異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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PHASE-1145【凡人が調子に乗るな】

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「この人を行動不能にしたら次はお前だからな!」

「あら怖い。女に対してその言い様」
 怖いとか言いながら余裕の笑みは崩さないよな。
 ルーシャンナルさん以上の強者として認定し、手加減なしで相手をしてやる。

「こちらを無視するのは!」

「分かってますよ」
 頭部を狙った鋭い横薙ぎには身を屈めつつ躱し、立ち上がりの勢いを利用してのアッパーを顎へと見舞おうとするも、中高の顔を上へと向けての回避行動。
 俺の拳が顎先ギリギリのところで空を切ると、俺の脇腹に衝撃が走る。

「おう!?」
 思わず驚きの声を上げる。
 カウンターでルーシャンナルさんの膝蹴りを喰らってしまう。

「入りましたね」

「入りましたね」
 笑みによるオウム返しで応じる。
 衝撃はあったけどもダメージはない。
 剣技と矢。魔法は素晴らしいけど――、

「徒手空拳は――」

「ええ、苦手です。ですがダメージはあってもいいでしょうに」
 生身ならダメージを受けているだろうけど、肉体強化であるタフネスと地力向上のストレンクスンは発動しているし、火龍の鎧を装備していれば大抵のダメージは防げるからね。
 
 まあ――反省もしっかりとするけどさ。

「喰らったことが問題ですからね」

「その通りです!」
 次は鎧を貫くとばかりの気概にて、刺突による剣技を見せてくる。
 流石にそれは喰らってやれないので、迫る切っ先は残火の鎬で捌き、続けざまの上段に迫る蹴撃は火龍の籠手で受け流しての対応。

 やれやれだね……。

 十分に対処できる相手だとはいえ、強者であるルーシャンナルさんを相手とするとなると、力を抑えながら戦うのは骨が折れる。

 ――…………。
 ――……強者を相手に力を抑える?
 誰が? この俺が?
 ――…………調子に乗るなとんこづくな

「ふんしょい!」

「んっ!? 何を!?」

「……痛いです」
 突如、俺が自分の顔面へと目がめて拳を叩き込んだもんだから、ルーシャンナルさんは驚きが原因で動きを止める。
 涙目になりつつ足の止まった相手の後方を見れば、偽者も目を大きく見開き驚いた表情になっていた。

「で、何がしたいのかしら?」
 驚いた表情の偽者だったが、次には気怠そうな呆れ口調でそう発する。

「俺のアホさ加減にムカついたからだよ」

「アホなのはいつもの事なのでしょう? 確か――コクリコという少女が言っていたようだけど? 正解かしら?」

「不正解。あいつにはアホだけでなく、馬鹿だのマヌケだのとさんざっぱら言われているからな。そこまで言ってもらわないと」

「悲しいわね」

「うるさいよ」
 まったく!
 だがこの場にコクリコがいればボロッカスに言われてたし、ベルやゲッコーさんがいたら戦いが終わった後、間違いなく特別指導が入るだろう。
 なんだよ! 力を抑えながら戦うとか!!
 後ろの偽者に力を全て見せるわけにはいかないから、目の前の強者には手を抜いて戦うとか――さ!
 完全に勘違い凡人のイキリ馬鹿ムーブじゃねえか!
 
 ポルパロング邸からの連戦に次ぐ連戦で、そこそこ優位な状態で勝利を得てきたことで俺TUEEEEEEE! って勘違いが心底で芽生えていたようだな。
 指摘するスパルタ二人や仲間が側にいないと馬鹿ムーブを発動するんだからな。
 本当に! さっきまでの俺を本気で殴ってやりたいよ。
 と、思った矢先に本当に自分自身を殴ってしまったけども……。

「動きが止まって――!?」
 突っ立っているだけだと判断したルーシャンナルさんは、わざわざそれを声に出して指摘してくれるんだからね。
 優しいことですよ。
 なのでブーステッドを一瞬だけ使用しての中烈火を接近してくるルーシャンナルさんの腹部に叩き込んであげた。
 
 ルーシャンナルさんの目であっても俺の動きを捕捉は出来なかったようで、もろに腹部へと喰らえば。上体を守る鎧の存在なんて意味が無いばかりに、体をくの字にして俺から勢いよく離れていく。

 吹き飛ばされ、地面に激しく体を打ち付けながら停止する位置では、偽者が嘲りながら佇む。
 嘲りつつも、こちらの手の内の一つをしっかりと目に収めていた。
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