異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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トール師になる

PHASE-1098【見下すのは一流。嫌がらせは超一流】

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「すまないな勇者殿。だが我らはアンデッド。既に死の存在。守る必要はなかったぞ」

「いやあるでしょうよ。一緒に戦っている時点で仲間だし、死んでいるとしても消滅はするんでしょ? それは嫌ですよ」

「おお……」
 なんか感心された。
 スケルトン達からの好感度が上がったような気がする。

「リン。エルダー達を戻してくれ」
 エルダークラスだとあの膂力を相手にするのはきついだろうからな。

「そうね。足手まといだし」

「おお……」
 俺に向けるのと同音だったけど、リンの発言に対しては哀愁があった。
 アンデッドの主殿は、もっとオブラートに包むということを学ぶべきだね。

「また頼みますよ」

「任されよ勇者殿。この命は勇者殿に捧げよう」
 胸元で剣を垂直に立てる剣礼をしつつ、魔法陣の中に消えていく。
 それに対して、既に死んでいるから命は捧げられないですけどね――。などと野暮なことは言わない。

「アンデッドに慕われる勇者などいてたまるものか。穢れし偽勇者め」
 縦口がこちらを小馬鹿にするように歪むのは斬新な表情だね。

「お前、今の自分の姿を鏡で見たことあるか? お前にだけは不浄やら穢れって言われたくはないね。もちろんその外見の事じゃないから、笑い方が気持ち悪いって事だから」

「言うわね~」

「でもトールに賛成」
 リンとシャルナの嘲笑による同調。
 もちろん嘲笑は目の前のデカブツに向けられてのもの。

 ――……。
 しじま――である。

「貴様等ァァァアァァア」
 小馬鹿にされたのが我慢できなかったようで、わずかな静寂を咆哮の如き叫びで打ち破るガグ。

 からの――、

「まだ残していたのか」
 口から吸い込んでいた黒炎はまだまだ余力があった。
 俺に向けられる黒炎の線上には守る対象もいなくなったので、アクセルで回避して背後を取る。
 
 巨体でありながらも動きは素早いが、いかに広々とした室内とはいえ、人間サイズと六、七メートルサイズとでは小回りの差は歴然。
 敏捷勝負となれば、人と大型怪物では明確な差が生まれる。

「おりゃ!」
 右手に持った残火による後ろ袈裟。

「グゥゥ!」
 獣のようなうめき声を上げる。
 やはり物理による攻撃は通る。
 体毛を越えてその下に隠れる筋肉へと届く感触が柄からしっかりと伝わってくる。

「おのれ!」
 器用に四本の腕による連撃で迎撃に出るので俺は後方に下がる。
 痛みを覚えたことが怒りにも繋がり、下がる俺を追撃。
 でも、俺に集中すると――、

「アッパーテンペスト」

「バーストフレア」
 シャルナとリンがガグの背後を狙い撃つ。
 巨体の左足より竜巻を起こしてバランスが崩されれば、背中が連続爆発に襲われる。
 常日頃から言い合いをする関係だが、連携はお見事。
 巨体のガグはバランスを崩して転ぶ。

「その程度の魔法が効くものかよ!」
 四つん這いのまま肩越しにて二人に強気発言。
 姿と発言が釣り合っていないが、発言どおり魔法によるダメージはしっかりと体毛によって防がれていた。
 ダークフレイムピラーもだったけど、リンの攻撃魔法を耐える体毛の魔法防御力はお世辞抜きで凄い。
 でもね。痛痒がなく得意げになるのはいいけども――、

「別にダメージを狙っての魔法じゃねえよ――ブレイズ」
 魔法が効きにくいってのはダメージに対するものであって、搦め手のような使用だと十分に威力が発揮されるのは、その四つん這いの姿からも分かるというもの。
 アッパーテンペストでバランスを崩し、続く背後への連続爆発の衝撃は巨体を転ばせるのが目的だからね。
 
 普段は言い合う二人であるけど連携はお見事。なら俺も二人の考えを理解して動かないと申し訳ない。
 ガグが転ぶと同時に跳躍し、姿勢を整える前に、

「縦に裂けた口をもっと広げてやる!」
 の、気概と共に唐竹割りを見舞う。
 が――、

「うん……まあ、及第点ってことで!」
 と、自己採点をしつつ着地をする側では、

「ギャァァァァァァア!」
 叫び声。
 それとほぼ同時にドサリと大きな音。
 口を更に大きくしてやることは出来なかったけど、腕を一本奪う事には成功。
 如何に強固な体毛と強靱な肉体であろうとも、炎を纏った残火の前ではその力は発揮できなかったようだ。

「勇者ぁぁぁあ!」
 残りの腕を大きく振り回す姿はだだをこねる子供のようでもある。

「どりゃ!」
 それらを躱しながら反撃。
 その間にもシャルナが嫌がらせとばかりのアッパーテンペストをガグの足元に発生させてバランスを崩してくれるから、相手の連撃は脅威ではない。

「ふんすっ!」
 今度は片足に目がけて横一文字。
 悲鳴を上げて倒れ込む。
 断つことは出来なかったけども深手。
 踵を返して残火とエドワードによる二振りでの追撃をしようとするところで、

「ヒール!」
 の魔法名で俺は迎撃を中断。

「流石。姿は変わってもハイエルフ」
 両断されなければ問題はないとばかりに、ガグがダメージを受けた箇所を即治癒。

 回復を許しても、現状の姿勢から立つことは許さないとばかりに、四つん這いなガグに対して、シャルナがアッパーテンペストを発動すれば、リンも蠱惑な笑みを浮かべて同様の魔法を使用する。

「ええい!」
 最早、嫌がらせのレベル。
 姿勢を整えようとするところに、魔法で阻害を受ければ鬱陶しいことこの上ないはずだ。
 しかも二人の内一人は嫌がらせに関しては、内のパーティーで随一だからな。

「ほら、アッパーテンペスト」
 と、繰り返し使用しては、ガグの姿勢が崩れる度に嘲笑を放つ……。
 女王様気質ですな。
 ドSですわ。
 エルダーの皆さん先に帰ってよかったね。
 今のリンは初見だと悪役にしか見えない。
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