異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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発展と鍛錬

PHASE-1250【嫌われ商会】

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「いずれはここのポーションとなんら遜色のないモノを作れる者達も出てくるかもしれんが、現状は負けてやる気はサラサラないな」
 と、酔っ払いさんは上機嫌に発する。
 そら負けない発言だって可能だよな。
 この酒蔵にて使用している蒸留技術ってのは、この世界の知識で生み出されたモノじゃないからね。
 ゲッコーさんが酒造りにこだわりたくて現代知識を使用し、ドワーフ達にそれを具現化させた酒蔵であり、蒸留所だからな。
 
 今ではS級さん達もいるからね。そういった方々の知識も更に組み込まれた事で、精製所なども新たに建てられたわけだし。
 この世界からすれば、ここの技術はオーバーテクノロジーと言っても過言じゃない。
 
 そのオーバーテクノロジーのお陰で、各地から商人が押し寄せての需要に繋がっているのは喜ばしい。
 ここは第三セクター的な場所だからな。利益が発生すれば、それだけギルドメンバーと王都兵の生活向上および装備の向上に繋がる。

「儲けさせてもらいましょう」

「――がっぽりと儲けよう」
 ゲッコーさんは口角を上げつつ、グラスを俺へと向けてから酒を一気に呷り、俺の発言に続いてくれる。
 共通するのは悪そうな笑みを浮かべているという事だろう。
 
 そんな最中に――、

「蔵元はおられますかな!」
 急を要するような大声は、酒蔵一帯を警備している一人の王都兵のものだった。

「あいよ!」
 これに対して快活良く応じて近づくゲッコーさん。
 至近でゲッコーさんの酒気を受けたからか、王都兵は後退り。
 酒気を帯びての対応ってのは、ギムロンのイメージが強いんだけどな~……。
 久しぶりの王都で羽を伸ばしているとはいえ、やはり限度というものはある。
 いつもの渋くてクールな格好良さがないだけでなく、格好悪さに傾いていますよ。ゲッコーさん。

 ――――。

「これはこれは」
 王都兵が慌てていたのも頷ける。
 ゲート部分には旅商人の集団が押し寄せていた。
 二メートルの柵に囲まれたこの区画。
 通行可能なゲート部分にて兵士たちがなんとか抑えているけど、持ち堪えるのも限界といったところ。
 それほどに商人たちの圧は凄かった。

 それにしても――、

「大人数でお越しだな」

「だの~」
 眼前の商人たちに俺もギムロンも気圧されてしまう。
 気圧される理由は大人数だからではない。集まっている面々から凄味を感じ取ったからだ。
 オーラ的なモノすら幻視してしまいそうな凄味だった。

「おっ!」
 そんな熱気を纏わせた商人の中には、エリシュタルトから出立した後に合流したキャラバンの面々もいた。

「蔵元殿」

「はいはい」
 熱気ある先頭の一人の呼びかけにゲッコーさんが飄々と応じれば、この場の責任者が現れたことで先ほど以上に凄味を体に纏わせると、歩む力も増したのか、押しとどめていた王都兵を撥ね除けて詰め寄ってくる。
 後方の面々もそれに追従。
 胆力を有し、鍛えられた王都兵であってもこの大人数の波を数人で止めるというのは流石に難しかったようだ。

 で、強い足取りの集団は、ゲッコーさんの目の前にて足を止め、

「急で申し訳ないのですが、商品の受け渡しを急いでいただきたい!」
 商魂漲る圧には、さしものゲッコーさんでも背を反らせてしまう。

「注文は受けているのでちゃんと数は揃えていますよ。後は積み込むだけです。ですが作業の人員がまだ――」

「それはこちらでやらせていただきます。もちろんその間に我々が数をちょろまかすという事はしません。監視下の中で積み込ませていただきます」
 先頭が発せば、それに呼応するように後続の皆さんが首肯を行う。

「なぜにそんなにお急ぎに? 受け渡しは正午過ぎを予定していたのですがね」

「蔵元殿や皆様に対し、身勝手でご迷惑なお願いと重々理解しておりますが、状況というのは刻一刻と変わるものなのです」
 ここでは首肯ではなく、後続の面々は「「「「そうです!」」」」と声を発して続く。
 体だけでなく言葉で表現したいほどに、突き動かされる理由があるようだ。

「ですので、その理由を知りたいんですよ」
 ここで俺がゲッコーさんの横に立ち、先頭の人物に問うてみる。
 ――この少年は一体? といった怪訝な表情を向けられる。
 手ぬぐいで顔の下半分を隠しているのが急に割って入れば、そういった顔にもなるよね。
 失礼だったので手ぬぐいを取れば――、

「これは公爵様! いままで気付きませんで!」
 先頭に続いていた中から、キャラバンの人物が大声でそう言いながら俺の前へまで駆け寄ると、片膝をついての挨拶。
 それを目にした先頭の人物も「大変、失礼いたしました!」と、慌てて片膝をつく。

「そういうのはいいので慌てている訳を教えてください。受け渡しが約束されているなら慌てなくてもいいでしょうに」
 二人を立ち上がらせて問えば、

「そうなのですが――絶好の好機なのです!」

「こ、好機?」
 慌てて片膝をつくという動作をした者達とは思えないくらいに、凄い目力で俺へと詰め寄ってくる二人。
 ゲッコーさん以上に背を反らしてしまう俺。体感としてはバク転が出来るくらいまで仰け反らされた気分だよ。
 なんとか両手を前に出して相手の動きを制止しさせながら返答を待てば、

「クルーグ商会の商隊がやらかしましてね」
 発する声音から理解できるのは、やらかした事に対して――ざまぁって感情が入っているというのが窺い知れた。

「商隊が使用する一番大きな六頭立ての馬車の車輪がいかれたそうで、その修理に時間を擁するって話なんですよ。それでこちらに向かってくるのは、一頭立てを中心とした少数の荷馬車だけなのです。好機なのですよ」

「そのクルーグ商会とは?」
 ――問えば興奮していた目は、先ほどの発言に見合うように不快な半眼へと変わる。
 先頭の商人さんのその視線が俺に向けられたものだと判断したのか、横に立つキャラバンの商人さんが肘で小突けば、はたとなって深々と頭を下げ、俺に向けたものではないと釈明してからクルーグ商会のことを教えてくれた。
 
 ――王都より東方に位置するマール街。
 そのマール街の南部と隣接するロイル領にある商会だという。
 ロイル領主であるハダン伯爵が旗振りの商会。
 伯爵の力を笠に着て、かなり強引なやり口で商売をしていることから、他の商人さんたちから不評を買っている商会なのだそうだ。
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