異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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トール師になる

PHASE-1189【最高の一振りを打ってね】

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「分かりました。師匠の装備に携わる方がいらっしゃった方が最高の物が制作できるでしょうからね。僕の木刀制作にも携わってくださいましたし」

「そうじゃろう! そうじゃろう!」
 ギムロンのテンションが爆上がりだな。

「ならば道具を用意しないとな」
 ここで二人と違って落ち着きのある前王が間に入る。

「ドワーフ王――ロジュン殿から友好の証として譲り受けた道具を使っていただこう」

「ロジュン!? か~これまた昔の名前が出てきたの~。今のダーダロス王の九代前ですの」

「私が王になって直ぐに友好を結んだ御方だ」

「三千年以上前の話ですな~。ワシは生まれてもいませんわい!」
 普通は誰も生まれていないよ。エルフだからだよ。でもって九代前ですんでるドワーフも大概だよ。
 
 ――前王様が若かりし頃。ロジュンというドワーフの王に金属の鍛錬、製造などの教えを受けたとの事だ。
 そういった関係を積み重ねたことで、エルフとドワーフは俺の知るファンタジー世界と違い、友好的な関係を構築していったわけだ。
 世界が違えば、歩んで行く道も違うって事だな。
 
「シャルナもそういった歴史があった事を言ってくれればよかったのにな」
 近くにいたので問えば、

「無理に決まってるじゃない。だって三千年以上前の話だからね。私まだ生まれてないから。何たって1905歳になったばかりだし」

「……ああ。そうだな……」
 本当にエルフと年代や歳の話をすると頭がおかしくなってくる……。

「で、前王殿よ。友好の証と言やあ」

「無論。アダマンタイトにより作られたドワーフの秘宝である槌――ゲンノウだ」

「それをワシに貸してくださるので!?」

「当然。最高の一振りをこの国の職人達と共に作ってくれ」
 ――――一時のしじまが生まれる。
 その中でギムロンはうつむく。
 そして――うつむいたままに樽のような体が徐々に震えていき、感情の臨界点が突破。

「イィィィィィィヤァァァァァァァァァ! フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウッ!!!!」
 本日最高の大音声を上げる。
 皆して耳を塞ぐ中、樽型ボディが小躍りを始め、喜びを体の中に留めようとばかりに酒をグビグビと飲んでいく。
 が、結局は酒の力も相まって、奇声と言ってもいい喜びの咆哮を上げ続けた。

「すげ~うるせぇ……」
 新たな王の誕生を祝う宴会の総評は――五月蠅いだった。

 ――――ふぃぃぃ~。

 ギムロンは昨晩の爆上がりなテンションを一切下げることなく、一睡もすることなくギンギンな目にて今日を迎えた。
 その目力には恐怖を感じた。
 そんな目に向かって、奇をてらうことなく普通のデザインの刀でお願いすると言えば、テンションは未だ馬鹿になっているようで、大音声でまかせろいと一言、俺の耳朶に届け、案内人のエルフさんと共に鍛冶場へと赴いていった。
 胴間声の大音声は戦いの場では頼りになるけども、平時ではキツいね。

 カーンッ、コーンッと、小気味のいい音で耳朶をリフレッシュさせてもらう。

「腰が入っていませんよ。素振りの時の姿勢は良いですが、動き出すと姿勢を維持できないようですね」
 ククリス村に赴いた俺とコクリコは、サルタナとハウルーシ君の稽古を見る。
 偉そうにコクリコが指摘しているけども、正しい事を言っているので俺は口を出さず、サルタナとハウルーシ君の対人稽古を見守る。

 ――ハウルーシ君の方が上手うわてなのは誰が見ても明らか。
 それくらいに二人の実力差には開きがあった。
 サルタナの攻撃を悉く捌くハウルーシ君。
 姿勢を崩してから隙が出来たところで打ち込むという後の手に精通していた。

「見事です」
 俺が思っていると、以心伝心とばかりにコクリコがしっかりと述べてくれる。
 まあ、そこは俺が言いたいんだけども……。

「悔しいな」
 と、言う割に清々しい表情と声音はサルタナの美点だな。
 上手の相手に対して嫉妬するのではなく、自分と相手の差をちゃんと理解し、どこが駄目だったのか? と、自分と向き合えるのは素晴らしい。

 口汚い言葉を発することなく、

「もう一回!」
 と、ハウルーシ君の強さを認めて挑む姿勢からは、今後の成長が期待できる事を予感させる。
 
 対するハウルーシ君も上手だからといって驕ることはない。
 正面から常に真剣に向かい合う。
 両者とも優れた逸材だ。

「いいじゃないか。妬まず、驕らずってのがちゃんと出来ている」

「師匠が言ったことですからね。嫉むな、お前が歩んでいく道だ。嘲るな、お前が歩んで来た道だ。この言葉の意味をしっかりと理解して精進するつもりです」

「つもりでは駄目です。精進しますに訂正しなさい」

「はい!」
 俺よりしっかりとコクリコが師匠しているじゃないか。
 そこも俺が言いたかったよ……。というか俺が言ったことにして。
 
 ――稽古を終え、サルタナのお母さんから水を頂く。
 コクリコはただ口を出していただけだが、二人よりも美味そうに水を呷っていた。            
 木々の隙間からわずかに見える空は黄昏時。
 あっという間に一日が経過したな。

「さて――」
 暗くなる前にハウルーシ君を集落に送ろうかな。
 それともこの村で一晩過ごすのかな? そういった行動が自由になっているからな。
 王となったエリスが即座に行ったのは、ダークエルフさん達が国中を自由に行動していいという権利を与えたこと。
 
 これに対して反論する声が上がるかとも予想されたが、氏族筆頭と精強な兵を有するルミナングスさんがエリスに賛同。
 そうなれば残りの氏族二人もそれに追従する。
 何より新たな王の妃がダークエルフの族長ともなれば強く出ることも出来ないからか、他の有力者たちは黙することに徹したようだ。
 後はそういった事で溜まっていく不満をどう抑え込む――のではなくスッキリと吐き出させるかはエリスの手腕だな。

「あの――勇者様」

「うん?」

「すみません考え事をしている最中に」

「気にしなくていいですよ。無口で考え事をしているトールは基本、色事しか考えていませんから」
 いや別にいいよ――と俺がハウルーシ君に返す前にコクリコが余計な事を言う。
 誰がエロい事を考えていると? この国の今後を考えている中で何ともふざけた事を言うヤツだ。
 なので拳骨を見舞ってやろうとすれば、お気に入りとなったアドンとサムソンを展開してくる。
 自分の周囲に浮かせ、いつでも迎え撃ってやるといった姿勢。
 不敵な笑みはかかってこいの挑発のつもりなんだろうが――、こちとらこの国で嫌と言うほど戦いをこなしてきたのでこれ以上はゴメン。
 むしろ当分、戦いなんてしたくない。
 なのでその挑発的な笑みはスルーする。

「で、なんだい?」
 ハウルーシ君に問えばモジモジとし始める。
 動きがエリスのような動きだったのでまさか彼女がいるのかと勘ぐってしまうが、ハウルーシ君の横ではサルタナが催促するように肘で彼を小突く。

 それに背中を押されたようで、意を決したように俺を見ると――、

「宜しければ僕を……」
 と、語末で声が小さくなるも、

「弟子にしていただきたいのですが!」
 と、力強く継いできた。
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