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驕った創造主
PHASE-1769【意識は南へ】
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――寒さと冷たさ。
そこから襲ってくる皮膚への痛みで暴れ出すバルバダイに対し、
「あら大変。血が出てるじゃない。ヒール」
ヴィタリーさんに負けず劣らずな酷薄、抑揚のない声で回復を行うリン。
瞬く間に傷が癒やされる。
癒やされたところに間髪入れずに、
「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃっぃぃい!?」
次のガソリンがかけられる。
一度目よりも多い量。
量が増えれば増えるだけ、椅子に座ったバルバダイの暴れ方もひどくなる。
――暴れて傷を負っても直ぐに回復。
そしてまた最初からとばかりに拷問が始まる。
ただ違うのは、繰り返される度に体へとかけられていくガソリンの量が増えていく。
「これはこれは」
拷問が進むにつれ、体は癒えても精神が削られていくことで反応が徐々に弱まっていくバルバダイ。
それを冷静に観察し、回復と苦痛を与え続ける事で対象者がどうなっていくのか。というのを知れるのは知識として新鮮だ。と、俺の横に立つ先生……。
負の感情が室内に充満していることで、俺の左肩にいるミルモンの表情はさらに恍惚となる。
フラフラと頭を振っているから、些か酔っているようだ。
淡々とこなしていくヴィタリーさんとイシム。
傷が増えれば即回復してくれる無表情のリン。
学ぶように見る先生。
酔いしれているミルモン。
隅っこでは、こちらのやり取りを眼窩に灯った光で凝視するだけのスケルトンキャスター二名。
――……どうやらこの場でいたたまれないという思いでいるのは俺だけのようだな……。
皆さんのメンタルは豆腐の俺とは違い、強靱な鋼で作られているようだ……。
しばらくして、
「さてさて、まだ続くのですか?」
先生が質問をすれば、
「ええ。バケツの中身が無くなれば追加すればいいだけですので」
というヴィタリーさんの返しを耳朶に入れるバルバダイはピクリと体を震わせる。
精神が弱り切っているからか、大きく動くということはない。
恐怖に浸食されてしまっている。
「ならば代わり映えはしないのでしょうね。帰りましょうか」
「見るべきでは? バルバダイの成り行きを」
「不要です。これ以上、勇者が見守ってやることはありません。この者はこれからも苦痛を与えられることになる――という事だけを主は理解しておけばいいだけのこと。結果を見届ける必要はありません」
「オイラとしては見ておきたいんだけど」
「ミルモン殿。勇者の使い魔がこの状況で悦に入るとなれば、勇者の品格が問われることになります。欲深く求めるのはよろしくないかと」
「分かったよ……」
先生に諭されれば唇を尖らせつつも頷く。
極上の負の感情を浴びるよりも、俺からの評価が下がることのほうが嫌なようで、後ろ髪を引かれつつも先生の意見に従うといったところ。
「では皆さん。後はよろしくお願いします」
俺に代わって先生が一礼して言えば、室内へと残る面子が軽く会釈。
体も精神もボロボロの中で奇跡を手繰り寄せるかのように、大粒の涙を流しながらこちらに救いを求める視線を向けてくる。
それを受け流し背中を向け、先生が開いてくれたドアから通路へと足を踏み入れたところで、
「ひぎゅぃぃぃぃぃぃぃぃっぃぃいいいんんっぎぃぃぃぃっ!?」
バシャリ! と今までで一番大きな水音とほぼ同時に断末魔を思わせる声が上がる。
声が俺の耳朶に届いたところでドアが閉められた。
閉めれば悲鳴は無理矢理に断ち切られる。
「防音が施されているんですね」
「そのようですね。外に漏れれば他の囚人が不安がるだけでしょうからね。その者達に配慮しての構造なのでしょう。ここの王はお優しい方なので」
「そうなんでしょうね」
牢屋の中で震えていたミルトンのおっさんがバルバダイの叫び声を聞けば、失神してしまうだろうからな。
拷問を受ける者の声を聞かせることで恐怖を与えるってのも方法としてはあるんだろうけど、先生が言うように王様はそういった行為を嫌うだろうな。
「嫌な気分ですか」
「極悪人がそれに見合った罰を受けるとはいえ、いい気分はしませんよ」
「それだけ主の思考が正常だということです」
「あいつはどうなるんでしょうね」
「そうですね――死を懇願してもそれが許される事もなく、今まで自分が行ってきたことを悔いながら苦しみ続けるか、はたまた廃人となるか――アンデッドとなるか。この世界は選択肢が多いので、あの場に残った方々の行動の結果次第となるでしょう」
「そうですか」
流石というか、先生は冷静そのもの。
眉一つ動かすことがない。
バルバダイのこれまでの所行を考えれば同情の余地はないとはいえ、体の自由を奪われた中で苦しむ姿を見るのは抵抗があった。
「あいつ自身が招いた結果だからね。兄ちゃんはあいつのことを今後は思い出さなくてもいいよ。そんな暇があるなら次を考えないといけないからね」
「ミルモン殿の言や正しい」
罪人一人の事を考え続けるより、これからの主目標である南へと目を向けないといけない。
魔王軍をこのままにしておけば、バルバダイのようなヤツがまた出てくることにもなるからな。
