異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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驕った創造主

PHASE-1686【融通が利かない】

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「情報を得る為にも、この先へとお邪魔しないとな」
 吊り橋を渡り終えれば眼前には扉。
 重厚感のある鉄扉は、洋館同様に真新しい。

「中に入るぞ」

「おう。頼む」
 ここは俺がとばかりに、ガリオンが鉄扉を両手で押す。
 ゴゴゴゴ――ッと、重々しい音を立てながら押し開けば、

「闘技場のような造りだな」
 開かれた先は古代ローマのコロッセオを思わせる。
 これも既視感だ。

「ブルホーン要塞にもこれと似た場所があったな。馬鹿息子のカリオネルが俺たちに合成獣をけしかけてきたよな」

「つまりは、ここで同様の事が行われているという事かもしれない」

「だな。生み出した合成獣たちをこの円形闘技場で戦わせ、実用性があるかの実験をしているのかもな」

「どちらにしろ不愉快な事この上ない。ここに来てからそう思う事ばかりだ」
 ベルのお怒りメーターが更に上がっているようで、チンカチンカのしゃっこい声にて言葉を発する。

「み、見ろ」
 冷え切った声に当てられ、若干くぐもった声になってしまったガリオンが食指を伸ばす。
 向けるのは地面。
 円形闘技場の地面は、石の地面に白砂がまかれたものだった。
 その白砂に付着しているのは赤黒い色やくすんだ黄色。
 合成獣の実力を確認する為に、試験的な戦闘を行った形跡と見るべきだな。
 
 中には、

「固まりきっていないのもあるな」
 ちょっと前までここで戦いが行われていたようだ。

「下だな」
 ベルが何かを感知する。
 その次には、

「おう、ご登場か」
 石床の一部が上の方へと開けば、下へと続く通路が現れ、そこから――、

「招かれざる客はまさかの舞姫様か」
 ソドンバアムと数人の私兵のご登場。
 次にソドンバアムが指笛を一つ鳴らせば、それを合図に円形闘技場の観客席側からも私兵達が現れる。
 ざっと見て五十人ほど。
 かなりの人数を待機させていたようだな。
 そら洋館の方は静かなわけだ。
 豪奢な洋館よりも地下の方が本命ってことなんだろうし。

「冒険者。なぜ舞姫とここにいる? それに知らないのも増えているな。それもやり手の連中ばかりのようだ。明らかにこちらに敵対の意思があるようにも思われる」

「なぜそう思うので?」

「前髪で左目を隠した偉丈夫の右目による睨み。グレートヘルムの者から伝わってくる闘気。なにより――」
 ソドンバアムが炯眼となって凝視してくるのは俺の――後方。

「まさかの騎鳥隊隊長であるルーフェンス・オルドナル殿のご登場か」
 騎鳥隊という名前に円形闘技場全体から驚きの声が上がる。
 なぜ騎鳥隊がこんなところに!? というのが主な内容だった。
 ロイル領を統轄する側の精鋭が何用でここに来たのか? 私兵達には分かっていないようだった。
 この場にいる面々は、自分たちの仕事に後ろめたさを感じていない。
 カイメラの計画全てに荷担していないからこそだろう。

「ソドンバアム・イル! 貴様はここでなにをやっているっ!! 栄えある騎鳥隊を辞め、なぜこの様な場所で良からぬ連中とつるんでいるのか!」 
 ルーフェンスさんの怒りは俺の想像以上。
 あまりの迫力に相対する私兵の面々も表情が引きつる。

「流石は騎鳥隊の隊長殿。こちらの気骨ある面子がわずかだが呑まれている」

「貴様は飄々としているな!」

「俺も元とはいえ騎鳥隊の隊長だからな。お前の怒気程度で気圧されるかよ」

「そんな事はどうでもいい! 質問に答えろ!」

「クルーグ商会の製造所で私兵をしてんだよ。世のため人のためにな」

「なにが世のためだ! なにが人のためだ! ただ金が欲しいだけだろう!」

「そら金は欲しいね。だが言っている事は嘘じゃない」
 笑みを湛えるソドンバアム。
 薄ら笑いとかじゃなく、自信からくる笑み。
 言っている事は嘘じゃないようだけど、

「ヘラヘラと!」
 ルーフェンスさんは俺とは違って笑みに対して怒り心頭。
 相手に対して怒りに支配されているからか、普通の笑みでも嘲笑に見えたようだ。

「少し冷静になりましょう。相手の方が余裕を持って対応しています。その時点でルーフェンスさんは負けていますよ」

「そんな事はありませんよ!」

「ありますよ」
 だから声を荒らげて返すわけだし。
 
 諭してから深呼吸をさせれば、

「さっきまで製造所内でなにが起こっていたのか分かっているのか?」
 声が冷静さを取り戻す。

「ん? 合成獣の売買が行われているはずだが」
 やはり知らないってところか。

「そんな事は行われていない。おぞましいアンデッドによって、会場の参加者達が命の危機にさらされていた」

「――なに言ってんだ?」
 いきなり現れて、世迷い言を口にする。
 これには周囲の私兵達も嘲りを顔に貼り付けてくる。
 世迷い言を口にする闖入者ともなれば、説得力は無いに等しい。

「騎鳥隊の隊長なら、もう少しまともな嘘でも吐いたらどうだ」
 小馬鹿にしてくるソドンバアムにルーフェンスさんは歯を軋らせ、

「貴様というヤツは!」
 冷静さが消え去り、怒りのままに抜剣……。
 騎鳥隊としての矜持を汚し、尚且つ悪に荷担していると判断しているからか、ルーフェンスさんは元同僚であるソドンバアムしか見えていない。

「落ち着いてください」

「申し訳ありませんが無理です!」
 って、俺の言う事も聞いてくれないんだもんな。
 クソ真面目な人って、融通が利きにくいのが欠点だよね。
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