異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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PHASE-1402【新たな面倒事かな?】

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 ――。

「おお! トールよ!」

「戻りました」
 華麗に抱擁を回避して応じさせてもらう。
 今回は上半身にもちゃんと服を着ているけども、やはりおっさんに抱きつかれるのは御免こうむる。
 本来、王様の抱擁を躱したら不敬罪で死刑ってのもあったりするんだろうな。
 この王様はそんなことないけどさ。

「それにしても大きいな!」

「然り、然り!」
 抱擁を躱された王様は、視線を俺の後ろにいる面々へと向ければ、バリタン伯爵がいつものように続く。

「よく来てくれた。キュクロプス族の者達よ! 本来ならば謁見の間でもよかったのだろうが、窮屈だろうからな。そもそも門は潜れても城内の扉は潜れないか! この様な場ですまんな!」

「お、お構いなく……」
 八メートルサイズに配慮して、王城の中庭にて謁見。
 大きな体に無造作に触れる王様に、一本髷の長男アルゲース氏は、どうリアクションを取ればいいのか分からないとばかりに、作り笑いを顔に貼り付けて対応していた。
 デカい図体だけども、王様の無遠慮さに気圧されているご様子。

「それでトールよ。この者達が新たなる道を切り開いてくれるのだな?」

「その通りです」

「そうか! それはなんともめでたい! そして道を切り開く為に励んでくれたトールには感謝しかない! 今回、共に行動した者達も大義であった!」
 普段、王様と接点のないギルドの面々は片膝をついての恭しい姿勢。
 そのように堅苦しくせずともよい。と、王様は言うけども、タチアナ、コルレオン、パロンズ氏は真面目なので礼節をもって接する。

「さて、挨拶が済んだのならば私達はギルドハウスに戻りたいのですが」
 と、三人と違ってこの状況になれているコクリコがすげない態度でそう言えば、

「……今はギルドハウスに戻らぬほうがいいと思うぞ」
 と、王様。

「――なぜに?」
 王様に問えば、

「面倒なのが来ていてな。こちらに挨拶に来た後、直ぐさまトールのギルドへと赴いた」
 王様にまず挨拶をしている時点で、

「領主の誰かですか?」

「そうだ。今は副会頭である荀彧殿が対応しているだろう」

「で、その人物とは?」
 問えば、バリタン伯爵がズイッと前へと出て俺と王様の間に入ると、

「ロイル領主であるハダン・ネイチャル・カプレル伯爵です」

「ロイル領――」
 ――なんか聞いた名前だな。

「クルーグ商会が拠点としているところだ」
 と、ゲッコーさん。
 ――ああ。

「他の商人さん達に嫌われていた商会ですね?」
 そうそれだ。とばかりに鷹揚に頷いてくれる。
 その商会の馬車の調子が悪くなったことで動きが鈍くなったのを幸いに、他の商人さん達がスピード勝負とばかりに、ポーションを求めて酒蔵へと押し寄せてきたのを思い出す。

 ――で、

「そのロイル伯がなんで先生と話したがっているんですかね?」
 ここは王侯貴族の面々よりも、ギルド側の人間に聞くのが確実だろうからゲッコーさんに問えば、

「ポーションをクルーグ商会に独占させてほしいということだ」

「ほうほう。欲張りはいけないですね~」

「トールの言うとおりだ。荀彧殿もそう思っているから首を縦に振ることはないだろう。俺も反対だしな」
 蔵元も先生に同調。
 
 ふむん――。

「じゃあ、俺達も戻りますかね」

「いいのかな? 面倒事だぞ。荀彧殿に任せておけばいいと思うのだが」
 よほど面倒くさい人物なんだろうな。
 王様の声音からそれが伝わってきた。
 
「そんな面倒事なら尚更、自分たちも参加しますよ。先生はギルドだけでなく王都の政務にも協力している立場ですからね」

「確かにそうだな。面倒事で職務が阻害されるのはよくないな」

「そうでしょう。ここはギルドハウスの責任者であり、公爵である自分が独占なんかさせないと言いますよ。こういう時こそ公爵という肩書きを利用しないと」

 ――てなわけで。

「我らがギルドハウスに到着だ」

「何とも物々しいですね」

「確かにな」
 流石はマグナートクラスの伯爵といった感じだな。
 護衛と思われるの面々が、ギルドハウスの外で待機している。
 ざっと見て五十人くらいか。
 軽装重視である革製のチェストアーマー。佩いてるロングソードは作りの良い柄からなり、チェストアーマー同様、光沢ある黒塗りの革鞘。
 良い装備で統一されている護衛と思われる兵達を見て、ロイル領が富んでいるのが窺える。

「注目の的ですね」
 と、コクリコ。

「そうだな。主に俺達の後ろがな。というかずっと衆目を集めていたけどな」
 王城から西門側にあるギルドハウスへと戻る途上では、王都の住民から驚きの視線を向けられたものだ。
 だがそこは王都住民。
 胆力が鍛えられているからか、八メートルはあるキュクロプス三兄弟と、全長が二十メートルを越えるエビルレイダーを見ても驚きはしても恐れは伝わってこなかった。
 流石は普段からアンデッドであるスケルトン達と生活をしているだけはある。
 この辺の胆力はベルよりも逞しい。
 ここの人間たちは負の感情がなくてつまんないよ。と、ミルモンに言わせるんだから本物の胆力だよな。

 反面――、

「この場所に来たら気持ちいいよ」
 ミルモンが悪そうに口端を上げる。
 可愛いだけなんだけども。

「と、止まれ!」
 早速、俺達へと向かって伯爵の護衛と思われる者達が、剣の柄に手を添えてから俺達の前に立つ。

「ほう――なんと無粋な行動なのでしょう」
 馬車から飛び出したコクリコは、馬車の屋根へと立つとそう言い放つ。

「黙れ小娘! ここには現在、ロイル領主であるカプレル様がおられる!」
 やっぱりまだいるんだな。
 王城からここまではそこそこ時間がかかるから、交渉は終わっていてもいいとも思ったけど、この状況からして、先生はそのロイル伯の交渉にまだ付き合わされているようだな。

「それ以上、後ろの巨人とモンスターを近づけるのならば容赦はせん!」

「ほうほう」
 感心して声が出た。
 キュクロプス三人とエビルレイダーを前にしても退くことなく戦おうという意思を見せてくる気概は大したもの。
 その部分は評価できる――が、こっちの背後の面子が原因で、コクリコが立つ馬車の刻印が目に入っていないようだ。
 焦燥により視界が狭くなり、思考が浅慮になっているご様子。
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