異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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天空要塞

PHASE-1575【俺に夢中】

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「信仰する風龍が囚われたことで、翼幻王ジズ殿は現魔王であるショゴスに従っていると?」

「簡単に言うとそういう事になるわね。剣神」

「初手で手を打てていたらと言うのですから、抵抗はしたんでしょう?」
 ここで俺が問えば、首肯で返ってくる。
 ベスティリスとの戦闘中、傷を負うのは現魔王以来とも言っていたしな。

「抵抗し、戦い、信仰対象が囚われ、負けてを認めたと」
 質問を継げば、

「ええ。完全敗北したという立ち位置にならないようには励んだけどね」

「完全敗北だったなら、大幹部ってポジションにはなれなかったでしょうからね」

「その通り。その場合、絶対服従を強いられただけでしょう」

「そうならないために、したたかに動いたんでしょうね」

「苦労したわよ」
 という発言は軽やかな声音だったが、重さのある語気が潜んでもいた。
 苦労が声となって滲み出たな。

 ――前魔王であるリズベッド側に最初は協力し、風龍の巫女として戦っていたそうだが、ショゴスとの直接戦闘で当時の魔王であるリズベッドがショゴスに力を奪われ、囚われてしまい敗北。
 そして四大聖龍リゾーマタドラゴンもショゴスにより封印された。
 
 これにより魔大陸での勢力争いはショゴスに軍配が上がった。
 敗北側でありながらベスティリスが大幹部のポジションに座ることが出来たのは、本人が言うように敗北した後の立ち回りが上手かったということなんだろう。
 
 ベスティリスの実力を目の当たりにしたショゴスは危険な存在と考えつつも、巫女としての立場である事を巧みに利用し、風龍を交渉材料として自身の配下に加えたそうな。

 ベスティリスも現状ではどうにもならないと判断したからこそ、その条件を呑んだという。
 呑んだというより自ら率先して呑んだようだ。
 リズベッドの敗北と、四大聖龍リゾーマタドラゴンの封印から直ぐに恭順の意を示した。
 徹底抗戦の構えを取らず、降伏という判断を選択した事で双方に無駄な被害が出なかったことをショゴスは大層、喜んだという。
 
 話を聞けば、ショゴスなるスライムは存外、仲間を思いやることが出来るヤツなんだな。と、漏らせば、そうではなく自身の手駒は自身の所有物。
 だからこそ失うことを勿体ないと考える。
 我欲を優先しているだけ。と、ベスティリスは返してきた。
 
 ――なるほどね。

蹂躙王ベヘモトとは馬が合うわけだ」
 思考がデミタスから聞いた蹂躙王ベヘモトと一緒だ。

「馬が合うように見せてはいるでしょうね。蹂躙王バカの方は」
 いずれは自分が覇権を握ると考えて行動しているヤツだから、今以上に力を蓄え、魔王の座を虎視眈々と狙っている。
 利用という点ではショゴスも同様。
 互いに利害が一致しているから現状、手を組んでいるだけとのこと。

 自身の手駒を失うのを勿体ないと考える。だから早い降伏に喜ぶショゴス。
 そして、高順さんが鎮護する要塞トールハンマーによって北伐が上手くいかなくなれば、所有物である兵の消耗を惜しむようになって動きが鈍化した蹂躙王ベヘモト
 
 双方の性格が完全に一致しているからこそ、お互い腹黒い腹での探り合いってことだな。

「同族嫌悪ってやつか」

「その通り。分かっているじゃない勇者」

「どうも」
 そして話はベスティリスがショゴスに敗北した後に移行する。
 ショゴスの目に留まったのは、自力で飛行可能な者達で組織化されている軍勢。
 こういった者達による伝達速度は素晴らしく、大層に重用されているそうな。
 忠誠を見せるように、その特徴を存分に発揮し、様々な指示にも従ったという。

 で、俺がこの世界に来る前の人類サイドであるカルディア大陸にて尖兵として動き、蹂躙王ベヘモトの軍が出張ってくるまで大いに人類サイドを苦しめたそうな。
 これに関して、ベスティリスは軽い調子で謝罪してくる。
 言葉の軽さからして、別段、人類に対してそこまで感心を持ってはいないというのは理解したよ……。
 誠意が伝わってこなかったからね……。
 自分たちフェイレンと、翼や羽を有する翼人系。何よりも風龍を優先し、他への関心は薄いようだ。

 で、励みに励み、魔王軍内にて随一の伝令使を有する勢力として各地にて大活躍。
 ショゴスからの覚えはより良いものとなったそうだ。

「信頼を勝ち得たわけですね」

「そんな訳ないでしょう。アレが他者を信頼するなんてありえないもの」
 ――自分の役に立つ。
 ――自分という存在を伝え広げる。
 ――常に自分。
  
 全てが自分へ帰結することを最優先する者。それがショゴス。
 信頼ではなく、ショゴスという自分の為に動く者がいるというのが嬉しくて仕方ない。

「幼子の精神のまま、大きくなったような存在なのが今の魔王よ」

「うわ~関わりたくないですね。そんなメンタルエイジがクソガキッズなヤツとは」

「後半の意味はよく分からなかったけど、嫌が応にも貴男は関わるわよ。勇者」

「ですね。しかし、天空要塞を最前線であるこの大陸に配置しているのに、動かないことに対してお叱りはないんですか?」

「無いわね。理由は蹂躙王バカも動けないでいるから」
 最前線で何かしらの問題が起こっているからこそ、両名が動かない。
 
 その理由に起因しているのが――、

「貴男ね。勇者」

「ですよね」
 俺という存在がこの世界に現れ、皆の協力にて不利な形勢から盛り返してきた。
 これにより蹂躙王ベヘモトは足踏み。
 この足踏みに便乗し、片方との連携が取れなくなったことで自分たちもこれ以上の侵攻が難しいという言い訳で動かなくなったベスティリス。
 
 その程度の弁解で魔王が納得するのか? ということなんだけども――、

「するのよ」
 と、言い切る。

「さっきも言ったけど、勇者は関わらないといけないの。なんたって魔王は貴男個人にご執心なのだから」

「俺個人――ですか」

「そう貴男に。貴男の登場が今回の戦いに転換をもたらした。どうやってそれをもたらしたのか――そこが大層、気になっているようね」
 目の前のオッドアイ美人にすら太刀打ち出来ない俺。
 そんな実力しかない俺個人などショゴスは歯牙にも掛けないだろう。
 となれば、俺に執着する理由は一つしかない……な。

 自分の腰へと視線を落として見るのは……ポーチ。
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