異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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北伐

PHASE-877【防ごうが痛い!】

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「どうした。下がらずにさっさと打ち込んでこい」

「言われずとも!」
 アクセルによる高速移動にて正面。
 どのみち感知されるなら正面!
 ベルの木剣の間合い外でラピッドとストレンクスンによるフットワークでフェイントをかけるも意味はなし……。
 ままよと横一文字で木刀を振れば、木剣でいなされる。
 いなされて体勢が若干、崩される。
 そこを見逃すようなベルなら、俺は苦労しない。
 しっかりとが蹴撃が迫る。

「ふんぬぅぅん!」
 何とも不格好な声だったけども、横一文字の体勢から無理矢理に体を反らせて上段に迫る蹴撃をなんとか回避は出来た。
 長い美脚が鼻の上を掠めていった。

「ほお」
 感心している間に距離を取る。

「「「「おお!」」」」
 ここでオーディエンスが歓声を上げた。
 あれを躱したというのが皆の評価を上げたようだ。
 ギルドの野郎達は大抵があの蹴りの餌食になっているからな。

「よく躱したな」

「ありがとう。自分でもビックリだ。でもって背中から変な音がした」

「そうか」
 柔和になる表情に早鐘を打つ動悸。
 俺の回避技術が上がっているのが嬉しかったようだ。
 でも背中からゴキゴキという音がするくらい、無理に体を捻ってやっと回避って事だからね……。
 この試合、回避だけで体中が骨折するかもな……。

「では行くぞ」

「おっとぉ!?」
 俺が回避したことが嬉しいからって、ベルから攻めてくるのはノーサンキューなんだけどな……。
 カンカンと木管楽器のような音をコロッセオ全体に奏でること数合。

「ひぃぃ」
 容易く悲鳴を上げる俺。

「よく防ぐ」
 でも耐えているからか、喜んでくれている。
 喜んでくれているし、褒めてもらえているけども――嬉しくはない。
 こっちは必死になって防戦一方。反撃なんて許してくれない。
 
 木剣を防いでも、そこから更に一歩踏み込んでの蹴撃や拳打は冷や汗を流しながら防いだり、不細工に回避。
 火龍装備だよね? と疑いたくなる。
 衝撃貫通スキルは相変わらずだ。
 籠手で掌底を防いでいるのに、前腕にしっかりと衝撃が伝わってくるからたまったもんじゃない。
 鈍痛に襲われる中で思い出す。
 以前にリンがベルに対して魔法が通用しないことから、この世界の理を無視しているって言っていたけど、対面して経験すれば共感できる。

 ベルはこの世界の住人じゃなくゲームの世界から召喚されてる人物だから、理を無視できるんだろう。
 だから火龍装備で防いでいるのに貫通ダメージを有した打撃を繰り出せるわけだ。
 普通なら火龍装備で防げば、重量級の奴等の攻撃だって防いでくれるってのに。
 ――……ただでさえ強いのに、理も無視しているから手がつけられないんだよ。

「何を考えている」

「考えないと難しい相手だからな」

「お前に考えて行動するというのはまだ早い。直感で来い」
 いやいや……。考えて行動するのも大事ですよ。
 とはいえ、自分より格下なら考えて対応とかもするけど、圧倒的な強者となれば考える暇が無いのも事実。
 だから考えずに来いって事なんだろうな。

「とりゃ!」

「迷いのない良い上段だ」

「だろ!」
 上段は得意だからな。
 更に連携で小手を狙うもそこは躱され容赦のない刺突が迫る。

「ウォーターカーテン!」
 による相殺防御――、

「の、つもりだったんだけどな!」
 水のカーテン程度では、ベルの刺突は防げないという現実を迫る切っ先が突きつけてくる。
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