驕った創造主気取りの断末魔は振り払って、南へと集中しよう。
そこから襲ってくる皮膚への痛みで暴れ出すバルバダイに対し、
「あら大変。血が出てるじゃない。ヒール」
ヴィタリーさんに負けず劣らずな酷薄、抑揚のない声で回復を行うリン。
瞬く間に傷が癒やされる。
癒やされたところに間髪入れずに、
「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃっぃぃい!?」
次のガソリンがかけられる。
一度目よりも多い量。
量が増えれば増えるだけ、椅子に座ったバルバダイの暴れ方もひどくなる。
――暴れて傷を負っても直ぐに回復。
そしてまた最初からとばかりに拷問が始まる。
ただ違うのは、繰り返される度に体へとかけられていくガソリンの量が増えていく。
「これはこれは」
拷問が進むにつれ、体は癒えても精神が削られていくことで反応が徐々に弱まっていくバルバダイ。
それを冷静に観察し、回復と苦痛を与え続ける事で対象者がどうなっていくのか。というのを知れるのは知識として新鮮だ。と、俺の横に立つ先生……。
負の感情が室内に充満していることで、俺の左肩にいるミルモンの表情はさらに恍惚となる。
フラフラと頭を振っているから、些か酔っているようだ。
淡々とこなしていくヴィタリーさんとイシム。
傷が増えれば即回復してくれる無表情のリン。
学ぶように見る先生。
酔いしれているミルモン。
隅っこでは、こちらのやり取りを眼窩に灯った光で凝視するだけのスケルトンキャスター二名。
――……どうやらこの場でいたたまれないという思いでいるのは俺だけのようだな……。
皆さんのメンタルは豆腐の俺とは違い、強靱な鋼で作られているようだ……。
しばらくして、
「さてさて、まだ続くのですか?」
先生が質問をすれば、
「ええ。バケツの中身が無くなれば追加すればいいだけですので」
というヴィタリーさんの返しを耳朶に入れるバルバダイはピクリと体を震わせる。
精神が弱り切っているからか、大きく動くということはない。
恐怖に浸食されてしまっている。
「ならば代わり映えはしないのでしょうね。帰りましょうか」
「見るべきでは? バルバダイの成り行きを」
「不要です。これ以上、勇者が見守ってやることはありません。この者はこれからも苦痛を与えられることになる――という事だけを主は理解しておけばいいだけのこと。結果を見届ける必要はありません」
「オイラとしては見ておきたいんだけど」
「ミルモン殿。勇者の使い魔がこの状況で悦に入るとなれば、勇者の品格が問われることになります。欲深く求めるのはよろしくないかと」
「分かったよ……」
先生に諭されれば唇を尖らせつつも頷く。
極上の負の感情を浴びるよりも、俺からの評価が下がることのほうが嫌なようで、後ろ髪を引かれつつも先生の意見に従うといったところ。
「では皆さん。後はよろしくお願いします」
俺に代わって先生が一礼して言えば、室内へと残る面子が軽く会釈。
体も精神もボロボロの中で奇跡を手繰り寄せるかのように、大粒の涙を流しながらこちらに救いを求める視線を向けてくる。
それを受け流し背中を向け、先生が開いてくれたドアから通路へと足を踏み入れたところで、
「ひぎゅぃぃぃぃぃぃぃぃっぃぃいいいんんっぎぃぃぃぃっ!?」
バシャリ! と今までで一番大きな水音とほぼ同時に断末魔を思わせる声が上がる。
声が俺の耳朶に届いたところでドアが閉められた。
閉めれば悲鳴は無理矢理に断ち切られる。
「防音が施されているんですね」
「そのようですね。外に漏れれば他の囚人が不安がるだけでしょうからね。その者達に配慮しての構造なのでしょう。ここの王はお優しい方なので」
「そうなんでしょうね」
牢屋の中で震えていたミルトンのおっさんがバルバダイの叫び声を聞けば、失神してしまうだろうからな。
拷問を受ける者の声を聞かせることで恐怖を与えるってのも方法としてはあるんだろうけど、先生が言うように王様はそういった行為を嫌うだろうな。
「嫌な気分ですか」
「極悪人がそれに見合った罰を受けるとはいえ、いい気分はしませんよ」
「それだけ主の思考が正常だということです」
「あいつはどうなるんでしょうね」
「そうですね――死を懇願してもそれが許される事もなく、今まで自分が行ってきたことを悔いながら苦しみ続けるか、はたまた廃人となるか――アンデッドとなるか。この世界は選択肢が多いので、あの場に残った方々の行動の結果次第となるでしょう」
「そうですか」
流石というか、先生は冷静そのもの。
眉一つ動かすことがない。
バルバダイのこれまでの所行を考えれば同情の余地はないとはいえ、体の自由を奪われた中で苦しむ姿を見るのは抵抗があった。
「あいつ自身が招いた結果だからね。兄ちゃんはあいつのことを今後は思い出さなくてもいいよ。そんな暇があるなら次を考えないといけないからね」
「ミルモン殿の言や正しい」
罪人一人の事を考え続けるより、これからの主目標である南へと目を向けないといけない。
魔王軍をこのままにしておけば、バルバダイのようなヤツがまた出てくることにもなるからな。
驕った創造主気取りの断末魔は振り払って、南へと集中しよう。
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