異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,768 / 1,861
驕った創造主

PHASE-1768【悪因悪果】

しおりを挟む
「ふむふむ。汗の代わりにガソリンが気化熱の役割を担うということですか。この室内では水をかけられるよりも辛いことになるわけですね」
 俺が理解したところを見極めたのか先生が口を開く。
 寒い中でも気体へと変化するガソリン。
 水よりも早く気体へと変わる性質。
 柄杓を使用してガソリンを体にかければ、即座にそこから気体へと変化。同時に体温を急速に奪うってことか……。
 
 ヴィタリーさんが言うように、体を温めるために火が欲しくなる。が、火を欲せばそれで終わり。
 拷問から火葬へと早変わりってことか……。

 肉体的にも精神的にも追い込むのが拷問なのだから当然と言えば当然なんだけども……。

「こりゃキツいな」
 受けるヤツがとんでもない極悪人であってもそれを見るというのは俺には厳しい……。

「分かった! 話そう! それどころか協力しようじゃないか!」
 これから行われる事を想像したことでバルバダイが素直になる。

「私の叡智をお前――君たちに提きょ!?」
 むんずと右手で口を強制的に防ぐヴィタリーさん。
 口を潰すような勢いで閉じさせていた。

「シィィィィィ――」
 残った左手の食指を一本立てれば、

「ここまで長々と得意げに講釈をたれてしまって、じゃあ拷問は無しにするね。ってなると、俺がただ知識をひけらかしたいだけのマヌケになってしまうじゃないか」

「んん! ん、んんんっ!!」
 なんとか振り払おうと首を激しく振るけど、ヴィタリーさんの手を振り払うことは出来ない。

「もっと早くに素直になっていたならまた違っただろうが、分岐点は既に通過してしまった。二筋道という簡単な選択だったのにな。残念だ。これからは実地訓練だ。イシム君の為のダミードールになってもらう。天才殿の言葉を借りれば――被検体か」

「大いにこの被検体を使って学ばせてもらいます」
 イシムの言い様……。
 語調だけならヴィタリーさんといい勝負。拷問官としての風格が既に備わっている。
 で、俺の左肩では悦に入る表情。
 口元がめちゃくちゃ緩んでいる。最高の負の感情を全身で受け取っているんだろうな。

「大丈夫だから。貴男が凍傷に苦しんだとしても問題ないから。さっきみたいに直ぐヒールで治してあげる」
 苦しめて苦しめて、回復。
 即座に痛みを癒やすことで、終わることのない恐怖を身体に刻んでいく……。

「貴男が生み出していたのはアンデッドが多かったようね。創造主を気取るにしても、ままごと程度で留めておくべきだったわね。だから本物のアンデッドを相手にする事になる。貴男の目の前に立つアンデッドである私には感情なんてない。貴男がこれから苦しむ事になっても心は痛まない。だからずっと回復してあげる。でも――体は治っても、心までは治せないから。簡単には壊れないでね」
 アンデッド特有というべきか、ヴィタリーさんのような酷薄な発言から来る冷たさではなく、体全体から放たれる死の冷たさってのがバルバダイへと向けられる。
 感情が湧かないってのは嘘だろうけどな。明らかに怒っているし。
 
 目の前で放たれる冷たい感情に当てられてしまい、恐怖から大粒の涙を流し出す。
 暴れ回る目は、至近で見てくる三人からどうにかして視線を合わせないようにという必死さの現れ。
 で、俺と目が合う。

 合った瞬間に、

「おっと! 必死だな」
 ヴィタリーさんが手を離す。
 勢いよく噛まれそうになっていた。
 解放されれば、

「勇者! いや、勇者様! お慈悲をお与えくださいぃぃぃぃぃぃい!!」
 室内へと響く悲痛な叫びによる懇願。
 滂沱のごとく涙を流して震えながら叫ぶ。

「さて、主。我々はお暇しますか」
 絶望を与えるかのような先生の発言。
 同時に先生が俺の背中を押して通路へと誘導しようとする。

「勇者様! 勇者さま゛っ!?」

「もう口を開くな。冷気を体に取り込むことになる。これからたっぷりと経験する前に欲張りな天才殿だ。人々や生物を弄び裏切るその身には、擬似的な嘆きの川を体験していただこう」

「んんんっ! んんん゛!!」
 一瞥すれば、俺から視線を外すことはなく常に捕捉。
 心が痛くなるが、

「主、いらぬ情は入りません。この者は今からこの者が経験すること以上の絶望を与え続けてきたのですから」

「そうですね……」
 ここで余計な言動をするべきじゃないよな。
 ならば、

「発言はせず、見るだけですね」

「長居することはないかと」
 主は公爵であり勇者。
 勇者が拷問という行為を見るのはよろしくない。執行してくださる方々を前にしてこのような事を言うのも申し訳ないですが。と、先生。
 ヴィタリーさんとイシムはその考えは当たり前。拷問なんて見て楽しむとなればただの変態でしかないとのこと。
 
 俺が残ると知れば、助けを懇願するバルバダイだったが、それを黙らせるようにパシャリ――と小さな水音が上がる。

「ひぎぃぃぃぃぃぃっぃいぃぃぃぃぃぃいいい!?」
 絞るような悲鳴を上げて拘束された姿で暴れ出す。
 暴れたところで完璧に固定された体は椅子から立ち上がる事も、倒れることも、逃げ出すことも出来ず、ただただ頭を激しく振るだけ……。
 柄杓で軽くかけただけでこのリアクション。

「ああ……はぁ……あぁぁぁ……」
 かけられた部分から冷気が立ち上る。
 冷気という表現は正しいのか分からんが、気体となったガソリンだというのは理解できる。
 途端に、バルバダイの唇が真っ青になる。

「ちょっとした量で暴れられてもな」
 無感情な声のヴィタリーさん。
 寒さと無感情な存在が前に立つだけでバルバダイは、

「ああ……ああぁぁぁ…………」
 一度の行為だけで既に声が出せなくなってしまっていた。
 恐怖と体を襲う冷たさ。
 かけられた時の冷たさもだが、気化熱となって体温を奪っていく冷たさがかなり辛いようだった。

「凄いだろう。体温が奪われていくと同時に、自らの魂も奪われていく感覚を覚えるだろう?」
 ぶれずに無感情。
 バルバダイからすれば、目の前の男は死神でしかない。
 目の前の死神から逃げ出したいという本能から目に力が宿れば、

「んん! んんふぅうんっ!!」
 まだ動ける体力があるうちにとばかりに暴れる。
 拘束されたベルトから体を脱しようとするも、非力な体ではそれは叶わない。
 革のベルトが体に食い込んでいき、そこから血を流すだけ。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...