異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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エルフの国

PHASE-1026【ミユキは残るから】

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 そして――、

「ああ……」
 と、ベルが寂しそうな声を漏らす。
 ここでモフモフ達とはお別れ。
 ――一匹を残して。
 その一匹だけでもいいだろうって話なんだけども、やはりモフモフと離れるのは耐えがたいようだ。

「チコ、お前がリーダーとなって皆を束ねてくれ。王都ではギルドメンバーの言うことをよく聞いて、しっかりと活躍してくれよ」

「ニ゛ャ!」
 短い濁点つきによる返事からは、リーダーとしての風格を感じさせる。
 武具を装備したチコ。現在ではレベルが36まで上がっており、オルトロスモドキのシグルズよりも高い。
 俺と別れるのは寂しいようだが、群れのリーダーとしての立場を理解しているのか、先頭に立って俺から離れようとする。
 ああいった成長を見ると、嬉しくもあり、寂しくもある。

「あいつ等をよろしくな」
 カイル達にチコ達モフモフの事をお願いする。
 
 これからエルフの国に行くのに、象サイズの大型合成獣を五頭も伴っていくのは迷惑だろうからな。
 
 それに、シャルナが合成獣を創造したカイメラに嫌悪感を持つように、他のエルフの方々も嫌悪感を抱くかもしれないからね。
 別段チコ達に嫌悪感は抱かないだろうけど、その背景を嫌うというのは想像に難くないので、わざわざ連れて行く必要もない。
 忖度は大事。

「皆……」
 この世の終わりとばかりに悲しい声を出すベル……。

「まあ、ミユキは残るから我慢してくれ」
 ベビーマンティコアはリンの刷り込みによって、ベルに甘えるようになっているからね。
 離ればなれにすると可哀想だし、小さいからエルフさん達も愛玩動物と判断してくれれば助かるところ。
 ゴロ太不足をミユキには補ってもらわないといけないしな。
 ゴロ太がカイメラのターゲットになっている可能性があるかもしれないと知ったら、とち狂うかもしれないベルにとって、ミユキの存在は有り難い。

 しっかりと抱きしめてはいるが、騎獣していたチコ達が去っていく姿に、俺以上に寂しい模様。

「帝国軍中佐なんだから少しは我慢しような」

「お前は私を馬鹿にしているのか?」
 これ以上なんか言えば、寂しさが不機嫌に変換されて、八つ当たり暴力を振るわれそうなので、口は一文字を書かせてもらう。

「では改めまして、会頭お元気で」

「お、おう」
 声を整えつつカイルに返せば、皆してライム渓谷の方へと進み、その背中を見送る。

 俺と同じような別れの光景はゲッコーさんの所でもある。
 頼りになるS級さん達もここからは別行動。
 ゲッコーさんと挨拶を終え、俺達の方にも挨拶をし、ガソリンの入ったジェリカンを車外に取り付けた数台のストライカー装甲車がカイル達に続く。

 ――で、

「なんでギムロンは残ってんの?」

「会頭。ワシも連れて行ってくれい」
 俺としてはギムロンは王都に戻って、今後の為に他のドワーフさん達と一緒に武具の開発、生産に勤しんでほしいと思っているんだけどな。

 蔵元であるゲッコーさんも自分の代わりに酒造りをやっていてほしいと言っているけども、そんなもんはワシがいなくても有能な者達が増えた王都の人材なら問題ないと返してくる。
 どうしてもエルフの製錬、精錬、冶金術を目にしてみたいという。
 他種族がエルフの国に入国するのは中々に難しいそうで、今回の好機を逃したくないそうだ。

 どうしても付いていくと意地になっているので、嘆息まじりに俺がルーシャンナルさんにお願いすれば、勇者様のお願いならばと二つ返事だったし、他のエルフさん達も鷹揚に頷いて了承してくれる。
 どうも俺ってエルフさん達の中で大人気みたい。
 これは本当に、エルフの国でモテ期が到来する予感。
 
 ――。

 流石はエルフさん達である。
 正確に言うなら上位種であるハイエルフか。
 元糧秣廠、現王軍の砦から南下。
 となれば当然、瘴気の中を移動という事になるわけだが、このハイエルフさん達はリズベッドも使用していたパーソナルリフレクションを唱える。

 シャルナとコクリコはいつも通りのガスマスク姿。
 ギムロンも慣れないながらにガスマスクを装着。
 自慢の髭が今は煩わしいようだ。
 
 リンは言わずもがなといったところ。流石はアルトラリッチ様だ。しっかりとパーソナルリフレクションを使用している。
 アンデッドであっても魔王軍と違えば、瘴気による影響は受ける。
 不死の存在であっても、状態異常の全てに対応できるってわけじゃないか。
 瘴気は現魔王の力でもあるし、当然といえば当然だな。

 ――――ライム渓谷を移動しないことで、短時間で南下を済ませる。
 この時点で別れたばかりのカイル達と大分、差がついただろう。
 まだライム渓谷にすら到着していないだろうからな。
 王都に帰ったら多忙な日々となるだろうから、本日は渓谷の砦でゆっくりと過ごしてもらいたいね。

 ――。

「ふぃ~独特なニオイじゃの」
 瘴気地帯を抜ければ即ガスマスク外し、深呼吸からの胴間声が車内から聞こえてくる。
 独特なニオイからの解放に、ギムロン語調は清々しかった。
 
 ――――南下から東へと移動。
 
 ここから先、心の友であるダンブル子爵のナムセス領も近いという。
 まあ今回は立ち寄ることはないけど、エルフの国であるエリシュタルトに近いだけあって、眼界には豊かな森が広がる。
 今はまだ平地を移動しているけども、ここからは眼界に収める森の中に入っていくことになるわけだ。
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