異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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PHASE-1778【存外規律はある】

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「のっぴきね~本心は?」

「本心か――本心はこちらの矜持を汚されたことに対しての意趣返しというもの」

「意趣返し。仕返しのために単身で乗り込んで来たと?」

「その通り」

「これはこれは全身が肝とばかりの強い心を持っているようで」

「その様に評価してもらえれば嬉しい限り」

「勝てるとでも?」
 俺に代わって横に立つコクリコが一歩前へと出て発せば、

「流石に一人でここの強兵どもと戦うというのは些か無理がある」
 だとすると、

「意趣返しの内容は――」
 予想しつつも相手に委ねるように目を向ければ、

「無論、一騎討ちを願いたい」
 やっぱりそうくるか。

「貴様は馬鹿か!」
 ロンゲルさんから怒号が飛ぶ。
 なんで迎撃に成功して勝利した側が負けている側の提案を受け入れなければならないのか。
 しかも内容が一騎討ち。
 いくらなんでも身勝手極まりないと青筋立てての大激怒。
 ここでも要塞全体からロンゲルさんに呼応して声が上がる。
 流石は意地汚い破壊と略奪の蹂躙王ベヘモト軍! なんて罵詈雑言というか、今までの恨み節を言霊に変えるかのように言い放つ者もいた。

「戦術程度の勝利で勝った気になられてもな」
 罵声を浴びせられようともどこ吹く風。
 強者であるメッサーラは翼を羽ばたかせてその場に留まるだけ。
 で、発する内容はその通り。
 こちらは側は局地的な勝利でしかない。
 蹂躙王ベヘモトは負け戦に機嫌を損ねるだろうが、戦略的に負けているわけじゃないからな。
 こちらは一戦も負ける事が許されない兵力しかないが、相手からすれば軽傷程度の負けでしかなく、いつでも挽回できるという余裕がある。
 これを蹂躙王ベヘモト軍だけで見るのではなく、魔王軍全体で見れば更に些末なこと。

「――ってことかい?」
 思っていることを述べれば、

「左様」
 鷹揚に頷いてくる。
 余裕あるね。本当によ!

「局地戦での勝利であっても、それを重ね続けていけば戦略的勝利にもなるんだけどな」

「その言は正しい」

「余裕あるね!」
 思っていたことも声に出す。

「余裕はある――が、我慢できないこともある!」
 声音に強さが増す。

「それが矜持に関係することだな」

「聡い若者は好きだぞ」

「冷静に言葉を交わせる相手は好きだぞ」
 返せば面長な口角が上がる。
 鋭利な牙を見せながら――、

「我が主を退けるまでは我慢できた。局地の敗北は挽回できるからな」

「それは聞いた」

「だが、退く背中に向けての嘲弄哄笑はなんとも我慢がならん!」
 忠臣だね。
 近衛デイライトの中でも四天王であり、蹂躙王ベヘモトの子息のお目付役という立場。

「最近の戦いに俺は参加していないけど、主のラダイゴロスが敗走する時アンタは何をしてたんだ? こっちの面子の話では、アンタは参加してなかったみたいだけど。流石に強者で白銀となれば誰よりも目立つから、端っこで参加していたとしても誰かしらが記憶しているはずなんだけどね」

「歯を軋らせながら戦場外から眺めていた――と言っておこう」

「ほ~ん」
 お目付役でもあり、総領息子を支える立場ともなれば成長を促すことも必要。
 その為には自らが参加せず、どういった戦いをするのかを見守るのも大事。
 十万という大軍勢を率いること自体が初めてであり、しかも難攻不落の敵拠点を制圧するという大役。
 非常に難しいことへの挑戦。
 それを成し遂げて自信を付けさせるのも側勤めには必要。
 ――だそうなのだが、

「それならお宅が参与して支えてやれば良かっただろうに」
 いくら成長を促すという理由があったとはいえ、大事な戦いでで見守るという選択はいかがなものか。
 こちらとしては戦力が削れていたことが喜ばしいけども。

「自分も随伴はしたかったのだがな!」
 ギリギリと軋らせる音が大きくなる。

「訳ありみたいだな」

「そうだ! まっ――」
 怒気が混じる。
 つまりは自分が思いもよらなかった事が起こり、仕方なく後方で見守る事しか出来なかったということのようだ。
 理由を聞いたとしても教えてはくれないだろうけど。
 怒気と一緒に何かしらを吐き出そうとしていたようだけど、ぐっと堪えて言葉を飲み込んだように見える。
 敵である俺たちに一々と言うような内容ではないってことだろう。

「初手の動きは良かったらしいんだけどね。ここに挑むには力不足だったようで」

「それは認めよう」
 認めるね。
 語り方もだし、他責思考とならずに失態も潔く受け入れる。

「へ~」

「なんだ?」

「やっぱり俺が抱いていたイメージと違いすぎるんだよね」
 ただただ破壊と略奪。尊厳を犯す。
 こういったことを平然と行える低俗な連中が集まっているだけの軍だと思っていた。
 だが目の前のお宅を見て少しばかりその考えが変わりそうだ。と、伝えれば、

「当たり前の事を言う。お前が思い描いている者達ばかりの集団ならば、そもそも集団として体を成さずに内側から崩れるに決まっているだろう」

「まあね」

「規律はある。だからこそ大軍勢を動かす事も可能。お前の言うような馬鹿者どもがいるのも確かだから、完全な否定は出来んがな」
 ただただ暴力による支配ってだけじゃないようだな。
 確かに、出し惜しみしているってのを配下を大切にしたいからって理由に置き換えることで、下からの支持はすこぶる良いってのが蹂躙王ベヘモトだったよな。
 上っ面だけで、下の連中のことは都合の良い手駒としか見てないという考えは今も変わらないけど。
 
 多分だけど、こういった武人気質の連中が一定数いるから、三百万を超える大軍勢を統治できているってことでもあるんだろう。
 
 統制の要となっているコイツみたいな連中をどうにかしないと、こちら側に勝利を手繰り寄せるのは難しというのは分かった。
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