異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,303 / 1,861
矮人と巨人

PHASE-1303【お久しぶりのヤツ】

しおりを挟む
「余裕ある移動ですね」
 と、上ばかり見ているからか、俺の横にいるコクリコから注意を受ける。
 油断しないようにといった当人が周辺警戒だけでなく、足元も警戒しないのはいかがなものかと些かご立腹だった。
 正しい言い分なので素直に謝罪。
 シャルナの移動する姿に見入るのではなく、追走するという思考に切り替え、足元も確認。
 ――下生えに苔。隆起した大地。
 獣道というものは確認できない。ひたすらに安定感のない地面を移動する事になりそうだ。

 シャルナを真似て樹上移動が圧倒的に楽そうではあるが、それが難しいと思われるのが後方の二人――タチアナとパロンズ氏。
 なのでこの二人と距離の差が生じないように、二人と歩調を合わせての地上移動。

「申し訳ありません」
 肩越しにパロンズ氏と目が合えば、開口一番に謝罪。
 自分の存在で移動速度が鈍くなっていると考えてしまったようだ。

「急げばいいというわけじゃないですから」
 疾駆すれば勢いもつくからね。シャルナと違って急げばそれだけ下生えなんかを回避して進むのも難しくなり、無駄な音を立てることにもなる。
 ゆっくりであっても着実に進んだほうがいい。

 と、伝えていれば――、

「停止」
 樹上のスカウトからの発言にピタリと動きを止める。
 森閑の中、背後からタチアナとパロンズ氏の乱れた呼吸音だけが聞こえてくる。
 その前では呼吸の乱れた二人をフォローしようとコルレオン。
 選択するのはスリングショットか双剣か。
 逡巡し――前者を選んでいた。

「なんか来てますね」
 コルレオンと違って直ぐさま左手にワンド、右手にフライパンを握るコクリコがわずかに腰を落として構える。
 数メートル前の枝ではシャルナが片膝をついて、ルミナングスさんからの贈り物である新たな弓を手にし、親方様から賜ったミスリルコーティングの矢筒から矢を摘まんで番え、膝射の姿勢となると同時に――、

「捕捉された」
 と、一言。
 ビジョンを使用し、シャルナが小気味の良い弦音を奏でて鏃を向ける先を見やれば、木々を縫うように飛行してこちらへと迫っていくる脅威は、以前にも目にしたことのある生物だった。

「アジャイルセンチピード――だったかな?」

「そうだね」
 俺の常識をくつがえす、空飛ぶ巨大な節足動物。
 風の谷の近くに生息していそうなデカいムカデ。
 それが四体。
 ――ギチギチとノコギリ状になっている左右の顎肢を可動させているのが窺える。
 威嚇を意味しているのか、それとも編隊で飛んでいるから、どうやって捕捉したこちらを狩るか。というのを相談しているのかもしれない。
 大きさからして成体。
 蜻蛉のような四枚の翅を羽ばたかせて、翼包囲を仕掛けてくるかのようにこちらへと迫ってくる。

「こんな場所にいるとは」
 言いつつパロンズ氏が細長い紐からなるスリングを取り出せば、背嚢とは別に腰の雑嚢からピンポン球くらいの鉄球を取り出す。
 スリングの中央にある幅広い部分に鉄球を置き、紐の先端に輪っかを作っている一端と他端をつまむ。
 輪っかを自分の指に通してから勢いよくスリングを回し始めれば、ギュンギュンと凶悪な風切り音。
 その前方ではコルレオンがスリングショットを引いて構える。
 ゴムの中央にある革部分で摘まんでいるのは石などではなく、鏃を思わせるようなモノ。
 矢羽根のような形状も金属で出来ていて、全体的な形状はダーツで使用されるダートに似たものだった。
 二人揃って金属製の遠距離武器。実戦用といったところか。

「二人はまだ構えているだけにしておきなさい。ここは私が!」

「前衛として動くのはいいけど、ファイヤーボールは禁止だからな」

「なんですと!? あいつ等の弱点は火なんですけどね」

「分かっているけど、木々にもらい火なんてあったら大変だからな」

「だったらライトニングスネークで!」

「それもどうかと」
 電撃だって火事の原因に――、

「まどろっこしい縛りは作らないでもらおう! これは実戦なのですからね!」
 言いつつワンドの貴石を黄色に輝かせる。

「燃えたら消火してあげるから、前衛は迎撃よろしく」
 樹上からそう発しつつ、弓から矢を発する。
 軽やかな弦音と空気を裂くような風切り音は、後方で回転させているスリングの音とは比べられないほどに静か。

 シャルナの一矢は魔法でも付与されているのかと思えるもので、弧を描いて木々や枝を避けるように飛んでいけば、迫ってくる一体のオオムカデの青色に輝く複眼へと突き刺さる。
 同時にギィィィィィ――と、顎肢を擦らせて音をならせば、飛行する動きが途端に鈍くなり、今まで木々を縫うように飛行していた体が巨木へと衝突。
 三体と足並みが揃わなくなったところで、

「動きが止まったのに二人は集中」
 コルレオンとパロンズ氏に伝えれば、それを合図として回転するスリングから他端を離すと鉄球が勢いよく放たれ、スリングショットからはダートが飛ぶ。
 これに合わせて俺とコクリコが跳躍。
 エルフの国で培った樹上移動。
 幹を蹴り、枝を蹴って迫る三体へと接近する中で、二人が撃ち放ったものが動きが鈍い一体の頭部へと命中するのを確認。
 ピンポン球サイズの鉄球が頭部の外骨格を叩き割るも、コルレオンのダートは弾かれてしまう。
 流石は防具なんかの素材にも使用される大型モンスターの外骨格だけあって、鋭利なモノが突き刺さるってのは、よほどの威力がないと無理なようだった。
 だからこそシャルナは複眼を狙った訳なんだろうし。
 
 それに、

「鉄球の一撃も浅いですね」
 頭部を叩き割る事は出来たけども致命傷ではないとコクリコ。
 俺も同様の感想。 
 それでもシャルナの一矢を受けた時よりも動きは確実に鈍くなっているので、ダメージが蓄積されているのは見て取れる。

 なので――、 

「こっちは一気に三体を仕留める」

「いいでしょう」
 鈍くなったのは後回し。
 もしくは、中衛と後衛に任せてみるのもいいかもな。シャルナによる掩護があれば対処もできるだろう。
 俺達は最も脅威となる、眼前から迫ってくる三体に集中させてもらおう。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...