異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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矮人と巨人

PHASE-1342【カチリ】

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 だとしても、

「俺が魅了されるのは、最前線で誰よりも前を駆け、後に続く者達の戦意を高揚させるような存在だな」

「くだらん。寡兵でしか挑む事の出来ない弱者の理論だ」

「だけどその理論で動く俺達によって、お宅等がこの森から出ることを阻止されるわけだ」
 よしんば森と窟を抜けることに成功したとしても、その後に待ち受けるのは難攻不落の要塞。
 不落の要塞たらしめる存在に指揮される精兵達の強さは別次元だという事を伝えれば、鼻で嗤われた。

「勇者よ。語るに落ちたな。森と窟を抜けることに成功したとしてもと述べる時点で、自分たちは敗北するということを言っているようなものだ」
 呵々大笑による発言に、然り然りと周囲の取り巻き達も哄笑で続く。

「足を掬われる発言でしたね」

「別に掬われてなんかいないぞコクリコ。よしんばの話だからな。相手がこの森から出るなんて事はない。目の前の連中に絶望を与えたかっただけだ。ここでも絶望。この森を出ることがあっても絶望。ってね」

「森を出るという内容がある時点で駄目ですね」

「ぬぅ……」

「この場でこの者達に絶望を与えればいいだけのこと。先の事など考えさせないままに撃滅するだけです」

「あ、はい……」
 要塞の凄さを伝えたかったんだけども、言わなきゃよかったな……。
 
「最後の会話は終えたか。勇者よ?」

「最後の会話にはならないけど、談笑はこの辺でやめとこうか」

「減らず口だな。蹂躙せよ。少数でここを訪れた愚か者達に数の力を見せてやれ!」 
 なんとも恰好の悪い発言に聞こえてしまうのは俺だけのようで、兵達は発言に従い喊声を上げて迫ってくる。

「少数で大軍を破るからこその勇者一行というのを刮目するがいい!」
 こういったコクリコの発言の方が格好いいと思うよ。
 迫り来る相手にコクリコからバランスボールサイズのファイヤーボールが放たれる。
 アドンとサムソンからも放たれ、眼前では大きな爆発。
 そんなコクリコの覇気ある声と一撃により仲間が吹き飛ぼうとも、隊列を乱すことなく迫ってくる姿は圧巻。
 カクエンも混ざっている軍勢だろうけども、進む姿には乱れはない。
 ハルダームの将としての器が本物だという事が分かる。
 後方でどっしりと構えるハルダームは将らしい将なんだろうけども、策を巡らせるために最前線で自分を囮として使用できるヤヤラッタの方を俺は評価させてもらう。
 俺達も同じような行動をするから親近感も湧くんだろうけど。

 てなわけで――、
 
「シャルナ」

『いつでもどうぞ』
 ここで名を発せば、耳朶に直接に届く快活のよい声。

「じゃあよろしく」
 相手がこちらへと集中し、攻め寄ってきているところに合わせて後方から壁を飛び越えてくるシャルナ達。
 ビジョンにて捉えるシャルナ、タチアナ、コルレオンの三人の姿を見る限り、装備に乱れは見られない。
 連絡通り、戦闘をすることなく工作をこなすことが出来たんだな。流石だ。
 俺達――とくにコクリコの大立ち回りの甲斐もあったってもんだ。

「後方から敵襲!」
 と、ハルダームの近くにいる兵が声を上げれば、

「たったの三人ではないか。慌てることなく対応せよ。少数による強襲など脅威になどならなん」
 背後から攻められてもオーガーロード、アシオス・ハルダームに焦燥は見られない。
 そんなハルダームに後方からのシャルナの一矢が的確に頭部へと放たれるも、

「くだらん」
 と、一言発し、羽虫を手で払うように容易く払い落とす。

「この巧鬼であるハルダームに、か細い腕で引かれたか細い矢が届くものかよ」
 言われれば、建物の屋根に着地したシャルナは、

「ほんの挨拶代わりのつもりだったんだけど」

「どんな言い訳だ。背後から狙っておいて必殺の一撃を見舞わないのは三流だろう」

「くぅ!」
 あ、シャルナが悔しがってる。
 払われたのは本当に悔しかったんだろうし、正鵠を射られた事で反論できないようだ。
 つまりはシャルナの不意による必殺の一矢であっても、それを見切って払うだけの技量もあるってことだな。

「悔しがる表情だけではすまんぞハイエルフの女。お前はこの先、様々な感情を顔に出す事になるからな。恐怖を刻まれ、廃人として死んだ表情となった後も利用させてもらう」
 下劣に顔を歪めるハルダームは、

「長命なハイエルフなのだ。我が兵達の慰み者として使わせてもらうには最適。更には多くの子を孕ませよう。こちらの戦力増員にも利用できる」
 と、継ぐ発言には不快さを覚える。
 俺がそう思うのだから、当然、言われる当人は、

「本当に不快になる連中ばっかりだよね! 蹂躙王ベヘモト配下って!」
 怒りを発しながらウインドランスをシャルナが放つ。
 今の感情が反映しているのか、普段のよりも巨大なサイズであり、電柱を彷彿とさせた密度の濃い風がハルダームへと向かっていく。
 周囲の取り巻き達はウインドランスが生み出す余波だけでも吹っ飛んでいたけども、

「おお!」
 と、シャルナの攻撃に驚きの声を上げながらも、自分の体を隠せるだけの巨大なタワーシールドを手にすれば、吹き飛ばされることなくその場に留まり防ぎきった。

「大したものだな。我と身の丈が合っていたら、我の妾として飼ってやったのだがな。いかんせん我の相手となれば、エルフの体では裂けてしまう」
 不敵で不快な発言に、シャルナが金糸のような髪を逆巻かせるようにしながら移動しつつ矢を放っていく。
 周囲の兵の頭に矢を生やすことは出来ても、ハルダームには届かなかった。

「背後からの強襲がこれでは話にならんぞ。勇者よ」

「と、思うところが三流なんだよ。シャルナじゃなくてお宅が三流」

「何?」

「俺達がこんな少数でこの拠点に攻めていると思うなよ! こっちの進軍は始まってんだよ」
 と、全体に聞こえるように発し、キューポラから上半身を出しながらも、手にした物が見えないように車内の方で隠しておく。
 俺が手にする物は――ハンドグリッパーの形状に似た起爆装置。

「シャルナ。鏑矢」
 と、小声で伝達すれば、

『お任せっ!』
 と、ハルダームに対する怒りから荒い声になりつつも、返事をくれると空へと向かって鏑矢を放つ。

 ピィィィィィィィ――! と甲高い音を発しつつ空へと放たれる鏑矢。

 この音に合わせて起爆装置からカチリと音を立てさせれば、シャルナ達が登場した位置とはまた違った後方の数カ所から爆発が起こり、爆煙が上がっていく。

「何事だ!?」

「後方で複数の爆発です」

「そんなものは聞かなくても分かっている!」
 突然の爆発を部下が報告したところで、分かりきっていることを言うな! と、怒号を飛ばす。
 継いでその怒号のまま部隊を編制させ、爆発する箇所を見てくるように指示を飛ばしていた。
 ヤヤラッタのような落ち着きあるって感じではなかった。
 イレギュラーなことが発生すれば直ぐさま声を荒げる。
 将器があるヤツかと思ったけど、ヤヤラッタと比べれば三流だな。
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