異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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北伐

PHASE-876【今回はどこまでやれることか……】

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「さあ続きまして挑戦者の相手をするベルヴェット・アポロの入場です。圧倒的な力と技のセンス。その強さは単身で魔王を蹴散らしてしまうのでは? と思わせる実力。このコロッセオにて観客席に腰を下ろすギルド古参の男性陣は、今ごろその実力を思いだし、心胆を寒からしめていることでしょう」
 コクリコの喋々とした解説に、観客席からは空笑いが聞こえてくる。
 以前にしばかれた記憶が甦ったんだろうな。
 あの時、ギルドメンバーの男性陣のほとんどが一時的に行動不能になったくらいだし。
 それでクエストが滞って先生が怒ってたからな。
 罰としてベルが空いた穴を埋めるために東奔西走してたな。

「さあ、トールはどれほど耐えることが出来るのか。見応えが有る試合になる為にも頑張ってもらいたいですね~。ゲッコーさん」

「まったくですね~。コクリコさん」
 ――……あの二人――許さねえ!
 完全に楽しみやがって!

「さあ皆さん! 美姫にして美鬼。愛玩をこよなく愛する戦女神が闘技場に立ちます!」
 俺が目を向ける先では、ゆったりとした足取りにて通路から闘技場へと足を踏み入れる絶対王者の姿。
 貫禄のある佇まいだ。あれで俺と二歳しかかわらない十八歳なんだぜ。
 最強だからこその存在感に、コロッセオの観客席からは歓声は上がることはなく、森閑とした空間によって支配されていた。

「なんなのだコクリコの謳い文句は……。聞いていて恥ずかしくなってくる。まあいい。さあ、見せてもらおうか」
 強者からの発言。発言だけで俺の足は後方に下がろうとする。

「おうよ!」
 でも気合いでカバー。なんとか踏みとどまる。
 今までの死線が俺を強くしているのも事実。
 コクリコの発言を実行してやろうじゃないか。
 一撃をベルに見舞ってやる!
 俺だってレベル63なんだ。ベルを驚かせるくらいの戦いは見せられるだろうさ。
 
 可能ならばこのコロッセオを俺のホームに変えたいんだけどな。
 俺の固有結界である【凄く尊き理想胸アバカン】コールを野郎達に発してもらいたいが、いかんせん以前の恐怖が染みついているからか、片方だけを応援するといったスタイルは取らないようだ。
 中立のポジションで戦いを観戦する事に重きを置いている。

 まあいいさ。コールによってホームにしたところで、勝てる相手じゃない。
 ならぶつかっていくだけだ!

「行くぞ!」
 木刀を構える。
 ベルは基本、自分からは仕掛けてこない。
 強者として受けて立つ側だからってのもあるだろうが、これは俺の成長を見るためのものだからな。
 なので先手は必ず俺から。

「マスリリース」

「ほう」
 木刀にピリアを宿し、黄色い斬撃をベルへと目がけて打ち込む。
 躱すという動作はせず、迫る斬撃を瞬きせずしっかりと見ているだけ。
 残火と木刀では違いがあるのだろうか?
 斬撃の威力をそのまま光刃に変えるみたいなことだったけど、木刀でも切れ味を宿した光刃になるなら、ベルだってただじゃすまない。

「威力はあるようだ」
 心配することが失礼とばかりに、木剣にて縦一文字を描けば、それだけで光刃はかき消される。
 残火バージョンだと、石材の壁に切れ込みを入れる威力なんだけどな。
 
 現状ではどのくらいの威力なのか――。

「マスリリース」

「ん?」
 明後日の方向に放てばベルは首を傾げるけども、地面に光刃が着弾すればしっかりと切れ込みが入る。
 残火ほどの深さはないが、当たれば普通の者なら致命的なダメージだ。

「こりゃヘコむね」
 ポツリと独白。
 残火ほどではないにしても威力はある。だというのに簡単にかき消されるなんてな。

「やっぱり努力をせずに習得した技って事か」

「ん? どうした?」

「いや別に」
 独白の内容を聞かれれば怒られるというものだ。
 もう一度マスリリースを使用。
 
 放ったところで光刃はかき消されるけども――、

「アクセル!」
 修練で会得したピリアを使用しベルの側面から攻める。
 背後だと思わせての側面なんだけども、

「ちぃ」
 攻撃を中断。
 咄嗟にアクセルでバックステップして距離を取る。
 あのまま仕掛けていたら確実に痛い目に遭っていた。
 
 感知タイプでもあるベル。
 
 ベルを中心として巨大な蜘蛛の巣のような円結界を幻視するのは、プレッシャーを受けているからなのか……。
 もし円内へと入り込めば、どの方位から仕掛けようが即座に反応して対処してくるって感じだ。
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