異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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ミルド領

PHASE-957【リザードマンではない】

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 爆煙を纏い、ダメージを受けていても構わないとばかりに、着地と同時に舌がコクリコに向かって伸びてくる。

「なんの!」
 ミスリルフライパンで払いのけてからの、

「ライトニングスネーク」
 ワンドの貴石が黄色に輝けば、縄サイズの電撃が相手へと伸びていき――、

「ゲァァァァァァア!?」
 と、ダメージを受けた声を上げる。

「ほうほう。炎より電撃が弱点のようですね」
 余裕のコクリコ。

「油断はするなよ」
 ここでゲッコーさんが参戦。
 コクリコの側面から別の舌が伸びてくる。

 それに対してAA-12にて迎撃。
 散弾が舌に命中すれば、どす黒い液体をまき散らしながら舌の先端部分が断ち切られる。
 甲高い声を上げつつ、残った舌を戻しているところに行われる追加射撃。
 それはAA-12 ではなく、新たに宙空から取り出した銃によるもの。
 ゲッコーさんが手にするのはペーペーシャでお馴染みのPPSh-41。
 しかし、撃った弾丸は全てが命中するも決定打とはならなかった。
 チュンチュンと弾かれる音が室内に響くだけ。

「おお! トカレフ弾を弾くとか大したもんだな」

「装甲高めの相手ですね」

「ゲェェェェェェェェ!」
 不細工な蛙の鳴き声のような威嚇をしてくる。
 舌を欠損させられたことにお怒りのご様子。
 攻撃を受けたことで生者に対する怨嗟が爆発ってところかな。

 コクリコの魔法攻撃を受けた奴と同時に体勢を整える。
 猫背スタイルな二足歩行。

「ゾンビ――じゃないな」
 頭部は人間。肌からは生気を感じさせず、目は濁った白目のみ。
 頭だけを見れば、人間がゾンビ化したように思えるが、首から下は人間とは別物。
 分厚い薄緑の鱗に覆われた体で出来ていた。
 長い舌がウネウネと動くだけでなく、鱗に覆われた体には長い尾も生えている。

「美的センスの欠片もない醜悪な存在ね~」
 同じアンデッドであっても受け付けないようで、リンはわずかだが柳眉を逆立てて不快感を滲ませていた。
 それは俺達も同じなんだけどね。
 羊皮紙の中に記載されていたのと特徴が一致するからな。

「コイツがスケイルマンってアンデッドか」

「オオトカゲ型のモンスターと人間を合成した奴だな」

「ですね。本当に反吐が出る」

「何度も言ったし、聞いたが。本当に反吐が出る」
 少しは信じたいとは思っていたけど、実物を目にすれば、カイメラという存在は常軌を逸したサイコパスな集団であるのが分かる。
 羊皮紙の記載通り、本当に合成獣の実験体に人間を使用していたとはね……。
 しかもそれをアンデッドにするんだからさ。

「で、どうするんですか? 反吐を出すより目の前に集中しましょうか」
 先頭切って戦うコクリコが肩越しにこちらを見つつ、真っ当なことを言ってくる。
 目立ちたかったからと率先して前に出る後衛担当だったが、二体同時となるとちと面倒くさいと言ったところのようだ。
 雷系の魔法が通用するようだからそれで押していけば勝てそうだけども、それを選択せずにこちらに聞いてくる辺り、そこそこやっかいな相手と判断したようである。

「しょうがねえな――と!」
 二体目に狙いを定め、アクセルで一気に接近してから残火を抜刀し、そのまま斬る。
 つもりだった……。
 ガキン! と、期待していたものとは違った音。
 
「あれ!?」
 振り切った胴への一太刀は体を断ち切るイメージで振るったが、しっかりと両腕でガードされてしまった。
 腕部に生えた鱗は小型の盾のように発達したものだった。
 だがピリアにより強化された一撃を防ぐ事は出来なかったようで、吹き飛んでくれる。力は俺の方に分がある。
 苦戦する相手ではないというのは今ので分かった。

「しかし、残火の一太刀を防ぐか」
 しかもガードするという知能がある。
 そこは人間の頭部が使用されているからかな? アンデッドではあるが。

「その鱗にはしっかりと魔法付与がされているようだから、それに対応したほうがいいわね」
 そういう事は先に言ってほしかったとリンに言いたいが、言ったところでお前の対応が浅はかとベルから返ってくるのが予想できたので、口には出さないクレバーな俺。
 トカレフ弾を弾くだけの装甲はあるわけだから、その時点で理解しないといけなかったけどね。
 
 普通の残火で斬るのが難しいなら、

「ブレイズ」
 を纏わせれば問題なし!

「合わせろや!」

「合わせてあげましょうとも!」
 吹き飛ばした舌を欠損したのは後回し。
 コクリコを最初に急襲した方に狙いを定めて驀地。
 対するスケイルマンは自慢の舌で迎撃してくる。
 
 既視感があるのは有り難い。
 ガリオン配下であった蛇牙のアザグンスが使用していた縄鏢じょうひょうでそういった軌道は経験済み。
 むしろあいつの縄鏢の方が鋭さがあった。
 迫る舌には回避で対応。本体攻撃のために無駄な動きで姿勢を崩したくないのが理由。
 今度は一太刀でしっかりと決めたいからね。
 
 俺の移動に合わせてコクリコがライトニングスネークを放つ。
 ご丁寧に装身具による底上げで、普段の縄サイズから綱サイズへと強化された雷撃。
 耳を劈くような雷鳴と叫び声が同時に上がれば、相手の動きが止まる。
 俺が間合いに入ると同時に直撃させるタイミングはお見事だった。
 
「成仏しなっせいや!」
 炎を纏った刃で鱗に覆われた首を斬り落とす。
 宙を舞う頭部は全体が炎に包まれ、頑強な体は力なく前のめりに倒れる。
 体と尻尾がビクビクと痙攣した後、沈黙。
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