異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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トール師になる

PHASE-1089【ずらかり方は一級】

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「よし! もっと経験を積まないとな。二刀流向上のために、お宅等にはまだまだ付き合ってもらうから」

「ひぃ!」

「おら! 軟弱な声を上げるな! 俺の弟子達はお宅等と違って子供だけど、裂帛な気合いで木剣、木刀を振るぞ!」

「だ、黙れ! その弟子がいる村がどうなってもいいのか! 連絡を入れれば直ぐに実行に移るぞ!」
 常套な脅し文句だな。
 でも俺は構わず近くの私兵に残火の峰を叩き込む。

「ゆ、勇者! 気でも狂ったか! 弟子だけではないぞ。村の者達が――」

「やってみろよ」

「……へ?」

「いいから連絡入れてみろよ。もし実行に移れば村付近で待機している連中は、こんな事ならこの屋敷の方が良かったって強い後悔を抱くだろうさ」

「な、なな何を言っている!」

「声が震えてるぞ。実行すれば分かることだよ。ここで痛い目に遭うよりも酷い目に遭うだろうな。体の関節を外しまくるの得意だし。万国ビックリショーも仰天の軟体エルフが出来上がることだろうさ。以前は海賊を軟体人間にした実績もあるしな。村付近の連中には同情する。俺を相手にした方が遙かにマシだからな。まあ、ふざけた脅しをしてくるお前はむかつくので全力でしばくけど――ね!」
 言葉尻を気迫として、脅してきたエルフの顔面へと目がけて残火の峰を叩き込んでやる。
 左頬に直撃した一撃で軽々と吹き飛び、階段を激しく転がり落ちていく。

「次にふざけた事を言いたいヤツは?」
 ゆらりと歩めばそれだけで私兵達は呑まれる。
 この程度の連中なら竦ませる事が出来るくらいには俺も強くなったね。

「弟子達が思うような強い師匠像を維持しないといけないからな。その為にもしっかりと成長しないといけないんだ。なので――さあ! 我が経験値たちよ。臆せず来んかい!」
 強気のノーガードスタイルにて更に強い足踏みで接近。

「ほら見たことか! 勇者なんかに手を出すからこういったことになる。俺は嫌だったんだ!」

「へ?」

「全くだ! 冗談じゃない。俺は抜けさせてもらう」

「ちょっと!?」
 違う違う。挑んでこいよ。
 及び腰から一気に逃げ腰じゃないか。
 
 ――……一人が二人、二人が四人と不満を漏らせば、不満のシュプレヒコールとな
り、私兵の殆どがこっちに対して戦意を失っていく。
 あれ? 上級私兵とは?
 いや、それだと困るんだよ。

「逃げずに戦ってくおれよ~」

「ひぃっ!」
 いや……、戦闘狂に出くわしたかのような怯えた目で俺を見るんじゃないよ。
 そういった目は野太刀を持った薩摩者に向けなさい。
 俺はパーティー内だとまだまだの存在なんだからな。
 挑む気骨を見せてくれ。悠久の時間の中で培ってきた戦闘スキルってのを見せてくれよ。
 数の強味で威張ってた時に戻ってほしいけど、このままだと逃げそうなので――、

「リン。包囲をお願いします」

「はいはい」
 フィンガースナップ一つでエルフ達を囲うように床に魔法陣が顕現。

 そこより現れるのは、

「エ、エルダースケルトンだと!? しかもなんだこの数は!」
 一人が叫べば、全体に恐怖が伝播する。
 いっても数はまだお宅等の方が多いよ。
 包囲するのは五十ほどのエルダースケルトン。
 数で勝っていても、エルダー達から伝わってくる強者感に萎縮してしまっている。

 強者感を引き立てる立派な装備は、流線型からなるメタリックグレーの兜やブレストプレートなどの防具。
 腰に佩いたロングソードが収まる鞘。左手にはカイトシールド。
 漆黒のマントは左肩だけにかけたペリース。
 やはりペリースは格好いいな。

「――お呼びか?」

「逃がさないように包囲をお願いします」
 お願いすれば、

「心え――」

「ヒャァァァァァ――」
 情けない声を一人が発せばそれが唱和となり、私兵達は蜘蛛の子を散らし、二階から次々と飛び降りたり、側の扉を蹴破ってから逃げだす。
 ――……瞬く間に俺達の前からいなくなってしまった。

「……ああ……その……申し訳ない……」

「あ、いえ……」
 包囲が整う前に逃がしてしまったことに、一体が深々と頭を下げれば、それに残りのエルダースケルトンが続く。
 心なしか眼窩の緑光が薄まって弱々しかった。

「はぁぁ~。使えない」

「ぐぬぅ……」
 わざとらしくリンが言えば、立派な鎧を纏っているエルダースケルトン達が肩を落としてしまう。

「い、いいじゃねえかよ。お陰で殆どが逃げたんだから。有り難うございました」
 すかさずフォロー。
 本音はもっと経験を積みたいからしっかりと包囲はしてほしかった。
 いや、ここは私兵達の見事な脱兎っぷりを褒めるべきだな。
 それに経験を積む機会は失っていないから良しとしよう。

 俺が丁寧にお礼を言えば、眼窩の緑光が強い輝きになったように思える。
 精神耐性を有しているアンデッドとは思えない面々だ。
 ベルに恐れを抱くリンが使役していると思えば似たもの主従ではあるな。

「とりあえず残りが逃げ出さないように、エントランスホールと二階から続く各扉の封鎖をお願いできますか」

「任されよ」
 快活な返事はアンデッドとは思えないね。
 当たり前のように以前から会話はしてるけど、声帯がないスケルトン系ってどうやって喋ってるんだろう?

「ちょっと、私の指示に従うものでしょ」
 なんて事を思っていれば、一階からリンが不満げに語る。

「どのみち勇者殿がそう発せば主が同じことを発するのだろう? 簡略化せねば動きが鈍くなる」
 と、リンに返す当たり、即応に対して使えない発言をされた事への意趣返しといったところだろう。
 やはりこのアンデッドさん達――おもにエルダー以上のスケルトン達やリッチのコリンズさんは、リンとは主従関係ではあってもただの主従ではなく、独特なものを感じる。
 絶対的な支配というより、仲間としての関係性が窺えるな。
 支配ではなく絆。

「それで――勇者殿。残っている者達は殲滅するか?」
 眼窩の緑光が今度は暗めの緑となり、不気味さを帯びた輝きに変わる。
 抜かれた五十ほどのロングソードは、残ったエルフ達に向けられる。
 私兵とは違って、正規兵の者達は恐れてはいるがこの場に踏みとどまっている。
 
 一人が一歩前に出れば、

「今回は勇者殿に無様な姿は見せられませんので」
 サルタナやハウルーシ君の捜索時には俺やコクリコに邪魔あつかいされて、恥から顔を伏せていたけども、

「これはさっきまでの連中と違って手間取りそうだ」
 構える姿からして退くつもりはない様子。
 初対面の時とは違う。
 あの時の慚愧をここで俺達に立ち向かうことで吹っ切れさせようとしているようだ。
 
 お見事です。
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