど。

「素晴らしい音頭でした」

「どうも」
 クラックリックもご満悦。
 人前で発言するってのは、あがり症の俺にとって苦手な分野だったけど、この世界で過ごす時間が長くなれば、そういったのも克服できるようになるんだな。
 なんて思いながらグイッとタンカードの中に入ったエールを飲む。
 苦手な苦味の中にフルーティーな味わいもあり、飲めなくはないなという感想。
 この世界の葡萄酒の方が甘くて飲みやすいから、酒を嗜むならビール系より甘いお酒だな。
 キンキンに冷えているってのが大したもんだけど。
 保存に魔法を使用しているそうだ。
 冷やす為だけに魔法を使用できる余裕があるってのは、ギルドメンバーの質が向上している証拠だな。
 氷結魔法が使用出来る人材がいてくれれば、冷凍庫いらずで生鮮の保存が出来るってのがありがたい。

 ――――一階の騒がしさから抜け出し、自室のある三階へと移動。
 久しぶりの応接室から寝室へと移動し横になる。
 ベッドは常に掃除がされているのか、埃っぽくなくフカフカ――――。

「快適な睡眠をお約束します。ってやつだ…………」
 

 快適睡眠のおかげで、朝を伝える雄鶏よりも早くに起床。
 空が白み始める時間帯。
 バルコニーから見える光景は、家々の煙突から煙が上がり、外に出て働いている方々もいる。
 早朝からのクエストなのか、ギルドハウスからはベテラン。馬小屋からは新人さん達が西門へと向かって歩いている。
 こういった光景だけを切り取って見れば、北方からの戦火の足音なんて聞こえてこないようだけどね。
 西門へと目を向けていると、

「ん?」
 ――――うむ。寒い。
 火龍装備でなく、就寝時のナイトガウンに羽織り物だけという格好だと、寒さが身に堪える季節だ。
 冷気が体に刻み込まれてくる感じ。

「早いのね」

「お前もな」

「アンデッドに睡眠は必要ないもの」
 便利なようでもあるけど、ずっと起きているってのも淋しい気がするな。
 リンには話し相手として、オムニガルとか他にもアンデッド達がいるから問題はないのかもしれないけど。

「何してんの?」

「言われた事をしているのよ」

「――おお!」
 壁上から王都の外側を見れば、リンの指示の元、アンデッド達が田畑を耕している。
 突如として見たこともない連中が大勢で田畑を耕す光景。
 息の揃った鍬の振り下ろしは見事であり見入ってしまう。
 それは俺だけでなく、近くの田畑で早朝から作業を始める人々も一緒だ。
 
 住民の方達が強い恐怖を感じていないのは、約束通りスケルトン達の顔を頭巾で覆っているからだろう。
 それでも住民が距離を縮めようとしないのは、頭巾の目元――眼窩に灯る緑光を畏怖として感じ取っているからかもしれない。
 緑光が灯る存在たちに警戒をしつつも、自分たちの田畑で作業を始めるだけの胆力が養われているのは、先生のユニークスキル・王佐の才による師事向上の恩恵によるものだろう。

「――ん? こっちでもか」
 王都内部では修復を終えた城壁は、現在、強化改修の段階。
 そのための石材や丸太を器用に運んでは壁上へと上ってくるスケルトン達の姿は軽業師のようだった。
 リンの地下施設がしっかりとした作りだったのも、このスケルトン達の動きを見れば納得もいく。
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