異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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新公爵

PHASE-887【そして孫になる】

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「やはり我が仕込み杖の白刃で斬り伏せるべきだったか」
 落胆の中には、家宝を下品にされた事による怒りも滲ませていた。
 若い頃は前王と共に活躍していただけあって、怒りを纏わせれば圧の強さは流石でである。
 並の兵士なら完全に呑まれている。

「まあ剣身が無事なら新しいのにすればいいでしょう」

「うぬぅ……」 
 先祖から伝わるのは剣身だけでなく、柄や護拳に鞘も含めて歴史的な価値もあったんだろうけど、きっと馬鹿息子はその価値を理解できないだろうから、剣身以外は残っていないと考えるべきだな。

「中身は良くても外見がこれではな……。折角の継承も台無しになる……」
 公爵は大きく溜息。

「だったら俺のを使いますか」

「ん!? おお! 確かに!」
 緋緋色金を超える存在。
 しかも持ち主が次の代の公爵であり、勇者となれば家宝を超える家宝。
 ということで、ここでは残火を使用する事になった。

 言ってはみたものの……。
 正直、後悔をしている。
 残火でする事ではないだろう。というか緋緋色金から出来たウーヴリールでもすることじゃないと思うよ。

「よし! では血判に移ろう」
 やだ……。なぜに残火で自分の指を切らないといけないのか。
 へたに力めば指が容易く飛ぶぞ……。
 最適解は近衛の人が準備してくれた短剣だよ。先端で拇指をちょっと刺して行うってのがいいよ。

「さあ勇者殿」
 まずは自分からやるからと、鞘から刀身をわずかでいいので出して欲しいと公爵が言うので、言われたとおりに行えば、公爵が躊躇なく刃に拇指を当てる。
 わずかなタッチでも、

「思ったより深く切ってしまった……」

「でしょうね……」
 乗せる程度でも俺は怖いよ。
 傷口から出てきた血を利用し、羊皮紙に書かれた自分の名前の横に押しつける。

「さあ」
 続けて俺。
 ここでぐずればうちの女性陣に笑われるからな。
 渋々、籠手と一体化している手袋を外すために籠手を外し、拇指を刃に――、

「プルプル震えてますよ。ヘタレですね。勇者にあらず」
 というコクリコのヤジを耳朶に入れつつ、こういった場で不遜な発言をする不作法者は継承が済み次第しっかりと拳骨を見舞ってやろうと誓うことで平静を保つ。
 ここでイラッとして拇指を強く押し当てた日には大変な事にるからな。
 クールにやらないとな。クールに。
 すっと当てる。
 ――拇指を見れば、切り口からプツプツと小さな半球状の血液が出てきて、それらが連結するようにして切り口に沿った真紅の線が出来上がる。
 そのまま俺も公爵を真似て血判を行う事で、

「これで勇者殿は公爵であり、我が孫となった。これからはこの大陸だけでなくミルド領の発展のためにも励んで欲しい。トールよ」
 お、勇者殿から名前に変わったね。
 こっちの世界での俺の爺ちゃんってことか。
 正直、実感はないよね。そもそも外見が違いすぎるからな。
 黒髪と金髪だもんよ。

「新公爵トール殿、万歳!」
 謁見の間での大音声はバリタン伯爵。
 本来は王様が場を締めるような発言をするんだろうけど、テンションが上がりに上がったようで、伯爵は感情を抑えることが出来なかったようだ。
 これに侯爵や我が心の友であるダンブル子爵にナブル将軍たちが続いた。

「うむ。実に良き日である。勇者が王族へと加わったのだからな」
 王様も気分は上々。
 とはいえ当の本人である俺はやはり実感が湧かない。
 公爵が爺ちゃんになるのもそうだけど、俺が公爵となりどれほどの国土と権力を得たのかが分からない以上、公爵としての実感が湧くことはないだろうな。
 地図で見ただけじゃ分からない。やはり領地に足を踏み入れて見て回らないと実感なんて湧かない。
 なので行くしかない。
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