異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,719 / 1,861
驕った創造主

PHASE-1719【ゴロ太のお願い】

しおりを挟む
 まずは盤面を自分たちの有利な方へと傾けよう。

「無尽蔵に水が手に入るからって、それで勝機を得られると思わないことだな」

「思ってはいない。言っただろう。ここならモーモーチャーチャーの力を全力で出せると。本領発揮は別段、水源だけを欲するためでははい」

「だったら広々と戦えるからか? 広くなればこっちも自由に動き回れるけどな」

「だから貴様は凡愚なのだ勇者」

「ああ、そうかい。きっちりと仕留めてやるからな!」

「仕留めるか。そうなるとジュニアが――な」

「ぬぅぅ……」

「ハハハハハハッ」
 無理に救い出せばゴロ太が元通りにならないというのが事実ならば、傘部分への直接攻撃は回避しないといけない……。
 渋面で立つ俺の横にベルとガリオンが立てば、

「その高笑いを直ぐに引きつったものへと変えてやろう」

「賛成だ。ムカつくことこの上ねえからな。傘部分から引っ張り出して殴り倒してやる!」

「ではまずは動きを奪うぞガリオン」

「合点承知!」
 あら、ベルとガリオンが連携で動くってのも新鮮だな。

「ゴロ太を無事に救うにはまずは無抵抗にする。その為には触手を全て断てばいいだけ」

「その通りってもんだ」
 触手を全て奪い、ゼリー状の傘部分だけを残して行動不能へと追い込み、ゴロ太を助け出すことに注力するという。

「よっしゃ! やってやるか!」
 俺も二人に続く。

「矮小な知性が集まってもその程度が関の山だな」

「追い詰められた後も同じことが言えたらいいな」

「追い詰めることが出来ればの話だぞ勇者。さあジュニア。救世主の力を見せつけてやりなさい」
 傘の内部でバルバダイがそう言う。
 言ったところでゴロ太からはなんの反応もない。
 今まではバルバダイに明るい笑顔で返事をしていたが、それがなくなっている。

 ゴロ太が声を発しないことに心配になるが――、

「動きがあるぞ」
 対面の反応に構えるガリオン。
 ソレと同時にモーモーチャーチャーの傘部分が大きくブルブルと震える。
 震えが触手にも伝われば、湖に沈めた触手が水面に波紋を生み出していく。

「なにをしたんだ?」

「決まっているだろうトール」

「ベル?」

「あの男はゴロ太に力を行使させたのだ。つまりは――」
 エメラルドグリーンの瞳が周囲を見渡す。

「あ、兄ちゃん……」

「ああ、分かってるよ。ミルモン……」
 これか……。

「こういう事が出来るようになるのか……」

「おいおい、お前等と一緒に行動していた白い子グマはとんでもねえ力をもってんじゃねえか……」

「おう、そうだな……。実際に目にするととんでもねえよ……」
 ――……S級さん達が目にしたのはコレか……。
 水源を求める以上に、この力を求めていたのか……。

「まあ、ワラワラと出てくる出てくる……」
 湖を取り囲む森の木々が激しく揺れば、葉が大量に落ち、それとは反対に跳び上がってくる数え切れない影。
 影の正体が月明かりに照らされる。
 ――……大小様々な野鳥の群れ……。
 
 異変は森の木々だけでなく、波紋が広がっていた湖でも発生。
 至るところからボコボコと泡が吹き上がってくれば、水中から現れるのは――大型ワーム。
 トールハンマー付近にいるウォーターサイドのような泥に覆われているワームとは違って、表皮がちゃんと見えるタイプ。
 茶褐色の表皮からなる環形動物が鎌首を上げて姿を見せてくる。
 水中に浸かっている部分の長さは分からんが、鎌首を上げた部分だけでも三メートルほど。
 環状の体節は木の幹を思わせる太さがある。
 そんな大型ワームが湖のあちこちから姿を現す。

「空が数え切れないほどの鳥に覆われ、湖からは大型のワームが多数出現。圧倒的な物量とは正にこの事……」
 実力あるジージーも、大多数が敵意を向けてくるこの光景に暗い声音となってしまう。

「スゲえよな」
 戦いは数と言うが、本当にそう思うよ……。
 これだけの数を即座に招集可能ってのは脅威でしかない。
 ゴロ太がいればその場その場で生息する自然生物を即戦力として投入できるってことになるんだからな……。
 この支配の力はどの勢力も喉から手が出るほどに欲する能力だ……。

「子グマの力を知れば、誰もが手にしたい力だな!」
 俺の心の声を述べてくれるガリオン。
 違うところは、俺は脅威と思うが、ガリオンは嬉々としたものだった。
 自分たちの力として使用する事が出来れば、これからの戦いが楽になるという思いが感じ取れた。
 俺もそういった考えが浮かばないわけじゃないが――、

「そのような事は許されない」

「お、おう……」
 鶴の一声。
 張り詰めたベルの声にガリオンは頷くだけ。
 ゴロ太の能力が如何に神がかった能力であっても、ゴロ太を戦場へと立たせるというのはベルが許さない。
 
 魅力的でもあるが、これが敵対する者に渡ればそれこそ目の前の状況が再びってことにもなる。
 安全圏で過ごしてもらっているのがいい。
 
 まあ、そういったことは置いといて――、

「今は眼前の脅威に集中しようか」
 本来なら俺よりもベルの方がまとめ役としては適しているだろうけど、今はそんな余裕もないだろうから俺が仕切らせてもらおう。
 勇者でもあるわけだし。

「どうするよ? 子グマの願いに応じた動物たちが俺たちに攻めてくるってなると手加減は出来ねえぞ」

「うん……」
 この場に動物保護活動に力を入れているシャルナがいれば、真っ向から反対してくることだろうけども、

「敵となる以上、俺たちも加減をする余裕はないだろう」

「そうだな」

「犠牲を最小限に抑えるためには、クラゲの中からゴロ太を迅速に救い出すってのが最適解だ」

「だな。じゃあさっさとやろうか」
 バチン! と、自分の掌に自分の拳を打ち込んで気合いを入れるガリオン。
 
 問題は、救い出すというのがとんでもなく難しいってところなんだよな……。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...