異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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トール師になる

PHASE-1162【破壊者】

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 直撃を目にすれば自然と拳を握ってのガッツポーズを作ってしまうけども、残心は忘れない。
 やったか!? なんてコクリコみたいなフラグはおっ立てない。
 というか、使ってほしかったという発言から絶対に何かある。
 直撃させたと油断して背後からってのも超速移動を可能とするこの世界ならあり得るからな。
 
 縮地を警戒するため正面を意識しつつも周囲を素早く確認――問題なし。
 轟音を奏でる瀑布は今も地面へと降り注ぐ。
 大地を穿つ勢いある水流の直撃には耐えることは難しいだろう。
 障壁魔法を使用したとしても、地形を容易く変化させる大魔法の直撃にダメージを受けないということはあり得ない。
 ――……はずなんだけども、効果はないだろうと判断している俺もいる。

「いい威力だ。詠唱破棄スペルキャンセルでここまでの威力を発揮させられるのは実に素晴らしいぞ。この魔法だけなら勇者と名乗ってもいい」

「ああ……そうですか」
 嫌な予想ほど的中する……。
 瀑布の中心地よりしっかりと声が聞こえてきた。
 水流が生み出す轟音すらもかき消す声には苦痛も焦燥もない。快活そのもの。   
 俺の大魔法を端から受け止めるだけの自信があった事が伝わるものだった。

 ――徐々に水流が弱まっていく中、金色の髪と四尾をわずかに水で濡らす美人が立つ位置は直撃前と変わらない。
 一歩も動く事なく、泥パックに覆われた左手を掲げた姿で立っている。
 激しいものから白糸となる滝の水によって確認することが出来たのは、霧状となった水が左手を避けるようにして地面へと流れていたこと。

 周辺の下生えは流され、大地も大きく穿たれている。
 地面に隠れていた巨木の根もしっかりと露出している状態。
 なのにデミタスの立つ場所だけはほぼ変わりがない。
 そこだけ何も起こらなかったとばかりに下生えの残った大地を維持している。
 
「素晴らしくはあったが、お前が有する最大の魔法であっても私には届かないというのが立証されたわけだ」
 掲げていた左手を腰元に当てつつ、こちらを見上げた次には俺の視界から姿を消す。
 その瞬間、俺は枝から枝へと飛び移る。
 次には後方で俺の立っていた枝が粉砕された。
 右手に持ったフランベルジュではなく左手による攻撃。
 あの左手による貫手の粉砕は異常だ。
 スプリームフォールによる瀑布もあの左手で防いだようだし。
 残火の刃を受け止め、巨木の幹に大穴を開け、大魔法を防ぎ、枝を粉砕。

「左手の種をそろそろ教えて欲しいね」

「大魔法だ。お前と同じ詠唱破棄スペルキャンセルによる大魔法だ」

「にしては派手さがないな」

「派手さばかりが大魔法ではない。特に大地系は見た目が地味だから余計にそう思われる」

「地龍の前でそれは言ってやるなよ。間違いなく傷つくから」
 自分自身でも地味だって自覚していたからな。

「分かった。それは肝に銘じておこう」
 あらそこは素直。

「私が使用しているのは大地系とわずかな風系を併用した大魔法だ。名をデヴァステイターという」

「名前からしておっかない。合体してなんでも吸い込んで破壊しそうだ」

「吸い込みはしないが触れる対象を全て破壊する」
 手の周囲に風の膜を生み出し、そこに大地系からの超振動を発生させるという。
 内容だけきくとSF浪漫があるね。
 超振動って単語に俺の琴線が触れまくってるし。

 でも――、

「対象を全て破壊は誇張しすぎだな」

「確かに」
 チラリと俺を見る。
 視線は俺が手にする残火や籠手。
 残火を受け止めたことは出来ても破壊は出来なかったし、籠手も破壊できなかったからな。

「まだまだ私の力も発展途上ということだ」
 マッドアーマーとハイガード。
 マッドアーマーは初耳だが左手の泥パックがソレだろう。
 ハイガードは以前にガリオンが使用していた大地系の中位魔法だったな。
 二重の魔法で体を保護しないとデヴァステイターを維持するのは難しいそうだ。
 で、連続使用は難しいそうで、一度使用すればクールタイムが必要とまで説明してくれる。
 なるほどな。貫手と併用して蹴りを使用してきたのはクールタイムの穴埋めって事か。

「丁寧な説明ありがとう」

「死ぬ前に知りたい事は教えてやるだけだ」
 死にたくはないので――、

「スプリームフォール」

「受けてやろう」
 一度受け止めたからな。余裕綽々で返してくる。
 クールタイムは必要と言っていたが、この短い会話の中で再使用できる訳だから使い勝手はいいようだ。

