異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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PHASE-1147【第二陣も有能さん】

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「さて――」

「勇者殿!」
 やるか――と、続けようとしたところで背後から俺を呼ぶ声。
 強い声音ではあるけども敵意は感じない。
 前方の美人に警戒しつつ肩越しに瞥見。
 俺の後方に立ち、会釈をしてから簡潔な説明をしてくれる。
 視察隊の鏑矢による報せによって参じてくれたのは、外周防御壁で待機していた第二陣の方々。

「この状況は? なぜルーシャンナル殿が倒れ、リンファ様がおられる」
 先発の方々とは合流しないままにここに来たようだね。
 派手な音がしていた方に真っ先に来るのは当然か。

「よく来ていただきました。勇者様がご乱心です」
 よくもまあいけしゃあしゃあと嘘が言えるもんだよ。
 最初から見ていれば嘘ってのは分かるんだけども、偽者の真に迫った演技は説得力がある。
 恐れを貼り付けた表情の裏側と心底では、不気味に口端を上げた笑みを湛えているんだろうけどさ。
 
「勇者殿――が?」

「当然。そんな訳はないんですけどね」
 こういった時は落ち着き払って返さないとね。
 必死になったらそれこそ嘘くさくなるからな。
 視察隊の皆さんが回復を済ませて合流してくれれば問題ないんだろうけどね。

「騙されないでください。私はご乱心の勇者様に攫われここまで連れてこられました。ルーシャンナルはそんな私を助け出そうとして、勇者様にやられてしまったのです」
 おおう……。
 先発だった視察隊に、城仕えのリンファ様がこの様な場所にいることに疑念を抱くってツッコまれていたけど、第二陣の面々にその部分をツッコまれないように無理矢理に整合性をとってきた感じだな。
 まあ、その発言を視察隊にも出来ていれば――、

「リンファ様……勇者殿…………」
 第二陣の方々のように困惑してたことでしょうよ。
 困惑はするものの、リンファさんの発言を真に受けることはせず、様子見で踏みとどまってくれるのは素晴らしいですけどね。
 
 流石は――、

「ルミナングスさんの部下さんですよ」
 状況をしっかりと把握しない限り、手にした弓矢を俺へと向けて使用するといった事はしない。

「なぜ攻撃をしないのですか。私も協力しますので共に!」
 偽者がせっつかせるように伝え、マッドバインドを発動。
 これを使用して勇者殿を牽制するから、その隙に攻撃をと続ける。
 発言に対して第二陣の面々はせっつかされることもなく――、

「理解しました――」
 と、一人が代表して返事をすれば、矢を番え、弦を引く。
 弦楽器を思わせる小気味のいい音が弦より奏でられ――、

「どういうつもりです?」
 偽者にしっかりと照準を定めた。

「どうもこうもない!」
 強い語気にて返すのは現着したエルフ兵の中で中央に立つエルフさん。
 首を傾げて問うた存在に返すのを合図に、残りの面々も矢を一斉に偽者へと向ける。

「なぜ私に向けるのでしょう?」

「勇者殿が脅威ではなく、貴様が脅威だからだ」
 返しつつ、中央のエルフさんが一矢を放てば、鋭い風切り音を発しながら頭部へと目がけて飛んでいく。
 ――だが当たることはない。
 偽者の目の前に現れた硬化した泥の壁によって防がれる。

「姿は似せても魔法までは似せることは出来ないようだな」

「あら? そうなの」

「確かにリンファ様は大地系も使用できるが、得意とされる風系を主に使用される。似せるなら風魔法を使用するべきだったな」

「それだけで偽者と決めつけるなんて……ひどいわね……」

「くどいぞ!」
 中央のエルフさんに続いて残りの面々も矢を放つが、必中のコースであっても直ぐさま泥の障壁に防がれる。

「ルーシャンナル殿に使用された魔法からも分かるというものだ」
 と、ここで別の一人が口を開く。
 ルーシャンナルさんの腹部にはネイコスの残滓を含んだ泥が付着しており、マッドメンヒルなどの攻撃を受けた可能性があると指摘する。
 更にもう一人が、偽者が顕現させたマッドバインドと障壁から、残滓と同様のネイコスを感じ取ったと追加。

「念のためですが勇者殿。大地系の魔法は?」

「地龍からもらった曲玉でミスリルゴーレムは召喚できますけど、大地系はからっきしです」
 胸を張って堂々と情けない返答をする。

「勇者ならせめて火、水、風、大地の四元素魔法くらいは扱えないと駄目でしょうに」
 クツクツと嗤い、馬鹿にする姿にはやはり余裕がある。
 偽者だとバレたところでどうでもいいといった感じ。
 このやり取り自体がこちらをおちょくってただけの戯れってやつかな。
 それと時間稼ぎもしてるってところだな。 

「さあ、リンファ様の姿をした者よ。その正体を現してもらおう。勇者殿、第一陣は?」
 目の前の偽者を捕縛しようとしたところで反撃にあい、戦いを一時離脱していると伝えれば油断ならない相手と判断。
 
 加えてこのやり取りで時間を稼ぎ、増援としてミストウルフの群れをここに合流させようとしていると伝えれば、即、制圧と判断。
 矢による攻撃から、各人が魔法による攻撃へと変更。
 中位以上を使用すれば、泥の壁を容易く破壊し偽者へ――、

「ちょっとこの状態だと……ね」
 と、零しながらの回避一択。

「この状態と発した時点で確定だ。物証はもう必要ないが念のためだ。我々の名前を言ってみろ」

「――さあ。知るわけないでしょう。その他大勢なんて」

「だろうな。本物のリンファ様ならば我々の名を全て覚えている。ファロンド家に使える正規兵の名は全てだ」
 それは凄い記憶力ですね。
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