異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,411 / 1,861
前準備

PHASE-1411【念じれば叶うそうな】

しおりを挟む
「羽化する時は皆で生まれてくる姿を目にしような」
 ご立腹で俺を睨んでくる二人をなだめるように発しつつ、

「それでアルゲース氏」
 に、素早く視線を移動。

「なんでしょうか?」

「エビルレイダーに力を注ぐってことをしなくていいんですかね?」
 ヤヤラッタ達が行ったことを俺達も行わないといけないのかを質問。

「以前に済ませておりますが、必要ならばマナによる干渉で可能になります」
 マナによる干渉か――。
 難しいのかと問えば、ただ繭に触れて念じればいいだけとのこと。
 マナを使用できる事が可能なら、それだけで繭の内部に繋がるらしい。
 もしマナをコントロール出来ないのであれば、使用できる者が中継すれば思いは伝わるという。
 
「ならば性格を変えなければなりませんね」
 と、コクリコ。
 今のままでは臆病な性格の状態で成虫になる。とてもじゃないが天空要塞の周囲にあるという雲の外殻へと突入するだけの、勇気も根性も持ち合わせていないと続ける。
 この発言に、三兄弟は自分たちの性格が反映されてしまったと、謝罪を口にする。
 コクリコの歯に衣着せぬ物言いに申し訳ないと思う反面、言っている事は至極当然なので、性格を強気に変更できるのならばそれは実行したい。

「よし! 強気で賢く優しい子に育ってもらおうじゃないか!」

「いいね。私も注がせてもらうよ」

「シャルナのようなマナの使い手なら立派な子になってくれるだろうな」

「でしょ!」

「いやいや、この私の勇敢さと強力無比な魔力を受け継いでもらいたいですね」

「コクリコからは全身肝なり! って精神面だけを反映させてもらえるといいな」

「それはどういう意味ですかトール。まるで私の魔法はしょっぱいと言いたげですね!」
 今回の冒険での我が大車輪の活躍を忘れたのかと問われれば、否定は出来ない。
 でもコクリコの場合、装身具とサーバントストーンがあるからこそなんだよな。

「個人での魔力がもっと高いと説得力が――」

「ぐぬぅ……」
 そこは理解しているからか、反論しなかっただけ立派である。

「では、実行しますか?」
 俺達のやり取りが一区切りしたと判断したアルゲース氏が問うてくる。

「待ってください」
 どうせなら――――、

「私達も参加ですか?」

「はい」
 先生とベル、ゲッコーさんとリンにも来てもらう。
 当然ながら今回、一緒に旅をしたコルレオン、パロンズ氏、タチアナにも来てもらう。
 案の定、コルレオンは修練場でドッセン・バーグに扱かれていたから合流は誰よりも早かった。
 
 ――揃った面子を見渡す。
 
 エビルレイダーを仲間に入れた時のメンバーと、そのエビルレイダーに乗って次へと進むメンバー。
 この面子の念を送ってやらないとな!
 集まってもらった面子の精神と叡智の一部でもいいから、繭の中の存在に受け取ってもらいたい。
 先生は前日の精神的疲労もあるから、気分転換してもらいたいという理由もあるけど。

「面倒ね。私以外の面子でやってくれればいいのに」

「素っ気ないことを言うなよ。大体、俺達が無事に戻っても、出迎えてもくれなかったよな」

「あ~お帰りなさい」

「昨日、言ってほしかったよ……」
 本当にリンはリンだな……。
 自由奔放なアルトラリッチ様にも足を運んでもらったことだし。

「この面子でお願いします」

「分かりました」
 アルゲース氏に揃ったことを伝えたところで、

「アルゲース殿、質問があります」

「な、なんでしょうか」
 ここでベルが一歩前に出れば、

「羽化した時の姿というのは……」
 継いで出て来る発言は不安を混じらせた声音によるもの。
 この発言に俺達からは溜め息が漏れる。
 その溜め息が自分に向けられたものであり、軍人なのに流石に情けないというのも伝わったのか、「うぅ……」と弱々しく声を漏らす。
 その姿がメチャクチャ可愛かったので俺としてはオッケー!
 もっと見てみたいのでいじりたいけども、怒りに変わると怖いので、これ以上、攻めるということはしない。

「幼虫の姿に近いものになるかと」
 と、アルゲース氏の発言を耳にし、

「あ、あぁぁ……」
 ここでも弱々しい声を漏らす。
 禍々しい姿の成虫の背に乗り、天空要塞を目指すという事を想像したのだろう。
 両上腕を擦るベル。
 腕と腕に挟まれたけしからん胸が更にけしからんですな! 眼福! 眼福!

「ですが念じる事で皆さんが思い描いた姿として生まれるという可能性も――」

「あるのか!」

「は、はいぃぃぃぃぃい!」
 希望が見えたのか、ベルがくわりと目を見開き、興奮した語気で問えば、八メートルサイズの巨人さんは、最強さんの圧で及び腰になりながらも懸命に返す。
 
「よし! 皆で愛らしい姿を念じよう!」
 気合い漲るベルのエメラルドグリーンからなる瞳が俺達を見渡す。
 幼虫の姿に似た成虫がよっぽど嫌なようで、本気で何とかするぞ! と、俺達に威圧に近い眼力を向けてくる。
 最強さんから炯眼を向けられれば、皆、素直に従うことしか出来ない。

「マナを使用できないなら中継とのことだから、この中で最も秀でているのは――」
 ベルの発言にて衆目が一箇所に集まる。
 悔しそうにしながらもそこは認めているのか、シャルナも俺達と同じ人物へと視線を向けていた。

「やはりリンになるか」

「これは……光栄と思うべきなのかしら……」

「リン。私はお前に期待――している」

「お、仰せのままに……」
 古の大英雄という存在ゆえに、王侯貴族が敬称として様をつける存在であるリン。
 性格は自由奔放で傲慢そのものなんだが、最強さんの前では恐れからとても素直な性格になる。

「リンに触れればいいのですね?」
 
「あ、はい。マナが使用できない場合は、マナを使用できる御方に触れてから念じてください」
 ベルの質問にアルゲース氏が返せば、

「リン――頼むぞ。再度だが、私はお前に非常に期待――している」
 と、重い声音での一言。

「お、仰せのままに……」
 同様の返ししか出来ないでいる……。
 アンデッドの主である高位の存在が嘘のようだよ……。リン……。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...