異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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矮人と巨人

PHASE-1354【乗ってこないね】

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 手榴弾のダメージで苦痛による声を上げて派手に倒れる音。
 後方でこういった音がすれば、当然ながら前線にいる部隊の動きには動揺が走る。
 求心力を持っている者が攻撃を受ければ、足を止めて後方を見ることに注力。
 こちらは動揺によって生まれた隙を好機にすることが出来る。

「ブラストスマッシュ」
 生まれた隙に真っ先に仕掛けたのはシャルナ。
 上位魔法を発動するだけの集中する時間を得れば、即座に唱える。
 後方に目を向けていた前線部隊の直上に圧縮した風が顕現し、下方の部隊を押しつぶしていく。
 ご丁寧に数人からなるワンオフ装備の十体長の中の一人を標的として狙ってくれるのがありがたい。
 前線のまとめ役を担うのを一人でも潰してくれれば、前線で更なる混乱と収拾遅延を生み出すことも可能だからな。
 
 圧縮された風が地面に触れると無数の風の刃となり、放射状に広範囲も攻撃。
 後方の指揮官の転倒と前線での高威力の上位魔法が見舞われれば、この中心部での現戦闘において最大の混乱を生み出した。
 
 乱れた隊列に俺とシャルナが銃弾を撃ち込んでいき、追加の手榴弾も投擲。
 敵陣の一部が崩れるのが見て取れる。

「いいぞ!」
 AR-57からひたすらに弾丸を吐き出しながら攻め時とばかりに声の調子が上がる俺。
 こちらに勢いが生まれたところで、

「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ――――!!!!」
 怒号による咆哮が大気を振動させる。
 もちろんその咆哮は手榴弾を最初に喰らった存在から。

「まあ、お怒りになるのは当然だよな」
 爆発が生み出した破片によるダメージで怒髪天となったハルダーム。

「やってくれたな!」

「俺からのパイナポゥはどうだった? 甘かったか? 酸っぱかったか?」

「訳の分からぬ事を!」
 倒れた体が起き上がり、流血しながらもこちらを強い目で睨んでくる。
 そして手榴弾の破片で出来た顔の傷が見る見ると治っていく。

「鼻は曲がったまま治らなかったのに、グレネードのダメージは直ぐに治っていくんだな」
 周囲の兵達が回復でもしてるのかとも思ったけど、

「超速再生持ちだからね。オーガやトロールは」

「それは分かってんだけどね」
 シャルナに返せば、俺の疑問符に得心がいったかのように頷いて返し、手短に教えてくれる。
 ――裂傷なんかで体内に傷を負えば、それを治癒するために超速再生という能力が発動するそうだが、打撃なんかで受ける外傷部分のダメージが回復するのは裂傷よりも時間がかかるそうだ。
 人間よりは回復は早いらしいけども。

「てことは生身での戦闘時、オーガやトロールは首をチョンパするのと、ドデカい打撃を頭部に叩き込めば倒せるってわけだな」

「あれだけ大きい目標に、人間の体躯から生み出せる打撃で倒すのは至難だと思うよ。倒すなら首を斬り落とす方が楽だと思う」

「――まあな」
 身長差を考えると打撃もだけど、動く相手の首まで跳躍して斬り落とすってのも難しい。
 一般的な兵だと特にそれは至難だ。
 やはり兵達は個による戦闘ではなく、連携による戦闘が大事だな。
 王都での修練場でその辺りはしていたから心配はないか。
 大型の相手を転倒させて首を狙うって訓練なんかもやってそうだな。
 その辺は先生が選別した面々による指導だろうから、一切の手抜かりはないだろう。

「よしよし、対超速再生持ちの攻略法が増える事はいいことだ」
 ティーガー1のアハト・アハトならトロールも再生できずに絶命だったしな。

「火力を集中させれば下位の攻撃魔法でも倒せそうだ」

「それなら十分に倒せるよ」
 攻略法をシャルナとやり取りしていれば、

「寡兵が悠長に話し込むな!」
 今までで一番のお怒りモード。
 部下たちを無理矢理にかき分けてこちらへと足を進めてくる。
 かなりの力なのか部下たちは簡単に吹き飛ばされているし、それを目にする前線部隊は、自分たちはああはなりたくないとばかりに、道を開いてハルダームの歩みをスムーズにしていた。
 ――前線にて立ち、血走った目でこちらを見下ろしてくるハルダーム。

 それに対して、

「プスプスと煙が上がっているようだけど元気だな。もっとダメージを受けてくれるとこちらとしてはありがたかったんだけどな。威力検証にて効果有りって王都に戻って報告したかったし」

「黙れい! よくもまあ長々とふざけたことを次から次へと吐き出せるものだ! どこまで我を侮辱すれば気がすむのか!」

「無論、倒すまで――ってね。大体、顔の傷とか治ってるからそこまで怒らなくてもいいじゃないか」
 どのみち首チョンパして倒すんだからさ。――と、心中だけで発言を続ける俺。

「面妖な攻撃をしよって! 貴様それでも勇者か!」

「どんな怒り方だよ……」
 自分が今までに見たことのないモノでダメージを受けるのは嫌だったご様子。
 ティーガー1のアハト・アハトは防いだから問題はなかったようだけども、野球ボールサイズの小さなモノで傷を負い、尚且つ部下の前で情けなく転倒。
 巧鬼という誉れある立場の存在が、情けなく転倒する姿を周囲に見られたことがたまらなく恥ずかしいようだ。

「もう一回、転倒させてやろうか?」
 ――……俺の発言に対して、ハルダームから言葉は返ってこない。
 体をわなわなと震わせているだけだった。

 じゃあ――、

「次に転倒させる時は、お宅の命を奪って地面に転がすってことで――いいかな?」

「がぁ!」

「おう!」
 怒りの雷を落とすとばかりにアークフォールを俺の頭上に落としてくる。
 アクセルで回避すれば、蛇行により落ちてきた雷が地面へと触れると、青白い電撃が八方に広がっていた。

「ちょこまかと! 飛び道具に恐れるな! 突撃せよ! そしてあの小僧を生きたまま我が前に連れてこい! 生きたまま心の臓を引き抜いてやる! 絶対に拘束せよ!」
 お、挑発を受けても自らが動くということはやはりしないか。
 俺とのタイマンは分が悪いというのは、初手で理解したってことだな。
 総大将が負ければ軍が瓦解するというのも考慮して動かないってところか。
 挑発してもそこだけは乗ってこない。
 可能ならさっさと大将首を落として、敵兵の戦闘継続の意思を崩したいんだけどな。
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