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驕った創造主
PHASE-1766【車両のエサ】
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「それで――」
バラクラバのS級さんに名前を聞こうとすれば、
「ヴィタリーという」
「ヴィタリーさんは王都に残っていたんですね」
「全員が全員、要塞へと動員されているわけじゃないからね。王都には重要な方々も多くいる」
「ですよね」
リズベッドが王都にいる以上、護衛として数人は残ってもらわないといけないからね。
ガルム氏や翁に優秀なメイドさん達もいるが、S級さんが側にいるとなれば安心感がさらに増すからな。
「失礼します」
ここでもう一人が入室。
入れ替わるようにバルバダイを連行してきた四人の兵士が俺へと一礼してから退室。
代わりに入ってきた人を見れば、
「寒くないですか?」
「いえ、大丈夫です」
とか言う割に、体は震えているから寒そうだな。
この寒い部屋に留まるには薄着だ。
「イシムと申します」
薄着姿を見ていれば、挨拶を催促したように思われたのか、上擦った声で返してくるイシムなる人物。
「で、貴男はどういった立場で?」
「自分は兵として王都の治安維持に努めておりますが、特殊な任務も重要と思い、後学のために参加を願い出ました」
特殊な任務――つまりは拷問ってことだな。
イシムって兵は拷問官になりたいわけだ。
生半可な思いじゃないのは目から伝わってくる。
うん……。覚悟っていうか、極まっていると例えるべきか……。
虹彩が薄い……。
「本当に寒くないですか?」
「この程度、これからこの男が見舞われる事に比べれば涼しいくらいです。それに綿素材のこの服ならセイデンキなるものが出にくいそうなので」
「静電気――ですか?」
「そうみたいです」
挨拶は緊張気味だったイシムだけど、今の会話は抑揚のないのっぺりとしたものだった。
虹彩だけでなく、語調からも薄ら寒さを感じさせる。
そんな人物の登場にバルバダイを見れば、俺たちを睨み返してはくるが恐怖を感じているようで、入室してきた二人に目を合わせようとはせず、この中で付き合いの長い俺だけを見てくる。
仕方ないので、
「俺たちに協力は――」
「く、くどいぞ!」
視線を俺だけにしか合わせてこないから話しかけてやれば、くい気味で断ってくるも声は上擦っている。
恐怖はあっても意地でも俺たちには協力しないという気迫はある。
随分と嫌われたもんだ。
――最高傑作を倒したり、ロイル領での蜂起を阻止されたんだから俺を徹底的に嫌うのは当たり前か。
俺も同じくらいコイツの事が嫌いだけど。
「どこまで耐えられるのか――」
と、先生。
この発言を皮切りに、
「始めよう」
「はい」
ヴィタリーさんが動けばそれにイシムも続く。
「な、なんだ! 何をするつもりだ!」
「無駄に動けば拘束具が体に食い込むことになる」
酷薄な声。
ヴィタリーさんの声を受けて生唾を飲むバルバダイの動きは大人しくなる。
ガタガタと震えるのは寒さからか、それとも恐怖からか。
どっちでもあるんだろうが――。
「おう……」
前者の方が更に強まるようだな。
ヴィタリーさんとイシムがバルバダイの拘束具を脱がせる。
上半身だけでなく下半身も脱がせてパンツ一枚だけの姿。
王様を前にした時、食事よりも実験なんかを優先していたと言うだけあってガリガリだ。
肋骨が浮き出るほどに痩せ細っている。
二の腕も前腕も棒切れみたいだった。
こんなんでよく俺やベルの攻撃に耐えてたもんだな。
「意外と根性あるんだな」
感心して本音として口から零れる。
「貴様の称賛などいらん!」
ガチガチと震えながらも聞き取りやすかったのは、俺に抱く恨み一心からきてんだろうな。
