異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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天空要塞

PHASE-1551【闘技場】

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「では、始めましょうか」
 開始の合図とばかりに羽扇を軽く振ってくるので、

「イグニース!」
 直ぐさま対応。

「警戒するのはいいことね」
 対面する方からは微笑み。
 構えると同時に炎の障壁で隊伍を守るも――なにも起こらなかった。
 
 とんでもない存在が手にする代物だから、軽く振っただけで暴風でも生み出すのでは? と、警戒したけど取り越し苦労だった。
 でも、常にそのくらいの警戒はしておかないといけない相手ではある。
 で、暴風が巻き起こることはなかったけども……。

「床が揺れてます!」
 コクリコが言うように、羽扇の一振りを合図としたかのように振動が靴裏から伝わってくる。
 
 徐々に強い揺れへとなる中で、

「ほえぇぇ~」
 間の抜けた声を上げてしまう。
 天井が俺達から離れていく。
 正確には、俺達が立つ床が要塞底部である半円部分から切り離されていく……。
 眼界に入ってくるのは、随分と懐かしく思う曇天模様の外殻風景。
 
 ――……。

「凄いギミックだな……」

「ゲッコーさん。これは……」

「リングアウトは死に直結の浮遊闘技場ってところだな」
 と、返してくる。

「落下だけは絶対に避けないとですね」
 ユーリさんも緊張した声音にて続く。
 どういった原理なのかは分からんが、底部が要塞から切り離されることで出来上がるのは、円形の闘技場。

「要塞と切り離されても浮き続けていますけど、これがひっくり返るってことはないですよね?」

「どうかしら~」
 リンのような蠱惑の中に意地悪さが混じる笑み。
 掴み所のない性格ではあるが、ここにきて床をちゃぶ台返しみたいにして俺達を落とすって事はないと信じたい。
 じゃないと相手をするという発言と矛盾するからな。

「心配しなくてもちゃんと戦うわよ」

「それを聞いて安心です」
 ちゃぶ台返しがないと知れば安堵。
 まあ、圧倒的な強者と戦うって事になるから、まったくもって安心ではないけど……。

「では七人――かかってきなさい」

「オイラを入れてるかな? 八人だよ」

「ごめんなさい。では八人――いらっしゃい」
 余裕あるな。

「では遠慮なく」

「おん!?」
 俺の横を風が通り過ぎる。
 まさかのベルが先行。

「これは!」
 余裕を見せていた翼幻王ジズが瞬時に強張る。
 いつもならスパルタとばかりに俺を戦わせようとするベルが先行とはね。
 そして先手。
 翼幻王ジズに対してレイピア一閃。
 横に薙ぎれば、翼幻王ジズ――ベスティリスが受け止めつつも直撃はゴメンとばかりに距離を取る。

「強いとは聞いていたけど、いまの一振りで破格の力を有しているというのを理解。全身の毛穴が開いたのは魔王以来かしら」

「造作もなく防いだようですが」
 確かに。
 ベルの剣筋を見切り、風を圧縮させて作りだしたスイカ大の球体を右腕に留めて斬撃を受け止めた。
 大魔法パイルストームを応用したような風の玉。
 防御だけでなく、攻撃に転用されても危険な技だというのは容易に理解できる。
 
 攻撃を防ぐ為だけに、お手軽にラズヴァートが使用するような大魔法クラスを使用してくるか。
 もしくはそうしないとベルの斬撃を防ぐのは難しいといった判断からか。

「間髪入れずに――だ!」

「了解!」
 ベルに続くようにゲッコーさんとユーリさんも動き出す。
 ベルのような直線的な素早さではなく、蛇行による走法はすり足によるもの。
 ゆるゆるとした動きのようでありながら、ベスティリスとの間合いを一気に詰めていく。

「妙な動き。遅いようで速いこと」
 相手もそう思っているようだ。
 これに合わせるようにベルも次へと移行。
 二人よりも先に接近し、距離を取らせないように接近戦にて足止め。
 ――おお!
 って! 感心している場合じゃない!

「兄ちゃん!」

「分かってる。しっかりと掴まってるんだぞ!」
 直ぐさまアクセル。
 ベルと正面から向き合って戦うベスティリスの側面へと瞬時に移動。

「ここでようやく中心人物の登場ね」
 余裕ある声音に寒気を覚える。
 ベルを相手にしているのに声に余裕があるってのは、それだけでやばい。

「爆刀!」
 初手は残火による居合い。
 鞘の内部でブレイズを発生させての抜刀術。
 纏わり付く寒気を振り払うかのように全身全霊の神速抜刀。

「速いけど」

「ふふん!?」
 左の拇指と食指の二本の指で掴まれる――というか摘ままれる。
 びくともしない俺の残火……。
 細い腕からは想像がつかない膂力とピンチ力。

「くぬぅぅぅん!」
 引き離そうと力を出す中で、

「おう!?」
 摘まんでいた刀身を解放され、勢いよく尻餅をついてしまう。
 ベルへの攻撃に注力したいからということからか、反撃はなかった。

「ここまで防いでくる相手は初めてです」

「防御だけに神経を注がせていることを誇りなさい」
 風の球体を盾代わりにしてベルの攻撃を受け止めているところに、ゲッコーさんとユーリさんも参戦。
 接近して使用するのは二人ともAA-12。
 ベルが間合いの外に出たのに合わせてからのフルオートによる容赦ない弾幕。
 
 ――トリガー引きっぱなしで撃ちきれば――、

「確かにベルは誇るべきだな。並の攻撃は大立者同様にノーモーションで防げるわけだ」

「その程度の飛び道具では、妾の心胆を寒からしめることは出来ないわね~」
 飄々とした返し。
 発言どおり、ベスティリスに弾丸は届かない。
 流石はクロウス氏の主。部下以上のパッシブ障壁のようだ。

「ここはやはり至近による攻撃で!」

「ならばさっさと立て」

「おうよ!」
 尻餅から起き上がると同時に駆ける。
 ベルと俺の斬撃をパッシブ障壁で止めるということはなかった事から、見えない障壁は飛び道具にのみ反応するタイプと見ていい。
 再度、間合いへと入りこみ、刀身に炎を纏わせて振り抜く。
 先に仕掛けたベルの邪魔をしないように、ベルの攻撃が防がれたところに俺が逆から攻める。

「連携はいい。でも、美姫の剣筋と比べると相当に落ちる太刀筋ね」

「くっそ!」
 今度は摘まんではこず、鎬部分に左手の甲を当てて捌いてくる。
 こちらの体勢を崩されたところで、

「いだっ!?」
 一枚刃の高下駄による前蹴りを見舞われる……。

「崩れた体勢からよく防いだわね」

「……ど、どうも……」
 籠手で防いだってのに、その部分から痛みが体全体に広がりやがる……。
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