異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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PHASE-1165【勝つなら正面からでありたい】

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「こそく……な……手……を……」
 家から外へと出る中、弱々しい声音ながらもこちらを蔑む発言をするデミタスの口からは、寒冷な夜気による白息――ではなく煙が上がる。
 体内に直接ダメージを与える炎を纏った残火の一突き。
 かなりのダメージを与えているようで、抵抗する余裕もなくひたすらに押されていくだけ。
 四尾も力なく垂れ下がっている。
 とんでもない膂力だけども、膂力からは考えられない程に体は軽量。
 故に押していくのに苦労はない。

「このまま!」
 突き刺していた残火を横に薙ぎる。

「がぅあぁぁ……」
 煙と一緒になってデミタスの口から血が噴き出す。
 灰色の煙とは別に飛散する吐血は血煙となり、背後に立つ俺にもかかる。

「ハァァァァァァァッ!」
 横への薙ぎから手首を返し、得意の上段に構えての振り下ろしは……後ろ袈裟によるもの。
 血煙とは違う色が月夜に新たに加わる。
 美しい金色の髪と尻尾の毛が血煙、鮮血と共に舞えば、月光に照らされてキラキラと輝いていた。
 
 攻撃を加える俺は気迫には漲っているが、裏腹、心の中では情けなさが広がる。
 なんとも恰好の悪い攻め方だ……。
 デミタスのような強者に対して俺が一人で相手をするとなると、こういった手段しかないのが現状。
 それが何とも情けない……。

 点検口で隠れ潜んでいる時、見つからないように祈っている姿を客観的に見れば恰好の悪いことだろう。
 運否天賦に身をまかせるとかじゃなく、正面から堂々と渡り合う強さが欲しい。
 ――それを得るには、目の前の難敵を倒さなければならない。
 じゃないと次の成長へと繋げられないから……。
  
 倒さなければならないと思う中で、心の中に引っかかるモノがどうしても取れない。
 魚の小骨が喉に刺さった時のような、チクチクとした鬱陶しさが心底に存在している。
 抜かないと自然と抜けるまで煩わしい痛みがあるヤツだ。
 しかも喉と違って精神面となれば、この煩わしさは小骨と違って抜けにくいんだろうな……。
 勝てば良かろうという思考の持ち主なら、勝利すれば全てが晴れやかってなるんだろうが……。
 小心者の俺はそういった切り替えが出来ない……。
 攻撃をしながらも葛藤がぶつかり合い、俺の動きに躊躇を生み出すことになる。
 強敵相手にこの逡巡は戦う者としてはあってはならない。
 トドメを刺す決意が固まらない中で、ふらつく足取りにてデミタスが俺から離れていく。
 致命傷であるはずなのに、未だに両足で立つ事も出来れば歩く事も出来るのは凄い。
 が、魔法を使用するための集中力はないようで、回復を行うという事はなく、とにかく俺から離れるために、白い軍服を鮮血で染め上げながら弱い足取りで距離を取っていく。
 一定の距離を取れば体を反転。俺の顔をしっかりと見て口を開くも――声は出ない。
 何かを言いたげではあるが、口の中の血が邪魔をしているのか言葉をうまく発する事は出来ないでいる。

 体は弱々しいが、眼光は鋭く生気があった。
 生気はあるも体力は限界だったようで、俺に向けていた体が仰臥の姿勢で倒れていく。
 倒れる先は――、

「ああもう!」
 デミタスの体が崖から落ちていく。
 それを見た瞬間、俺の体は勝手に動いていた。
 ――……なんでこんな事をしているのか……。
 強敵であり、コイツのせいでこの国は掻き乱された。
 魔王軍の中でも上位に入るであろう脅威対象なのだから、このまま崖へと落として仕留めればいいだけなのに……。
 後悔するものの、それ以上の後悔が勝った結果の動きだったのかもしれない。

「お……お、お前はやはり……ば、馬鹿なのだな」

「でしょうね」
 落ちていくデミタスの手をしっかりと掴む姿をこの戦いを最初から見ていた第三者がいるなら、間違いなくデミタスと同じような考えに至るだろうさ。

「戦い方も……あまい。大魔法の時も含めると……これで、に、二度目。好機である背後からをちゅう……ちょする……とは」

「もう喋るな。ああ、くそ! 力が入らない……」
 長めのブーステッドだった。
 瞬間的に出すだけなら何とか扱えるレベルにはなったけども、流石に今回は俺の有する使用限界を超えていたようだ。

「恥辱……は、なせ」

「お断りだ! あんな卑怯な不意打ちで勝ってしまえば勇者でもないし、弟子二人の師としても失格なんだよ。弟子達がどこに出しても恥ずかしくない師匠にならないといけない男が、強敵だったからコソコソと隠れて背後からとかクソじゃねえか! こんなんで勝っても成長なんてしない。むしろ退化だ。一生モノの後悔だよ。それにこんな勝ち方をすればスパルタ二人――特にベルに知られたら殺される……」

「面倒くさい……かん、がえだ……」

「敵であっても尊敬した相手はそうだったからな」
 デミタスのベレー帽を見つつの発言。

「お前ごときが司令を語るな」
 流石の忠誠心と言うべきか、ここでの声音は強く、言葉が詰まることがなかった。

「あ、やべ……」
 手に力が入らない。
 それにデミタスの手には血がベッタリとついており、それが原因で滑る……。

「再戦は……無しだ……な」

「ふざけんなよ」
 滑る手を強く握って根性で引き上げようとするも……、ブーステッドの反動はやはり大きい。
 必死に掴んで引き上げようとするも、

「もう……」
 無理とは絶対に口にしたくないが……、

「クソが……」
 弱音を吐き出したところで体が急に軽くなる。
 ――支えられている!?

「え!? 誰に!」

「ギャ、ギャア!」
 けたたましい鳴き声のような声は何度か耳にしている。
 その声に合わせてゴブリン達が俺の体を引き、上がってくるデミタスの腕を数人で掴むと一気に引き上げてくれた。
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