「いいぞ。気骨がある奴は好きだ」
「五月蠅い覆面野郎が!」
「その気骨をへし折るのは――もっと好きなんだよな」
「ひぃ!?」
薄く鋭い氷を連想させるヴィタリーさんの声。
椅子に座らせれば革のベルトで腕、足、胴体をきつく縛っていく。
冷え切った椅子に座る時の冷たさで歪む顔。
「準備を」
「分かりました」
指示に従えばイシムが退室――から直ぐに戻ってくる。
両手に持つのは木製の大きなバケツを二つ。
バケツには木製の柄杓。
静電気を気にしているだけあって、バケツも柄杓も金属を一切使用していなかった。
その理由は直ぐに分かった……。
「このニオイ……。ヴィタリーさん、バケツの中身は――ガソリンですか?」
「そうだよ」
「ガ、ガソリン?」
唇が青くなっているバルバダイが初めて耳にする液体がなんなのかと首を傾げるが、独特なニオイは明らかに安らぎを与えてくれるニオイじゃない。
「ど、毒か!?」
ニオイからそう判断してくるが、
「違う。まあ飲んだ場合、毒にはなるだろうが、まず飲むなんて馬鹿はいない」
と、ヴィタリーさん。
「この液体は我々が使用する車両の為に必須な液体だ。と、言ってもお宅には理解できないだろうけどな」
「馬鹿にするな!」
「それは申し訳ない」
寒さに負けず、白息を吐きながらもヴィタリーさんに向けて強い剣幕のバルバダイ。
さっきまでは怖くて目を合わせることが出来なかったが、無知に扱われることを天才は我慢できなかったご様子。
恐怖以上に怒りが勝った。
「簡単に言うと、我々が使用する車両のエサみたいなもんだな。そいつ等には毒にはならず、飲ませれば馬では太刀打ち出来ない速度と航続距離を生み出してくれる」
「そ、そいつは大したものだが、それがこの場において何の意味がある!」
「水を」
「はい!」
ヴィタリーさんが言えばイシムが急いでガラス製のグラスに注いだ水を準備。
今度は水か。拷問前に喉でも潤すのか? この寒い中で?
バラクラバのS級さんに名前を聞こうとすれば、
「ヴィタリーという」
「ヴィタリーさんは王都に残っていたんですね」
「全員が全員、要塞へと動員されているわけじゃないからね。王都には重要な方々も多くいる」
「ですよね」
リズベッドが王都にいる以上、護衛として数人は残ってもらわないといけないからね。
ガルム氏や翁に優秀なメイドさん達もいるが、S級さんが側にいるとなれば安心感がさらに増すからな。
「失礼します」
ここでもう一人が入室。
入れ替わるようにバルバダイを連行してきた四人の兵士が俺へと一礼してから退室。
代わりに入ってきた人を見れば、
「寒くないですか?」
「いえ、大丈夫です」
とか言う割に、体は震えているから寒そうだな。
この寒い部屋に留まるには薄着だ。
「イシムと申します」
薄着姿を見ていれば、挨拶を催促したように思われたのか、上擦った声で返してくるイシムなる人物。
「で、貴男はどういった立場で?」
「自分は兵として王都の治安維持に努めておりますが、特殊な任務も重要と思い、後学のために参加を願い出ました」
特殊な任務――つまりは拷問ってことだな。
イシムって兵は拷問官になりたいわけだ。
生半可な思いじゃないのは目から伝わってくる。
うん……。覚悟っていうか、極まっていると例えるべきか……。
虹彩が薄い……。
「本当に寒くないですか?」
「この程度、これからこの男が見舞われる事に比べれば涼しいくらいです。それに綿素材のこの服ならセイデンキなるものが出にくいそうなので」
「静電気――ですか?」
「そうみたいです」
挨拶は緊張気味だったイシムだけど、今の会話は抑揚のないのっぺりとしたものだった。
虹彩だけでなく、語調からも薄ら寒さを感じさせる。
