異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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驕った創造主

PHASE-1702【吸虫】

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 ――ふむん。知性があるアンデッドか。
 リンが使役するアンデッドなら分かる。
 術者が超一流だし、なによりアンデッド達が知性を有した上位種が多いからな。
 でも迫って来るのからは、知性を感じ取ることは出来ない。
 だがバルバダイの指示に従っている。
 橋を渡る時もそうだったな。
 俺たちを狙うのをやめて、橋を落とそうという知恵を持っていた。
 死霊魔術ネクロマンシーと判断すればそれらもあり得るけども、

「白衣組に最高位の魔術師がいるとは思えないな」

「聞こえているぞ勇者」
 と、荒ぶった声ではなく得意げな声音。
 何かしら語りたいようだな。

「お宅らが独自に生み出した技術があるみたいだな」

「その通りだ! 我々はアンデッドすらも使役するまでに至った!」

「ネポリスではアンデッドの暴走が原因で施設を放棄したように見えたけどな」

「ああいった失敗を乗り越えるからこそ成功を収めることが可能なのだ。最初から全てが思い通りになる事などあるものか。なると思っているのならば、それは愚者の幻想」
 この会話部分だけを切り取って聞けば、真っ当な研究者なんだけどな。

「それで成功したってのは?」

「戦闘中だというのに質問とは余裕だな。流石は勇者といったところか。様々な死線を乗り越えてきた褒美に教えてやろう」

「有り難いね」
 実際は自分が喋りたくてウズウズしていたくせに。
 認められていないからこそ称賛を渇望するってのは会場でも目にした。
 こういった連中は誇りたいんだよな――自分たちが築き上げてきた功績ってのを。

「なぜアンデッドが私の指示に従うか。当然ながら私のような魔法に凡庸な者が、死霊魔術ネクロマンシーという高位魔法を会得するなど不可能」
 門外漢なところは素直に凡庸って言えるんだな。
 プライドが高そうだから、そういった発言をするとは思わなかった。

「ならば違う方向から攻めたと?」

「その通り! アンデッドとなればどうしても知性が無くなる。生者を襲うことだけに傾倒する」

「でもそうはならない」

「そうだ」

「それを見いだして研究し、成功させたって事だな。凄いことだよ」

「勇者殿は存外、聡いようで。話が円滑に進む」
 喜んでら。
 勇者呼びから殿をつけた敬称呼びになっているし。
 やはり自分たちに対して称賛を送る者には、嬉しさから対応がコロコロと変わるみたいだな。
 頭は良くても単純ってのは困りもの。
 単純だから承認欲求を満たしてくれる者には染まりやすそうだ。

「それで――どんなタネがあるんだ?」

「アンデッドが生者に従わないなら別の部分からアプローチを仕掛ければいいだけのこと」

「是非とも聞きたいね。お宅らの多大なる成果ってのを」
 言えば嬉しそうに口角を吊り上げ、同時に手を上げれば、

「――確かに知能があるようだ」
 バルバダイの手の動きに従い、タイニーガーゴイルと名付けられた空飛ぶゴブリンゾンビ達が一斉に動きを止めて距離を取る。
 統一性はまだまだだけど、それでも隊列を組む姿は軍隊然としていた。
 更に実験を繰り返して発展させれば、練度の高い軍隊にも匹敵する動きになると考えれば脅威だな。

「我々は如何にしてアンデッドを意のままに操るかを考えた」
 当然ながら高位の魔術である死霊魔術ネクロマンシーは不可能だし、リッチなどのような自我を持ったアンデッドを生み出すことも非常に困難。
 
 ならば外部からアンデッドに知恵を与えればいい。と、結論を出したそうだ。
 チャーム系の魔法に着目し、その部分を研究。
 状態異常に耐性があるのだから当然、魅了系の魔法は効果がない。

「ならば――」
 滔々と得意げに語る中で、バルバダイが合図とばかりに手を後ろへと伸ばせば、後方にいた白衣の一人が駈け足でバルバダイへと近づいて手にしていたモノを手渡す。
 リレーに使用するバトンサイズの透明な筒だった。
 
 ――なんか入ってるな。
 
 透明な筒の中に入った薄緑色の液体。
 そしてその液体の中で揺蕩う影。
 大きさにしてボールペンのような細長い物体。

「そいつは何だい? 明らかに生物のようだけど」

「我々がマナの力を利用して品種改良した新種の生物だ」
 マナの力を使ってか。

「なるほど」

「おや、驚かないようで。新種ですよ。マナの力で人工的に創り出すというのは、本来なら驚くべき偉業なのですがね」
 敬語にも戻ったな。

「実際、凄いよ」

「ならばもう少し驚いてほしいものですね」

「これでも経験豊富なんで」
 似た手法を目にしているからな。
 エルウルドの森でキュクロプス三兄弟。グレーターデーモンのヤヤラッタが中心となって生み出したエビルレイダーこと、後のツッカーヴァッテが正にそれ。
 ボールペンサイズの大きさのモノを見せられてもインパクトに欠けるから現状のリアクションは薄くなってしまう。
 小型化しているって判断すれば、厄介ではあるのかもしれないけども。

 何より気になるのはサイズよりも、

「どういった効果を及ぼすのかな?」
 タイニーガーゴイル――アンデッドの件からそれを見せてくるとなれば、それがアンデッドの知性に関与しているのだろう? と質問すれば、

「やはり勇者殿は存外、聡いですね」
 鷹揚に頷いて返してくれる。

「その柔軟な思考、我々と手を組んだ方がいいと思いますが」

「結構。そのカプセルの中身だけ教えてもらいたいね」
 木で鼻を括る対応で返答すれば口元をややへの字にしつつ、短い息を吐き出してから口を開くバルバダイ。

「これはジストマ・ブレーン」

「――ジストマ・ブレーン」

「ええ、マナストアという吸虫がいるのですが、それを改良して創り出しました」
 マナストア――寄生虫の一種だそうで、本来の長さは指の第一関節程度。
 マナ蓄えるという特徴を持っているという。
 
 生物の体内に寄生し、体内マナのピリアや体外マナであるネイコスを宿主から吸収し、それを養分として生きているそうな。
 吸収するだけで、この吸虫がマナを利用するということはないそうだが、バルバダイは生物に寄生することと、マナを体に吸収する事に着目したという。

 ――マナを多く吸収させるために大型化を目指し、指の第一関節サイズからボールペンサイズへと改良成功。
 
 ――次の段階では、マナを取り込むところにチャーム系の魔法を吸収させるということに成功。

 ――吸虫へ指示を与えることに成功。

 ――更に次の段階で、ボールペンサイズに成長させた寄生虫であるジストマ・ブレーンをアンデッドの体内に埋め込み、アンデッドの神経に定着させる。
 チャーム状態になっているジストマ・ブレーンが体を支配することで、知性の無いアンデッドを使役する事に成功。

 ――……うむ……。

「なにそのプラーガ」

「プラーガ?」

「まんまプラーガだよ!」
 よもやこの世界で低位のアンデッドに知性を与える研究者と出会うなんてね……。
 まあ、魔法有りきの世界ならこういった事を成功させるのも出てくるんだろうな。
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