異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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発展と鍛錬

PHASE-1251【タプタプタプ――】

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「ゲッコーさん」
 と、問えば、

「ギムロン」
 と、俺の問いをそのままパス。

「ほいほい」
 と、ギムロンが手を伸ばせば、そこに酒蔵の主任を務めるミカルドさんが登場。
 登場と同時に帳面をギムロンへと手渡すという流れるようなやり取りは、ティキ・タカを思わせるパスプレーだった。

「――ほう。これは結構な量の受注だの。有り難いこっちゃ」

「どのくらい受けてんだ?」

「ハイポーションをちょっとと、ポーションとレッサーポーション――合わせて六百だの」

「ほへ~。いい収入になりそうだな。何よりもこの酒蔵がそれだけの数を直ぐに準備できて、受け渡しを可能としていることに驚く」

「じゃろう! しかも一箇所だけでこれだけだからの。他のとこのもちゃんと受け渡し可能なだけの生産も出来とる。いや~儲かるわい」
 ガハハッ――と、豪快に笑うギムロン。
 王都だけでなく、近隣や遠方の領地からの注文にも対応できるだけの生産を可能としているってのは、一年前の王都から考えるとありえないくらいに発展している。
 ハイポーションの大量生産は難しいようだけども、今までの半分の量で従来のモノと同じ効果があることから、ノーマルポーションとレッサーであっても、魅力的な商品として確固たる人気を獲得しているようだな。

「で、強引な商売をするクルーグ商会の大型馬車の車輪が壊れたことで好機ってのは?」

「連中は強引なやり方で我々の商売場所にまで入り込んだりもしていますからね。ですので今度はこっちが連中の商売先に食い込んでやりたいんです。そうすれば儲けることが出来るんでね」

「文句なんか言わせませんよ。自分たちがやってきた事をやられるだけなのですからね」
 先頭の二人が発せば、後に続く面々も「「「「そうだ、そうだ!」」」」と力強い声と首肯で呼応していた。
 ここまでクルーグ商会ってのが嫌われているとはね。
 方々ほうぼうで相当の恨みを買っている証拠だな。

「嫌っているようですね」
 心で思っていたことを声にも出してしまう。

「控えめに言って大嫌いですね。あの高慢ちきの跡取りハダン伯め!」

「お、おい……。流石に伯爵様の名を馴れ馴れしく言うものではないぞ。しかも公爵様の前で」
 先頭切ってここへとやって来た商人さんに、ミルド領のキャラバン商人さんが言葉を選べと注意しつつ、こちらを恐る恐る見てくる。

「かまうものか! 現公爵様は前公爵様の愚息をとっちめたんだろう。お宅もその話を耳にして胸がすくと喜んで言っていただろう」

「お、おい!」
 不敬罪で死罪になったらどうしてくれる! と、キャラバン商人さん。
 そんな事になるものか。と、目の前の商人さん。
 商魂だけでなく胆力もあるようで。
 目の前の二人のやり取りを目にするだけで、ロイル領のハダンって伯爵がカリオネルに似たタイプの傲岸不遜バカというのが想像できる。
 
 流石にカリオネルを超えるほどの馬鹿ではないだろうけど。
 この異世界を代表する馬鹿だからな。カリオネルは。
 似たタイプだとすれば面倒くさい人物であるのはまず間違いないだろう。
 カリオネルと決定的に違うのは、ちゃんと襲爵しているところか。

 目の前のやり取りから想像するのもいいが、ちゃんと我が目で見て判断しないとな。

「とにかく早く商品を受け取らせてください。連中がここへと来る前に各地へと移動したいので。ご迷惑をかけてしまっているので、その分の迷惑料も支払わせていただきます」

「そういう事なら急ごう。商売は誰よりも素早く行動に移した者が儲かるからな」

「さようです蔵元」

「といっても、こちらも注文を受けている以上、クルーグ商会にもちゃんと商品は渡すがね」

「それは当然でしょう。この酒蔵が利益を得るための行動として当たり前のことですからね」
 クルーグ商会ってのは俺達が王都にいない間もここを利用してくれているお得意様でもあるという。
 支払いの遅れなどもなく、購入と同時にきっちりと支払ってくれているので売り手側としては問題のない客。
 というか上客だとミカルドさん。
 
 商売人同士の商売合戦はまた俺達とは違うところでやってくれればいいだけだ。
 と、ゲッコーさんはいたって冷静に目の前の面々に対応する。
 これで酔っ払わないで対応していたら格好良かったんだけどね。
 
 商売人たちの戦いは勝手にやってもらうとしても、一応、ハダン伯ってのは覚えておいた方がいいかもな。
 第二のカリオネル登場だけは勘弁してほしいところだよ。
 可能ならば、気前の良いお得意様としての関係性でいられるといいんだけどな。
 
 発展はしているが、この王都の更なる発展のためにも多くの人材と財が必要なのは、一年前からぶれることのない喫緊の問題。
 対魔王軍の為にも俺個人だけでなく。この王都だけでなく。この大陸全体の成長が必要だ。
 
 ――――。

「――と、思いました」

「最後の方は子供の感想文みたいな言い様だな」

「ハハハハ――」

「なぜそんなに嘘くさく笑うんだ?」

「だって子供みたいにぬいぐるみのような愛玩生物を抱っこしている人物に言われたくないからね。子供みたいとは」

「う、うぅ……」
 まったくもってたまらんですな。
 普段は凜々しい美人様が見せる可愛い姿ってのはぐっとくるね。
 そのギャップ――――最高っす!
 眼福っす!
 酒蔵一帯の見学を終え、現在はギルドハウスの斜向かいにある建物へとお邪魔している。
 ランシェルも俺についてこようとしていたが、酒蔵からお邪魔したところでコトネさんにいい加減に側付きの使命に戻りなさい! と大目玉で連れて行かれた。
 有給などではなく、俺の側に居続けたかったのが理由だったようだ。
 嬉しいような、そうでないような感情に襲われたが、目の前のベルのギャップで全て上書きされました。

「勇者様~」

「おうゴロ太~」

「なっ!?」
 抱っこされたところから飛び出せば、可愛い足取りで俺の方へとやって来るゴロ太。
 頭内でキュキュという可愛い足音が余裕で再生される。
 で、俺の側に立てば踊り出す。
 以前に俺が地蹈鞴じたたらを踏んだ時に踊りと勘違いした時と同様の足踏みをニコニコの笑顔でしつつ、

「大活躍だね♪」

「おう、有り難うな」
 愛らしい姿に似合わない渋い声だが、一周してそれがいいと思えてくる。
 これもまたギャップってやつだな。

 称賛のお礼に頭を撫でれば、キャキャと可愛さのない声で可愛い声を上げてくれる。
 久しぶりのモフモフの肌触りは――実にいい。
 頭だけでなく、もっとも気になる部分にも手を伸ばす。
 マヨネーズ容器体型のお腹をタプタプタプ――と、優しくリズミカルに触れると、掌に伝わってくるのはモフモフでぷよぷよの感触。
 純白の体毛に手が沈んでいく心地よさと、柔らかな肉と温もりの心地よさ。
 このダブルの心地よさは極上だな。
 ベルが夢中になるわけだ。
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