異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,072 / 1,861
トール師になる

PHASE-1072【門前払いしてほしかった】

しおりを挟む
「弟子を取った以上、責任をもってしっかりと面倒を見るのだぞ。そもそもトールも半人前の身なのだからな」
 出来た帝国軍中佐は、テーブル上に並ぶボトルを片付けていく。
 ゲッコーさんを見る目が若干冷たかったあたり、俺達が村に行っている間も同じような事をしてたのが分かる。
 俺は弟子達の面倒を見て、ベルはミユキを抱っこしながら飲兵衛の面倒を見てたのかもな。

 ていうか、どんだけ飲んでんだよ……。

 まあそれはいいとして、

「その半人前が弟子を取るとか問題だよな」
 流れで弟子を取ってしまったけども。
 本音を言うならサルタナはいいとしても、やはり次期王であるエリスを弟子にするってのはストレスが半端ではない。
 とはいえ、弟子二人がギムロンに得物を作ってもらっている時の笑顔や、弟子になれるという時の笑顔を思い出せば、今となっては断ることも出来ないからな。

「なあベル。どう思う?」
 継いで問うてみれば、

「いや、いいのではないか。育てる側に回れば、いま自分に何が足りないかも見えてくるだろう。そういった事で言えば、私も半人前だからな」
 最強の帝国軍中佐が半人前って言われても説得力はないけどな。
 確かに感情の高ぶりで周囲が見えなくなったりして、力の加減が出来なくなった結果、未だに弱体化してる状態だけどさ。
 
「それに人を育てる程度には強くはなっている」

「マジでか!」

「ああ」
 なんて嬉しい発言なんだろう。
 これは俺の知らないところで好感度がかなり上がっているようだな。

「コクリコとギムロンを二人相手にして勝ったとも聞いている」

「おう。流石に地力だけの限定的な戦いになると苦労する」

「それでもこの二人に勝ったのは素晴らしい」
 本当に嬉しい限りだよ。
 ご褒美になんか素敵なイベントでも発生しないかしら。

「次の力試しが楽しみだ。いずれは全力の私と戦ってもらいたいものだ」
 ――……俺ちゃんそういうのはいらない……。
 というか弱体化で思ったけど、一年も弱体化ってどうよ。いくら何でも長すぎだろう。
 元に戻る為の必須条件とかあるのかな。
 ――……ゲームやる前に死んだからな……。
 
 う~ん。と、唸りながら考え込んでいるその側では――、

「はぁぁぁぁぁぁあ……」
 俺の唸り以上の溜め息が聞こえてくる……。
 上機嫌なゲッコーさんばかりを見て、そちらには目も耳も向けるのを避けていたけども……。

「まあ家主殿、そんなに思い詰めるもんじゃないぞ」
 ギムロンに酒を注がれれば、一気に飲み干すルミナングスさん。
 俺が次期王の剣術の師匠になったことがエルフさん達の間で瞬く間に広がり、氏族の面々もその話題で持ちきりだったという。
 
 その勇者を囲っているという立場であるルミナングスさんは、のべつ幕なしに氏族とその息のかかった連中から面会を求められていたそうだ。
 俺達が帰ってくる夕暮れ前の出来事だったようだから、短時間でかなりの相手をしていたんだろう、とても疲れたご様子。
 普段は綺麗に整っている髪も乱れており、余計に疲れて見える。

 精神的にもまいっているようで、ギムロンが愛飲する度の強い酒を一気に飲んでも酔いが回らないとばかりに次を所望していた。

「こういった事になってすみません」

「いえ、勇者殿にはまったく落ち度はありません。エリスヴェン殿下が自ら申し出てのことですし、次期王として力を付けたいという思いは良いことです……」
 言いながらも声には疲れが混じっている。

「しっかりしてよ父様」

「長いこと心配させていたお前に言われてもな」

「なによ!」

「まあまあ、さあもう一献」
 有り難いと言いながら、シャルナとの間に入るギムロンからの酌に杯を傾ける。
 なみなみと注がれた酒をグビグビ。
 段々とペースが早くなっている……。
 ドワーフが好む酒をそれだけ飲めば、倒れそうで心配になってくるね。

「失礼いたします」

「……また……か……」
 使用人の美人エルフさんが広間にやってくる。
 入ってきた使用人さんの表情は浮かないもの。
 その表情から察したようで、ルミナングスさんは溜め息と共に立ち上がる。
 どうやらまた来客のようだ。
 うんざりとしているのか、通路へと進む足取りは重い。

「すでにこちらに――」

「そうか……」
 力なく肩を落とすルミナングスさん。疲れ果てたというのが背中から伝わってくる。

「失礼する」
 ああ……。こら特に疲れそうだわ。
 俺の中で好感が持てない氏族の一人、ポルパロングじゃねえか。
 謁見の間とその後の夕食の時は蒼白になっていたけど、本日はなんとも清々しい笑顔だね。

 こういったタイプが清々しい表情で近づいてくるってのは、ろくな事じゃないのがテンプレートだよな……。
 心底では――、門前払いだ、お帰り願え。って呟いている俺がいる。
 まあ門前どころか、広間までズカズカと入り込んでしまっているけども……。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...