異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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トール師になる

PHASE-1163【息を殺せ】

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「本当にどうしたの? 気でも違ったのかしら? 逃げるのは逆方向だろうに」
 続く声音も余裕に染まっている。
 まあ当然だろう。離れた方がデミタスにとってはいいわけだからな。
 
 こっちとしてはその精神的なゆとりの生まれにかけさせてもらったわけだけど――。
 
 これが防御壁の方へと逃げ出していれば、全力で俺を仕留めにきたはずだろう。
 でも防御壁から離れれば自然と心に余裕も出来るもんだよな。
 逆に俺は余裕なんて一切ないけど……。
 エルフの国と逆方向に逃げている時点で一人で解決しないといけない。

「それともなに? やはり保護者に泣きつくのかしら?」
 挑発的な発言は裏を返せば召喚するなという考えなのは分かってんだよ!
 何回も言わなくても分かってるっての!

「違う!」
 なのでそこはしっかりと乗ってやるよ。
 命がかかっている中で、あの二人に頼りたくないってのが俺に芽生えているのが嬉しいようなバカなような……。
 本来なら頼って当然のレベルの相手なんだけどな……。

 だが――少しは光明も見えた。
 
 エルフの国から離れていくにつれデミタスの追撃がさっきよりも間延びしたものに変わっている。
 こちらへと近づいていた脅威から離れることが出来る事からの余裕――という名の油断。
 いつでも縮地で捕らえる事が出来る状況でそれをしないのがよい証拠だ。
 圧倒的な強者としての立ち振る舞いが敗北に繋がることを教えてやる!

 ――!

「あそこなら!」
 樹上移動をしつつ開けた場所をビジョンによって捕捉する。
 後はあそこまで移動して準備するだけ。
 俺の経験が正しいならこれでデミタスの虚を衝くことが出来ると確信している。

「スプリームフォール」

「無駄」
 デミタスの頭上から瀑布を三度、叩き落とすけども左手のデヴァステイターによって防いでいるのを肩越しに確認。
 縮地で距離を縮めることをせずに防ぐ事を選択したことを後悔するがいいさ。
 
 ここでアクセルを使用。木々をかき分けるようなイメージで一気に開けた場所まで到達。
 広いだけでなく、崖もある風景。
 落ちたらまず助からない高さの崖付近に向かって俺はプレイギアを向けて口を開いて発する――。
 
 ――巨大な輝きが生じ、俺は一気に中へと駆け込んだ。

「ふぅぅ~」
 プレッシャーを吐き出すような呼気を行い、続けて深い吸気を行う。

「さあ、俺。ここからだぞ」
 確信はしているけども、自身に芽生える確信を確実にするためにも、今できることに徹する。
 出来る事ってのは――息を殺して潜むということ。
 
 卑怯とは思わないでくれよデミタス。
 ベルとゲッコーさんを呼ばなかったことを敵ながらに評価してもらいたいところだ。
 
 ――――ドンッ! ダンッ! と、激しい開閉と侵入音は俺からわずかに遅れてのもの。

「なんとも小洒落たところに逃げ込んだわね。どうするつもり? この建物ごと側の崖へと落としてやってもいいのだけれど」
 それはやめて……。

「聞こえているのかしら? 大魔法による足止めから次の対応がまさかの家とはね。誘われてはいないけど勝手にお邪魔しているわよ。家主として闖入者をどういった趣向で出迎える?」
 俺に問いかけてはいるようだけども、俺は絶対に返事をしない。

「ねえ! 隠れようとも私から逃げることは不可能だというのは理解しているはずよ」
 ――などと言うわりにはドンッドンッ! と音を立てて建物の中を探索しているようだな。
 音の位置からして――今いるのはリビング辺りか。
 乱暴にソファやらを投げているような音がする。

「ええい!」
 段々と音が近づいて来ている。
 でも、俺の居場所までには気付いてないようだな。
 苛立ちからかモノに当たっているようだし。
 明らかに廊下の壁なんかが破壊されている音が聞こえる。
 かなりの感知タイプらしいが、やはりこの一帯は感知できないようだな。

「どこだ!」
 と、荒げる声だったが、ここで廊下からの気配が徐々に弱まり消えていく。
 同時に緊張感が俺を襲う。
 そんな中でも息を殺してひたすらに待つ。
 見つかってなるものか! と、恐怖と焦燥を打ち消すように念じつつ、ひたすらに自分の気配を殺す事に徹する。
 圧倒的な強者から勝利という奇跡を手繰り寄せるために。
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