異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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驕った創造主

PHASE-1636【次は北東】

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「タークさんが頭を抱えることではないですよ。どんなモノであっても使う者の心根次第だとレギラスロウ氏は言っていました」

「あの方はそうおっしゃってくださいましたか」
 と、やはりハダン伯が頼み込んでこの都市に招いただけあって、この地におけるナンバー2でもレギラスロウ氏には敬意を払っているのが言葉から伝わってくる。

「副作用や依存性とかはないんでしょう?」

「そのような報告は受けておりません」
 だからこそ未だに販売を許可しているんだろうからね。
 実際問題、恐怖を取り除くってのが出来るのは戦闘時においてはありがたいからな。
 魔王軍にて最大兵力を有する蹂躙王ベヘモトとの戦いも近い。
 三百万という馬鹿げた数と対面する側に立つとなれば、誰だって逃げ出したくなる。
 それを留めてくれる効果があるのなら正直、俺はそういった商品の流通は有りだと思っている。
 ベルセルクのキノコのように、口にした者の恐怖を取り除けても理性が飛ぶようなデメリットがあるのは問題外だが、効果が薄くてもデメリットがないスティミュラントならバフアイテムとして俺個人でも使いたいくらいだ。

「今度はスティミュラントの製造所にお邪魔しようと考えています」

「となると、アサードアズですか」

「アサードアズ――ですか?」
 ――アサードアズ――メメッソから北東に位置し、馬で二日ほどの距離にあるという。
 中規模な町だがスティミュラントにて大きな富が入り込んでおり、町全体の景気はいいそうだ。
 
 現在、開発陣の判断で製造所には多くの私兵が配置されているそうで、クルーグ商会のトップ陣ですら、おいそれと踏み入るのが難しくなっているという。

「なんとまあ」
 きな臭いこって。

「我々も目を光らせてはおりますが、良からぬ事を考えているということはないようです」
 ただ製造だけをしているだけならいいけども――、そこは明日のミルモン待ちかな。
 見通す力でビンゴを狙いたい。

「まずは行って調べてみますよ」

「ご命令があれば我々も即、動きます」

「その時は頼らせていただきます」

「ならばルーフェンスを同行させましょう。任せていいか?」

「無論です。公爵様、宜しいでしょうか?」

「よろしくお願いします。ルーフェンスさんのようなエリートがいてくだされば、現地の兵を素早く動員できるでしょうからね」

「ロイル領の兵の強さをお見せ致します」

「出来る事ならこの地ではなく、南伐の時に目にしたいですね」

「可能であればそうあってほしいものです」
 ルーフェンスさんだってこの地で刃傷沙汰なんて御免だろうからな。

「本日はお疲れでしょう。人数分の部屋を用意しておりますので、ごゆるりとお過ごしください」
 言えばそのタイミングに合わせて俺たちのパーティーと同数からなる給仕さん達が執務室に入室。部屋へと誘導してくれる。

 ――各々が自分の時間を過ごさせてもらった。
 人目のない個室でようやく自由な時間を得たからな。ジージーもグレートヘルムから解放されていることだろう。

 ――。

「公爵様、メメッソの北門外にてお待ちしております」

「分かりました」
 タークさんに見送られつつ、ルーフェンスさんと今後の事を話し終える。
 鮮やかな黄色い羽毛に覆われたリレントレス・アウルに装備一式を乗せてから一足先にルーフェンスさんは北門へと移動。
 これにデッカいのも続く。

 ――ハマードへと向かって歩く。
 昨晩の大騒ぎとは違った賑やかさに支配されている大通り。
 朝から酒を楽しんでいるのもちらほらといるが、殆どの方々は労働に従事するために活動中。
 昨日の騒ぎを知っている方々もいたようで、俺たちと目を合わせれば、タンカードを手に持ったかのような手振りにて笑顔。
 一躍、人気者となってしまった俺たち。
 特にベルに対しては皆さん畏敬の念を抱きながらも目尻を下げながら挨拶。
 一番人気である。

「一晩で人々の心を鷲づかみにするところは流石は勇者といったところだね」
 ワックさんからのお褒めの言葉。
 自分は何もすることが出来ずに見守っていただけなのが不甲斐ないと言うけども、

「今回のようにワックさんが俺たちに同行してくれるのは有り難いですよ」
 特に俺の装備面で。
 火龍の装備はメンテナンスはほぼ必要はないけども、その生みの親がいてくれると見てもらえるからね。
 昨晩、邸宅でワックさんが俺の装備を手入れしてくれた。
 お陰でグローブと一体型の籠手、プールポワン調のブリガンダイン。残火とギムロン作のマラ・ケニタルが凄く綺麗になっている。
 
 冒険の合間にメンテナンスはするけども、やはり素人の俺とワックさんでは違いは歴然。
 こういった差を見せられると、ワックさんには後方で素晴らしい装備を製作してもらいたいと思う反面、今後の戦いを考えれば前線で戦う者達の装備を直ぐ側で手入れしてもらいたいという思いも湧いてくる。
 戦闘中に斬る、突く、叩く、守るが十全で発揮できなければ今後の戦いを生き抜くのは難しいからな。
 ゴロ太を見つけ出した後、ワックさんにはそこのところを相談したいね。

 ――。

「あ、どうも。待たせてしまったようですね」

「どうぞお気になさらず。あれだけの報酬を頂いて自分の方が遅れてくるのは礼儀に欠けますので」
 ハマードの前ではエマエスが待ってくれていた。
 前払いと案内役としての報酬で円形金貨十枚という破格の報酬だからね。
 そら不手際がないようにするよね。
 こちらとしては嬉しくもあるしな。

「おはよう兄ちゃん」

「おはようミルモン。眠そうだな」

「寝ずの番だったからね」

「偉いぞ」
 いつもの定位置に座るミルモンの頭を優しく指で撫でてやれば喜んでくれる。
 
 ミルモンが邸宅に帰ってくることはなかった。
 
 つまりエマエスは俺たちにとって邪な考えを抱くことなく協力してくれるって事だ。
 審美眼が確かなレギラスロウ氏が買っている人物なだけはある。
 次の目的地であるアサードアズでは、信頼を寄せて共に行動ができる。
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