異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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トール師になる

PHASE-1073【時と場所を考えろ】

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「本日は何用でしょうかなシッタージュ殿? もう夜になるという時間ですが」

「遅くなって失礼。ファロンド殿、聞きましたぞ。勇者殿が殿下の剣術指南役になられたと」

「ええ、師と弟子という間柄になったそうです」

「何ともめでたい! 珍しくかなり飲んでおられるようですし、さぞ盛り上がっているのでしょう」
 疲れやらストレスやらでギムロンの酒をガブガブと飲んでいただけであって、別に盛り上がっていたわけじゃないんだけどな。
 むしろ溜め息の連発だったよ。

「勇者殿! 師として殿下を導いてください」

「ああ、はい」

「何を身構えます。祝いのために私のほうからも差し入れを持参いたしました」
 と、発言を皮切りに、食べ物や酒がポルパロングの使用人たちによって次から次へと運ばれてくる。

「いや、こんなにも……」

「まあまあファロンド殿。祝いの気持ちですから受け取ってください。楽しい時間を過ごしてくだされば私は満足です」

「ほうほう――これはご丁寧に。色々と思うところもありましたが、一応はこれで水に流してあげましょう」

「そう言ってもらえると助かります。偉大なる魔導師殿」

「分かっているようですね」

「もちろんですとも」
 なんかコクリコは大喜びだけども、こういった下手したてに出て来る手合いは相手にしたくねえよ。
 間違いなく信用できないから。
 そもそも信用なんてしてもいないけどさ。

「しかしこんなにも沢山の品々を受け取るのは申し訳ないですね」
 やんわりと断りを入れたいからこそ言ってはみるけども、

「人間ですがトール殿は勇者であります。特別な存在なのです。殿下の師となっただけでなく、以前には外界で救ってくださった恩人でもありますからね。これでも足りないくらいですよ」

「外界という言い様。まるでこの国こそが世界の中心である。といった発言にも受け取られてしまいますよ」

「その様に受け取られたならば言葉足らずでした。申し訳ありません」
 初見の時のような言い合いには発展しないね。
 笑顔をずっと貼り付けて俺を見てくる。
 貼り付けた笑顔の裏では苦虫を噛み潰してたりしてんのかな?

「ともあれ皆様、楽しんでください。それと――」
 言葉を途中で止め、つつつ――っと、滑るような足運びで俺へと接近。
 流石はエルフというべきか、ルミナングスさんっと違って前線には立たないタイプのようだが、歩法は音を立てない見事なものだった。
 俺としては近づけたくなかったけど、ここで好意に対して拒絶した態度を取れば、氏族との関係を悪くしてしまう。
 今後の関係性も考えて接近を我慢する。

「私の目に狂いがなければ――勇者殿は色事もかなりお好きとお見受けいたします」
 耳打ちに対してうるせえよ! と、声を大にして反論したかったが、事実なので反論できずにいる俺氏……。

「絶世といえる美女達を侍らせているのですからね。分かるというものです」
 別に侍らせてねえよ。
 侍らせてたら――ハーレムだったらどれだけ嬉しいか。

「ですが絶世であっても同じ味が続いてしまえば、別も味わいたいと思うのが男というもの。食と同様でその地のモノを味わい楽しむというのも、英雄には必要な事でしょう」
 ここで一気にポルパロングの表情が歪んだ笑みになる。
 なんとも嫌らしい好色家まる出しの笑みだ。

「なにが――言いたいんです?」
 こんな童貞に――と、ここは心の中だけで継ぐ。

「私の屋敷で働く下女たちを勇者殿に差し上げようと思いまして。決して使い古しなどという事ではありません。男を喜ばせることを多く学ばせているという事ですのであしからず。勇者殿のどの様な趣味趣向にも付き合えることでしょう。だからこそ夜となるこの時間帯にお邪魔したわけです」
 凄く嬉しくなるような展開ではあるけど、それを俺のパーティーの女性陣のいるところで耳打ちとはいえ言うんじゃないよ。
 
 ベルを見ろ。
 お前の浮かべる表情と耳打ちでのやり取りで、聞こえずとも明らかに内容を察しているぞ。
 なんで俺まで睨まれないといけないのか……。
 大体パーティーメンバーの女性陣は俺の女じゃないっての。
 パーティー内の女が全てラノベの主人公みたいに彼女って設定ならそら嬉しかったけどな。現実はそうじゃないんだよ! ポルパロング改めバカロング。
 
 目の前の歪んだ笑みに対して溜め息をする中――、

「さあ、入ってくるんだ」
 嬉々とした声で呼ぶんじゃないよ。

「やめてよ……」
 力なく拒否する発言をしたところで、目の前の馬鹿は謙遜は不要と返してくる。
 
 せめて俺が一人の時に呼べよ!
 こんな女性陣が多いところで呼ぶなよバカロング!
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