異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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天空要塞

PHASE-1539【検討】

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 だが恰好が悪かろうとも聞かなければならない。
 クロウス氏という圧倒的な強者を相手にして、一時的だけど戦闘不能に追い込んだことには違いない。

 発動自体はしているわけだから、完璧ではなくても習得はしている。
 強者を戦闘不能とした攻撃を知り、十全で扱えるようになれば、俺は更なる攻撃手段を手に入れることが出来る。
 
 是が非でも技の全容を知らねばならん!

「どんな一撃でしたか!」

「近いですね……」
 知りたいことから指呼の距離より更に至近。
 敵対関係とは思えないほどの至近に、クロウス氏は些か困惑している。
 でも、俺は自分が放った一撃への好奇心が強い。

 それが分かってくれたからか、

「そうですね――」
 と、頤に手を添えつつ嘴を開いてくれる。
 ゲッコーさんは炎の杭と例えたけども、

「杭と言うべきでしょうね」
 ――同様の感想だった。
 
 ――杭か――。

「パイルストームのような感じでしょうか?」

「いえ、細長い棒状です。杭以外で例えるなら火かき棒でしょうか」
 火かき棒。杭よりも弱い感じになったような気がする。
 それくらい細長かったってことか。

「威力の程は?」

「ラミネートを貫き、直接、体内部に熱と衝撃を届けてくるものでした。熱と衝撃を感じた次には意識が飛んでいましたよ。こういった状態に陥ったのは、私が戦った中では勇者殿で二人目となります」
 ラミネートってのが気になったけど、まずは自分が放った一撃が体内部にダメージを与えるものだというのは分かった。
 ボドキンによる貫通ダメージ。で、内部に熱と衝撃を与えたのが烈火。
 俺がクロウス氏に放った両拳による攻撃がそのまま一つに集約されたのが、細長い炎の杭というわけだ。
 
 で、気になったラミネートってのは、クロウス氏がパッシブで展開している不可視化の魔法障壁だと教えてくれた。
 体全体をピッチリと包む膜のような魔法なのだそうな。

「暢気に検討するとはね……」
 俺達の対話を目にして呆れるアル氏。
 戦闘終了ということもあってか、ロマンドさん達はアル氏を完全に解放。

 そんなアル氏はこちらへと近づきつつ、

「カイディルが一撃で沈む技。自分が見舞われていたらこの世にはいなかっただろうね。勇者殿」
 声音が柔らかくなっている。
 刺々しさがなくなっていることから戦闘意思はないのが伝わってきた。

「無我夢中の偶然による一撃でしたけどね」

「偶然であろうとも、カイディルを沈めたのは事実。相対する者を前にして気を失うのを見るのは二度目。二度目は敵対した存在だから肝を冷やした」
 気を失った無防備な状態でトドメを刺されれば取り返しがつかなかった。と、アル氏。
 会話の内容からして、一人目は敵対者ではないのが分かる。
 大立者であるクロウス氏にそういった事が可能なのは、この地では一人しかいないだろう。

 ――うむ。

「俺は皆の協力で二人目に数えられるようになりましたが、一人目――翼幻王ジズ殿はそれほどに強いというわけですね」

「自分とカイディル。他の幹部が徒党を組んで戦っても勝てないね」
 そんなかよ……。
 まあ、当然といえば当然か。
 これから会いに行くのは三爪痕トライスカーズの一人だからな。
 魔王軍の強者は数多く見てきたけど、大幹部は初めて目にすることになる。

 ちなみに――、

「クロウス氏」

「なんでしょう?」

「本気で戦った時でも翼幻王ジズ殿には全く刃が立たないと? 貴方ほどの力をもってしても手傷を負わせることも出来ないと?」

「ええ無理です。しかし異な事をおっしゃいますね勇者殿。まるで私が本気で戦っていなかったと言いたいようですが」

「戦っていないでしょう」

「はっきりと言い切りますね」
 言い切りますとも。

 だって――、

「クロウス氏の大魔法――ブリッツスウォームは本気のモノじゃないですからね」

「確かにな」
 ゲッコーさんが頷きながら続いてくれる。
 詠唱破棄スペルキャンセルによる発動だったからな。
 詠唱することで火力が大きく変わるのはこの世界での常識。
 もし無詠唱ではなく、詠唱有りのフル火力で使用されていたらと想像すれば、総毛立つってもんだ。

「皆様のような強者を相手にしながら詠唱など無理というものです。唱えている間にやられてしまいます」

「謙虚ですね。はっきりとこの謁見の間に大きな傷をつけたくなかったから。と言えばいいものを」

「いやはや、ハハハ――」
 鋭いコクリコ。
 これには空笑いと共に返すことしか出来ないでいた。
 つまりはコクリコの発言が正しいということだな。
 絨毯を燃やされては困るとか言っていたし。
 火力の高い魔法はアナイアレイションで消滅させることに注力していた。
 この室内を修復不可能な状態にしたくなかったという気配りが見て取れた。

 当人が言うように、大立者よりも執事としての活動に重きを置いているということなんだろう。
 執事だからこそ主が拠点とする中でも中枢になるような所を破壊する――破壊される――ことには拒絶反応があるんだろう。
  
「他の部屋を訪れることなく、一直線にここまで来られたことには内心、焦ってたんでしょうね」
 問うてみれば、

「もちろんです。この場が戦場になると分かった時点で心臓が飛び出しそうでしたよ」
 あけすけに返してくる。
 ついつい心臓じゃなくハツでしょ。と、つまらんボケを口から出しそうになったのをぐっと堪える。

「広範囲を破壊するような攻撃手段を実行されなくて胸をなで下ろしております。感謝いたします。勇者殿」

「ハハハ――」
 と、俺も空笑い。
 俺個人の力で広範囲を破壊できるのはスプリームフォールくらいなもんだ。
 この室内で使用すれば俺達だって無事じゃすまないから、端から使うつもりはなかったけど。
 
 後、やばくてもゴロ丸を召喚するという選択をしなくて良かった。
 キュッキュ言いながらミスリルボディで暴れていたら、謁見の間がどえらいことになっていたことだろう。
 間違いなくクロウス氏のエンレージがMAXになっていた。
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