そんな人物の登場にバルバダイを見れば、俺たちを睨み返してはくるが恐怖を感じているようで、入室してきた二人に目を合わせようとはせず、この中で付き合いの長い俺だけを見てくる。
仕方ないので、
「俺たちに協力は――」
「く、くどいぞ!」
視線を俺だけにしか合わせてこないから話しかけてやれば、くい気味で断ってくるも声は上擦っている。
恐怖はあっても意地でも俺たちには協力しないという気迫はある。
随分と嫌われたもんだ。
――最高傑作を倒したり、ロイル領での蜂起を阻止されたんだから俺を徹底的に嫌うのは当たり前か。
俺も同じくらいコイツの事が嫌いだけど。
「どこまで耐えられるのか――」
と、先生。
この発言を皮切りに、
「始めよう」
「はい」
ヴィタリーさんが動けばそれにイシムも続く。
「な、なんだ! 何をするつもりだ!」
「無駄に動けば拘束具が体に食い込むことになる」
酷薄な声。
ヴィタリーさんの声を受けて生唾を飲むバルバダイの動きは大人しくなる。
ガタガタと震えるのは寒さからか、それとも恐怖からか。
どっちでもあるんだろうが――。
「おう……」
前者の方が更に強まるようだな。
ヴィタリーさんとイシムがバルバダイの拘束具を脱がせる。
上半身だけでなく下半身も脱がせてパンツ一枚だけの姿。
王様を前にした時、食事よりも実験なんかを優先していたと言うだけあってガリガリだ。
肋骨が浮き出るほどに痩せ細っている。
二の腕も前腕も棒切れみたいだった。
こんなんでよく俺やベルの攻撃に耐えてたもんだな。
「意外と根性あるんだな」
感心して本音として口から零れる。
「貴様の称賛などいらん!」
ガチガチと震えながらも聞き取りやすかったのは、俺に抱く恨み一心からきてんだろうな。
「いいぞ。気骨がある奴は好きだ」
「五月蠅い覆面野郎が!」
「その気骨をへし折るのは――もっと好きなんだよな」
「ひぃ!?」
薄く鋭い氷を連想させるヴィタリーさんの声。
椅子に座らせれば革のベルトで腕、足、胴体をきつく縛っていく。
冷え切った椅子に座る時の冷たさで歪む顔。
「準備を」
「分かりました」
指示に従えばイシムが退室――から直ぐに戻ってくる。
両手に持つのは木製の大きなバケツを二つ。
バケツには木製の柄杓。
静電気を気にしているだけあって、バケツも柄杓も金属を一切使用していなかった。
その理由は直ぐに分かった……。
「このニオイ……。ヴィタリーさん、バケツの中身は――ガソリンですか?」
「そうだよ」
「ガ、ガソリン?」
唇が青くなっているバルバダイが初めて耳にする液体がなんなのかと首を傾げるが、独特なニオイは明らかに安らぎを与えてくれるニオイじゃない。
「ど、毒か!?」
ニオイからそう判断してくるが、
「違う。まあ飲んだ場合、毒にはなるだろうが、まず飲むなんて馬鹿はいない」
と、ヴィタリーさん。
「この液体は我々が使用する車両の為に必須な液体だ。と、言ってもお宅には理解できないだろうけどな」
「馬鹿にするな!」
「それは申し訳ない」
寒さに負けず、白息を吐きながらもヴィタリーさんに向けて強い剣幕のバルバダイ。
さっきまでは怖くて目を合わせることが出来なかったが、無知に扱われることを天才は我慢できなかったご様子。
恐怖以上に怒りが勝った。
「簡単に言うと、我々が使用する車両のエサみたいなもんだな。そいつ等には毒にはならず、飲ませれば馬では太刀打ち出来ない速度と航続距離を生み出してくれる」
「そ、そいつは大したものだが、それがこの場において何の意味がある!」
「水を」
「はい!」
ヴィタリーさんが言えばイシムが急いでガラス製のグラスに注いだ水を準備。
今度は水か。拷問前に喉でも潤すのか? この寒い中で?
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