異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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PHASE-1146【ゆっくりと治してもらいたい】

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「へ~。ブーステッドを扱いきれるようね」

「ちょっとだけだ。長時間の使用は出来ない」
 別にフルで使えるってブラフでもよかったんだろうけどな。
 イキリまる出しな勘違いの考えを持っていたさっきまでの俺を自分自身でぶん殴って否定した事もあってか、隠すことなく素直に答えてしまった。

「正直すぎるのは――やはり馬鹿だから?」

「別にそう思ってくれてもいいさ。自分の中での反省だよ反省。なので全力で戦わせてもらうよ。女性だろうともね」

「それはさっき聞いたわね」
 なんかベルやリンに似たような佇まいだな。
 強者感が出てる。
 現状だとまだ脅威を感じるレベルではないけども。
 ブラフなのか――な?

「……お、お待ちを……」

「ええ……」
 立たないでくださいよ……。ルーシャンナルさん。

「貴男じゃ俺には勝てませんよ。もう寝ていてください」

「そうはいきません……ね。この……た、戦いに勝たなけれっば……、この国が貴男と仲間達によって滅ぼされてしまう……」
 また訳の分からんことを……。

「フル・ギルっていう魔法は、どういった事を精神に及ぼすんだろうな」

「適当な事を告げれば後は適当に自分の中で話を拡大解釈したり、偏向したものに変える便利な精神支配魔法よ。術者が解除する。術者を倒す。術者以上の力で呪解する。これらの条件を達成することで支配下に置かれた者は解放される。貴男がブーステッド使用の実力を正直に話したから、私も話してあげたわよ」
 よしっ!

「感謝するよ。それが聞ければ手加減なしだ!」
 余裕の笑みをぶん殴って歪めてやる! 例え美人であっても心が歪んでいるのなら、その性根をしっかりと修正してやる。
 拳で済ませるって発想が俺の甘さかもしれないけども。
 全力で顔面を――殴る。

「烈火でな!」
 弱烈火を左の籠手前面に顕現させてラピッドで一足飛び。

「やらせませんよ! リンファ様もこの国も!」
 気骨ある発言を体現するように、俺と偽者を遮る――というより完全に偽者の盾として立ち塞がる。
 ルーシャンナルさんには悪いけども――、

「止まりませんよ」

「対応してみせます! リンファ様」
 だから違うんですよ。
 ――……支配されている当人にとっては本物なんだろうな……。

「ええい!」
 右に持った残火を返し、峰打ちにて横薙ぎ一閃。これでダウンさせて、続けざまに偽者に烈火をと考えていた矢先――、

「!? かぁ…………」
 ルーシャンナルさんが苦しみの声を上げる。
 同時に腹部から鋭利なモノが突如として生えてきたようにも見えた。
 その正体は――硬化された鋭利な泥。
 背後からルーシャンナルさんを貫いた泥の槍は勢いが衰えず、俺へと目がけて先端が伸びてくる。

「テメーッ! やりやがったな!」
 偽者へと使用したかった烈火を泥の槍へと叩き込んで破壊。
 直ぐさま本来の目標へと目を向ければ、先ほど以上に不気味な笑みを湛え、腕組みをしたままの不動の姿。

「くそっ!」
 即座にルーシャンナルさんを槍から解放し、抱きかかえて偽者から距離を取る。
 雑嚢から白磁の小瓶を取り出し、コルク栓をはじき飛ばしてからルーシャンナルさんの腹部へとポーションをかける。

「すみませんね。ただのポーションで」
 寝かせたルーシャンナルさんに謝罪するも返事はない。
 首に指を当てれば脈はあるし、かすかだけど呼吸音もある。
 本来なら即、効果が出るハイポーションを使用するべきなんだろうが、回復して直ぐさまこちらに再び攻撃を仕掛けられても困るというもの。

 フル・ギルの支配下にある以上、攻撃を繰り返されれば偽者討伐の阻害にしかならない。それはゴメンだからな。
 時間はかかるけどもポーションで回復してもらうしかない。
 まあ、回復魔法を使用されたらそれまでだけども、今のところ意識が飛んでいるからそれはない。    
 お互いにとって不幸中の幸いってところだ。

「ケチなのね。即効性のない回復アイテムを使用するなんて」

「直ぐに動けるようになられるのも困るんでね。お宅にとってはどっちを選んでもおいしいんだろうけど」
 どのみち回復アイテムを一つ消費させたって事になるからな。
 ルーシャンナルさんにはゆっくりと回復してもらって、意識が戻る前に目の前の偽者を倒せばいいだけだ。

 こいつが本当にフル・ギルの使い手なら倒して解除させるし、違うなら真の使用者のところまで案内させるだけ。
 どう考えても目の前の偽者の実力からして、後者のルートになりそうだけどな。
 
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