異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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矮人と巨人

PHASE-1304【自信を深める】

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「そろそろ唱えてもいいでしょうか?」

「強烈なのを頼むぞ。でも火災は避けて」

「まったく同じことを何回も。というか火龍装備の人間が言うことですかね~」
 と、返してきつつ、先ほどからワンドの貴石を黄色へと輝かせていたが、更にその輝きが増したところで、

「ライトニングスネーク!」
 ワンドの先端から放たれるローブサイズの電撃が、ムカデの動きを真似るかのように宙空を蛇行しながら進んで行けば、一体に直撃。
 巨大なムカデの体と、蜻蛉のような翅がビンッと硬直してそのまま地面へと落下。
 ドヤ顔のコクリコを横目で見つつ、

「しっかりと掴まってろよミルモン。舌を噛むなよ」

「分かった」
 俺の左肩に張り付くように掴まるのを確認したところで、

「アクセル」
 幹を蹴ってから短距離高速移動を使用。
 瞬時にして二体のムカデの前まで移動。

「でもってインクリーズからの――抜刀っ!」
 肉体強化をしてから一体へと的を絞り、両腰に佩いた愛刀二振りを鞘から走らせての抜刀で、そのまま一体の体へと目がけて×の字を書く。
 頑丈な外骨格に刀身が触れれば、頑丈さが手に伝わることがないままに一体の体を両断。
 斬った時の勢いを殺すことなく両断した一体を通過し、近くの枝へと着地。
 残った一体が軌道を変えて俺を標的とするが、長い体が反転する間、既にこちらは二振りの愛刀を上段へと構えて――、

「マスリリース」
 と、枝の上で蹲踞の姿勢から上段より振り下ろせば、三日月状の黄色い刃が同色の燐光を纏いながら飛んでいく。
 こちらへと頭部を向け終わる前に、残った一体の体も断ち切ることに成功。

「最初の一体を斬った時の切れ味――残火に負けていなかったぞ。マラ・ケニタル」
 王都に戻ってから修練場にて二刀の鍛練に励む中で、立木を利用しての試し斬りなんかもしていたけど、実戦では今回が初使用。
 二番弟子から賜った刀の切れ味は文句なしだった。
 ギムロン曰く、エルフの意地によって生み出された神の力にまで届くとされる英雄灰輝サリオンミスリル
 それより作り出された一振りは伊達ではなかった。

「瞬く間に二体を倒しましたか。二刀を扱う技量は修練場で培っていましたが、実戦でも気負いなく扱えるみたいですね」

「ありがとう」
 返しつつ称賛を送ってくれるコクリコを見れば、貴石の色が再び黄色へと変わる。

「アークウィップ」
 と、電撃の鞭をワンドから伸ばし、硬直から立ち直って地面から起き上がろうとムカデが鎌首を上げたタイミングに合わせて頭部へと巻き付ける。

「ふんす!」

「わぉ」
 そんな事も出来るんだな。
 電撃の鞭を顕現させているワンドを手元へと引けば、ムカデの頭部が切断。
 暴れる者を拘束する目的で使用する魔法だと思っていたけど、威力を上げれば電撃の鞭でもああいった芸当が出来るようになるんだな。
 威力が上がれば鞭というより、電撃の蛇腹剣となるわけだ。
 中位魔法の威力向上でもコクリコの成長を垣間見ることが出来る。
 しかも左手首と右足首に装着している装身具である、オスカーとミッターを不使用であれだけの威力なんだからな。
 こりゃ認識票の色も、黄色から次の赤色へと直ぐに変わりそうだな。

「後は手負いだけ!」
 気を抜かないようにとばかりに気鋭ある声をコクリコが発せば、捕捉するのは複眼に矢が刺さり、頭部が穿たれたムカデ。
 その原因を作った二人の中からムカデは後者を選択。
 後衛では迎撃のために、新たな鉄球をスリングへと備えているところだった。

「遅い!」
 このコクリコの声に合わせるように、

「プロテクション!」
 と、タチアナ。
 飛行することなく無数の足を利用して地面を驀地してくるムカデの前に障壁が現れれば、突如として現れたソレに頭部を激突させる。
 穿たれた頭部から衝撃が伝わったのか、左右の顎肢を動かして苦痛を感じるような音を鳴らす。

「いい判断だね――っと!」
 樹上から矢を放つシャルナ。
 二射目で狙うのは残りの複眼。見事に命中。
 これでムカデの進行は停滞。
 前へと進まなくはなったが、地面をバタバタとのたうち回る。
 全長が二十メートルほどにもなる巨大な存在が暴れ回れば、その周囲は脅威の間合いとなる。
 自分の外骨格を傷つけながらも周囲の木々をなぎ倒していく。

「うぇぇ……」
 無数の足を動かしてのたうち回る姿にシャルナは三本目の矢を番えるも、顔は渋面となっていた。
 そんな中でも落ち着き払っている二人が顔を見合わせている。

「ほうほう」
 遅い! と言っていたコクリコだったけど、見合わせている二人から自信を感じ取ったのか、枝へと着地すれば、見物へとシフトチェンジ。
 俺もそれを真似る。
 念のためにいつでもマスリリースを放つ準備はしておく。
 シャルナも渋面になりながらも味方のカバーは忘れない。
 矢を番えてあとは弦を引くだけの状態で待機。
 タチアナも身構えつつ、自分の近くにいる二人にこの場を任せようとしていた。

 少しでも経験をさせないといけないからな。

 顔を見合わせていた二人が頷きあえば、パロンズ氏がスリングを振り回し、その一歩前の位置でコルレオンがスリングショットから双剣へと武器を変更。
 鞘から抜かれる双剣を逆手で持ち、隆起した地面を前傾姿勢となって駆け出す。
 不安定な地面であることを感じさせない走りは、平地の上を疾駆しているかのようだった。

「お願いします」
 のたうち回るムカデの間合い数歩手前でコルレオンが肩越しにて発せば、

「ふんっ!」
 と、発言に合わせてパロンズ氏のスリングから鉄球が放たれる。
 暴れるムカデの動きは予想しづらいものだけど、見事に二発目の鉄球も頭部へと命中。
 頭部が大きく穿たれて、その衝撃で上体を仰け反らせたところへと目がけてコルレオンが跳躍。
 仰け反った上半身に斬撃を見舞ってから空中で体を反転させて着地。直ぐさま再度の跳躍。
 再び同じ箇所へと二撃目を加えれば、ムカデの上半身を切断する事に成功。
 
 ――しばらくはバタバタと上半身と下半身がその場で動いていたが、動きは弱々しくなり、やがて停止。
 動きが完全に止まるまでは油断なく構えをとかなかったのは素晴らしかった。
 戦いを見守り、その後、合流。

「節足動物特有のたくさん存在する節から同じ箇所に二撃。精密な斬撃だったぞコルレオン」

「有り難うございます」

「掩護のタイミングも完璧でした。パロンズ氏」
 俺を中心として皆が集まる中でそう発せば、ヒゲに覆われた口元がほころんでいた。
 空飛ぶ巨大ムカデであるアジャイルセンチピード四体の撃退は苦戦することなく対処できた。
 俺、コクリコ、シャルナ、タチアナと違い、実戦経験が浅い二人はここでようやく緊張がとけたようで、大きく長い呼気を行ってから、力んでいた肩の力を弛緩させていた。
 お互いの無事と、脅威にちゃんと対処できた事に自信を得たような笑みを向け合っていた。
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