 ――当然ながら俺が顕現させた瀑布はしっかりと防ぐという芸当。
 通用しないのは理解していたので別目的として使用させてもらった。
 瀑布によって視界を遮り、それに乗じて背後へと回り――、

「ブーステッド」
 瀑布の勢いが弱まったところで肉体強化の上限突破と共にアクセルを使用し、デミタスへと向かって枝を勢いよく蹴っての跳躍。
 ブーステッド使用状態だとアクセルの移動から一気に連撃に繋げる事が可能なのが強味。
 狙うは当然――背中。
 勇者が背後からってのは恰好の悪いことだけども……。

「がぁ!?」
 ――…………例えるならゴムまりだな……。
 デミタスの背に斬撃が触れるところで俺の体が勢いよく吹き飛ばされる。

「ぶっ!?」
 追撃を恐れて素早く立ち上がり枝へと着地するも、視界がぼやけた。
 おまけに内蔵をやられたようで、口から血を吐いてしまう。
 ――……吐血とか初めての経験じゃないの?
 今までも死にかけた戦いはあったけど、これは初めてだな。
 プレイギアを取り出して回復箱を召喚する余裕はないので、雑嚢から素早くハイポーションを手にとって一気に呷る。
 口に残った血も一緒に飲み込んだからか、生臭さと鉄の味が混ざって吐きそうになった。
 すげえ威力だよ……。
 払うような動作による左手が腹部に触れただけでこのダメージだ……。
 分厚い籠手で受け止めた時でも体に電流が走るような激痛だったが、そこ以外に直撃となれば致命傷だな。触れた程度でこれなんだから……。

「残念、届かず。ブーステッドとアクセルの組み合わせによる斬撃には些かだが肝が冷えた。それ以上にわずかだけど躊躇したようね。背後からの一太刀は勇者としてどうなのか? という葛藤が邪魔をしたのかしら」
 本当に……聡い美人だよ……。

「リ、リンファさんの姿の状態で倒そうとした時は……、格下の相手を倒すのは勇者として恰好の悪い絵面みたいな事を言われたからな……」
 なんて強がりで返してみても虚しいだけだな。
 今は俺の方が遙かに格下だってのに……。

「……ちゅ、躊躇はあったけども、こっちとしては……上手い具合に背後を取ったと思ったんだけどな……」
 喘鳴の中で継げば、

「要塞での初対面の時に気付いてほしかったわね。以前の私は後衛担当。前衛である司令を支えるのが主な役割」

「うちのまな板にも聞かせてやりたいね」
 よし! 流石はハイポーション様。十全ではないけど動けるまでにはなった。

「中でも私は探知に特化していてね。特に四尾になってからはその力も大いに増している」

「そういった事は前もって言ってほしかった」

「それは失礼。ならば前もって言いましょう。防御壁に覆われた霧を通過してこちらに数人が近づいて来ている。私にとって脅威が迫っているみたいね。なので決着をつけるわよ」
 ならここで耐えれば何とかなる?
 ――って……、どう考えてもそれまでに俺がやられるか……。

「くぅ!?」
 決着をつけると言った途端に鋭い移動からの攻撃に移行してくるね。
 自身の身長を超えるフランベルジュを右手で容易く振り回しながら、左手のデヴァステイターという大魔法の貫手による一撃。
 どちらもまともに喰らえば即死確定だし、後者に至ってはガードしても体に衝撃が伝わるやっかいな魔法。
 ベルの衝撃貫通スキルを思わせる攻撃だからな。
 指導時のベルのと違って、威力に可愛げはないけど。

「考え事か? 余裕がある」

「今後の対策を必死に考えているんだよ」

「ならば考えなくていいようにしてやる」

「ひぃ!」

「勇者が情けない声を出すな」
 だったらこちらに脅威になるような攻撃を仕掛けないでいただきたい。
 アクセルで距離を取りつつ巨木の影に身を潜める……も。

「そこっ!」
 と、巨木ごと俺を断ち切る勢いで背後から長剣が振られる。
 隠れたとしても感知される。
 尚且つレッドキャップスに共通する深紅の瞳は闇夜と遠距離を見渡す能力。ビジョンをパッシブスキルで使用可能のようなものだからな。
 感知と深紅の瞳。これに縮地だ。
 逃げるなんて無理……。
 
 だが――、

「逃げるか」
 枝を蹴りつつの樹上移動を行えばデミタスはついてくる。

「――どうしたの? 壁から離れているようだけど」
 と、背中に届く声は余裕そのもの。
 反面こっちはセラとは違った死神然とした死神の大鎌が首に当てられている気分だよ。
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