異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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驕った創造主

PHASE-1627【使用場所は考えよう】

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「今回はオルトに出させてばかりで申し訳ないな」

「いや良いんだ。それよりも……」

「なんだ?」

「……アップはあんな風に色気あるテクニックも持っていたんだなって……」

「うっ……。私だって本心では嫌に決まっているだろう! これも情報を得るためだ」

「なんか軽くショックを受けてしまったよ……」
 実際は軽くどころか、体をバトルハンマーで強く打ち付けられたような衝撃を受けてしまったけどね……。

「私は軍人だ。少しくらいはああいった籠絡のすべを学ぶこともある」

「そんな事も学んでるの!?」
 なんてけしからん! そんなのがあるなら是非とも俺にも手練手管で絆してほしい。
 いくらでも金をつぎ込む自信しかないから! 公爵領の財を全て吐き出してしまう自信しかないから!
 
 だがしかし、

「やっぱりいつもの凛とした姿がいいね。しな垂れるような所作のアップは見たくなかった……」

「だから私も嫌々ながらやっている。手を握るだけでも恥ずかしくなって籠絡における実技はまったく駄目だったくらいだからな」

「実技ぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいぃぃぃぃいぃぃっい!?」
 咆哮。
 実技という単語に咆哮してしまう俺氏。
 なにそれ。軍ではそんな事が行われているのか……。
 スパイ育成なんかのために、そんな実技もあるのかもしれんな……。
 
 なんと……、

「破廉恥……」

「誰が破廉恥だ!」

「ぎゅしゅいん!?」
 本日二度目の外側広筋へのローキックは、一度目よりも鈍痛がひどい。
 衝撃が体全体に伝播して地面を転がる……。

「まったく! 少しは頼り甲斐も出てきたと思ったらこれだ!」
 ん?

「いま何と? 頼り甲斐が出てきたと?」
 つまりはベル視点で俺が男として頼りになるということでしょうかね。
 進展。
 これは紛う方なきプログレス!

「そうだよな。アップは清楚な存在。それを破廉恥と言って申し訳なかった。男として間違った発言だったよ」

「ハッ! なんとも恰好をつけた声だな。だが生まれたての子馬のような震えた足でそれを言ってもな」

「おいガリオン! ここでチャチャ入れてんじゃねえよ!」
 足がプルプルしているのは事実だけども!

「とにかく、頼れる存在としてこれからもしょうじ――おう!?」
 風切り音。
 首を傾けての回避動作をする俺の前では、フルプレートに身を包んだジージー。
 腕を払えばギンッと金属音を発し、足元に細長い矢? が、突き刺さる。

「うむ。矢にしては長いな」
 矢羽根がついている短槍って感じだな。

「市中で投擲とは何を考えとる!」
 レギラスロウ氏、激高!
 大通り。
 空は既に暗くなっているが、中心都市の大通りとなればファイアフライを応用した街灯に、建物の所有者が道沿いに灯してくれているランタンなどのお陰もあり、ビジョンを使用しなくても十分に一帯を見渡せる。

 灯りの先では団体さん。
 
 不敵に笑いを漏らして俺達の進路を妨害。
 ハマードの店先で酒を楽しんでいた人達は何事かと、距離を取りつつ俺達と向かい合う集団に目を向ける。

「本当に力の推量ってのが出来ないんだな……」
 呆れ口調のガリオン。
 気分良く酔っていたのに、目の前に現れた馬鹿共のせいで興醒めといったところ。

「アンタが所属している連中もこうなんだぞ」

「ああ、それを言われると返す言葉もねえな。目の前のを見ていると痛感させられるってもんだ」

「領地に戻ったら」

「心身共に鍛え直さないといけないな」

「良い心がけだな」
 二人して言葉を交わしていれば再び風切り音。
 ギンッ! と、ジージーが再び払い落とす。

「だから市中でそんなもんを投げるな馬鹿共が!」
 レギラスロウ氏のエンレージがMAX。
 ズカズカと強い歩調で相対する集団へと歩み寄っていく。

「引っ込んでろドワーフ!」
 お、聞いた声。
 昼頃ぶりかな。

「無駄にデカいだけのブリ雑魚さんじゃないですか」

「クソガキが! ちょっと運の良い一撃を打ち込めたからっていい気になりやがって!」
 あれを実力差と考えられないのがおめでたいね。

「ぬるいクエストばかりをこなしてきて、それを成功させてきたことが自信となり、自分が強い存在だと過信。典型的な雑魚思考だな。ブリ雑魚さん」

「ブリオレだクソガキ! やれ!」
 側のヤツに命令すれば、三度目の投擲。
 これまたジージーが防ぐ。
 簡単に防いでくる存在と相対する時点で、連中も厭戦ムードになればいいのに。

「数が多いから調子づいて彼我の力量差を更に測れなくなっているな」

「内の連中を見ているみたいで心底、恥ずかしくなってくる」

「まあガリオンのところは上がしっかりしているからな。軌道修正は可能だろう。でも――あいつ等は難しそうだな」
 ブリオレがギルドの上澄みってことだったからな。
 上がダメな時点で続く連中はどうにもならないね。
 こういう時は上をさっさとしばき倒すか。
 ――いや、ここは二度とふざけた行動が出来ないように、目の前の全員を徹底的に叩き伏せる必要があるな。
 レギラスロウ氏が言うように、市中で投げるものではないのを躊躇なく投げてくる性根は叩き直さないといけない。
 
 ポンポンポンポン手軽に投げてこられたら、俺らはともかく周囲の方々に迷惑がかかるからな。

 ――で、

「アレってなんていうんだっけ?」
 手に持った棒に短槍を引っかけてから投擲するヤツ。

「アトラトルって投槍器だ。市中では弓矢の使用は禁止されているからな」
 本来アトラトルも使用禁止だけども、弓と違って投槍器の棒は隠しやすいから馬鹿どもが使用する! と、レギラスロウ氏。
 目の前の馬鹿たちが使用しているのが良い例だな。
 弓矢や投石に投擲武器としての座を奪われたものらしいが、それでも十分に脅威であるのは変わらない。
 
 そんな迷惑な代物を一般市民の多い場所で使用するという冒険者として失格な連中。
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