異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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PHASE-1770【久方ぶりのメール音】

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 王城地下の通路を歩きつつ、

「まずは最大兵力を有する蹂躙王ベヘモトですね」

「そうです。そしてエーンザームなる御仁を見つけ出して味方へと引き入れ、彼の者が所有するフライングダッチマンなる船にて溟海王レヴィアタンが拠点とする深海都市ノチラートへと進行、捕らえられている風龍を救い出す。これにより翼幻王ジズ殿が正式に我々のお味方となるのですからね」
 ミルディからその辺りの説明はしてもらっているみたいだな。
 バタバタとロイル領に行く事になったから、その辺の引き継ぎは出来てなかったけど、問題はないね。

「後は――貴男にも励んでもらわないとね」

「ひぃ!」
 通路を歩いているところで先生が足を止めてからの一言に、ミルトンのおっさんが小さな悲鳴を上げ、またもや隅の方へと逃げ出す。

「何かしらの活躍をしてもらうわけですね」

「愚者であろうとも使いようによっては価値がありますからね。と、これはここへと来る時にも言いましたね。期待してますよ」
 冷たい言い様。だからこそ先生は頼りになるんだけどね。

「頑張りなよ。出っ歯のおじさん」
 俺の左肩から離れれば、小さな体が飛翔して牢屋の中へと入り込み、ミルトンのおっさんへと一言。

「はっはひぃい!」
 愛らしい小悪魔に恐怖を混じらせた返事。

「無様なおじさんだね~」

「嘲弄もいいですが、あまり圧を与えると気を失ってしまいますよ。ミルモン殿」

「はいはい」
 ミルモンが近づいただけであの焦りよう。

「とても活躍できるようには思えませんけど」

「させますとも」
 適材適所の神様である先生が胸を張って言うんだから間違いないんだよな。

「何をするかはまだ分からないけども、期待させてもらうよ。裏切りは非常に辛い末路を迎えることになるからね。まだお宅は救いがあるかもしれない。今後の働き次第ではね」
 先ほどまでいた一室のことを思い返しながらの発言だったからか、俺の真剣さが伝わってくれたようで、ミルトンのおっさんは激しく頭を縦に振る。

「兄ちゃんの期待を裏切ればどうなるか分かってるよね? 裏切りに次ぐ裏切りはオイラが許さないからね」

「ミルモン殿。そんなに脅しては恐怖で思考が回らず、聞こえていたとしても記憶には残りません。期待を裏切れば次はないというのはミルトン殿も十二分に理解しておりますよ――ねえ」

「はいぃぃぃぃぃぃい!!」
 怖いよ先生……。
 酷薄すぎる声に当てられ、ミルトンのおっさんは気を失うどころか焦りから憤死しそうな勢いだった。

「まったく、オイラと名前がちょっと似ているだけでも気に入らないってのにさ」
 ブツブツと文句を言いつつ俺の左肩に戻ってくる。
 このおっさんにどういった役割を持たせるのかは分からないが、先生が扱うとなれば間違いなく局面を動かす時なんだろうね。
 ミルトンのおっさん、責任重大な立場になりそうだな。

 ――。

「ふぃ~」
 まだ日は高いが、拷問を見たことで気が滅入ってしまった。
 王城から戻ってからは自室のベットでずっと横になって天井を眺めている。
 今もバルバダイは苦しんでいるんだろうな。
 大罪を犯した存在がどうなろうが知ったことではないけども、ベッドで目を閉じれば、絶望と恐怖に歪んだ顔が瞼にこびりついている……。
 退室時に耳朶に届いた悲鳴も中々に離れてくれない。
 一人になったら余計にだ。

「あ~やだやだ……」
 天井を眺めつつ独白。
 ミルモンはまだまだ活動したいからと、一階でギムロンに相手をしてもらっていることだろう。
 得物であるクロモジのメンテナンスをしてもらいたいとも言っていたな。
 
 ――久しぶりに完全なる一人なんだけども、こんな時に一人になるのは嫌なもんだ。
 俺も一階に――、
 ピローン♪

「おっと、良いタイミングだな。やっぱり俺のことを覗き見てんのか?」
 一人になったところ、そして一人でいるのが嫌だと思っていたところで都合よくポシェットに入っているプレイギアから音がする。
 セラからのメール通知音。
 うつ伏せになり、枕を胸に当ててからプレイギアのディスプレイへと目を向ければ、

{大いに励んでくれているようで何よりです。三幹部の一角を倒し、味方になる約束も取り付けましたね。非道な行いをしていた者達の討伐もお見事でした。その世界へと送った私も誇らしいです}
 ――は?

{なんで敬語なんだよ? 気持ちの悪い}

{ちょっと! 気持ち悪いって何よ!}
 あ、戻った。でもって相変わらずの素早い返事。
 これあれだな。

{そこそこ久しぶりだったから、どう接していいか分からないってやつだろう?}

{うっさいわね! 大正解よ!}
 これだからコミュ障の死神様は。

{とにかく良くやってくれたわね。残りの幹部は実質二名。その後に控える魔王共々フルボッコだドン!}

{魔王を倒せる最強のバチを送ってほしいドン}

{そんな物はないので、現状、貴男が所有しているモノと仲間達との絆で対応して}
 なんか凄く真っ当な事を書いてくるね。
 仲間とかいないボッチなのに。

{仲間とかいないボッチなのに――とか思ってないわよね?}

{思ってないですとも}

{とにかく励みなさい}

{アイサー}
 ――セラとのやり取りは手短なものだった。
 ここからゲームでも? と、誘ってくるのかと思っていたけど、誘ってこなかったな。
 しかもメールのみのやり取りだけ。
 今はセラでも良いから話し相手が欲しかったのにな。
 
 素っ気なかったな。
 
 もしかして、またチヤホヤされてオタサーの姫みたいになってたりする? 
 同じ過ちを繰り返す事だけはやめていただきたい。
 死神という神様なんだからな。覆轍を踏むなんてないよね。
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