拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4

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出張

PHASE-03

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「次は民の陳状か」
 執務室であるその場では、灰色髪を髪油でぴっちりとオールバックで固め、右目にモノクルを付けた六十路むそじくらいの、常人とは明らかに違う迫力をもった人物がパルプ紙や羊皮紙を手にして、素早く目を通しながら、次から次へと認可印を手早く押している。
 
 初対面だけど、間違いなくこの方が大公様だ。貨幣に描かれてるもん。描かれているのに比べれば、お歳を召されているけども。
 苦労しているのかな、こんなにも酷使されて……。
 敗軍の将のたどる道か……。

「ラゼン・ギル・ダロス大公様」
 恐る恐る整備長が語りかける。魔王軍や勇者御一行には強気になれても、僕たちに直接的に権力を振るう事の出来る立場の人にはめっぽう弱いようだ。
 
 
 ――――……。
 返答が来ない。その重圧が原因なのか横から生唾を飲み込む音がしっかりと耳朶に届いた。階段を上り終えた時以上の蒼白さがこの人の気の弱さを窺わせる。

「あの…………ラゼン大公」
 見かねたバンシーさんが、大公様の耳元に移動。
 
 モノクルを外して両目頭の中心を拇指と食指で摘まんで揉みほぐすと、

「なんだ? 本当に来たのか」
 眉根を寄せてぶっきらぼうな発言。
 歓迎していない態度をあからさまに見せてくる。
 賢君だったんだよね? なんか戦史学で習ったような印象は受けない。いやな年長者といった感じが漂っている。
 
 ――というか、なんなのこの態度。敗軍の将ですよね? 王都から来たわけですよ僕たち。
 普通は〝よく来てくれた!〟って、手放しで喜んでもよくないかな? 

 しかも、なんでアンデットサイドが気をつかってるの?

「おお、お待たせしました!」
 執務室の僕たちが入ってきた位置から左側の奥扉が豪快に開かれると、大男が現れる。
 肌の色は紫。というか、革紐なんかで指を強く巻いて、血液が鬱血した時の色といった感じか。
 屈強な筋肉があるから問題ないとばかりに、鎧的なものは装備しておらず、麻製の服を上下着こなしている。
 ずっと着続けているようで、首元はくたびれていて、白地も色あせが目立つ。
 何とも質素だ。
 
 ――ただ、分かるのは、この方が不死王ガルエロンさんだということ。子供の絵は的を射ている。
 肌の色味に、ウェーブがかった白色の長髪。
 瞳には虹彩がなく、くすんだエメラルドのような緑。
 血の通ってない如何にもアンデットって感じ。
 
 でも、熱い方だ。
 入室して直ぐに僕たちの前に来ると、諸手でがっしりと僕たちの諸手を掴んで握手をする。
 体温を感じない体と反して、思いの熱さが伝わってくる。

「チッ」
 あ……、大公様いま確実に舌打ちしたよ。僕たちと不死王さんが会う事を良くないように思っているような感情が漏れてましたよ。

「こまりますな~ラゼン大公殿」
 なんともうやうやしい対応の現統治者。

「何度も言いますが。私は貴男に四十年付き従う忠臣であって、大公は元です」
 堂々と言い切りやがった! この方、国を裏切った発言しましたよ。魔王軍にずっぷりと骨を埋めてますよ。
 
 国家反逆だよ。それも大公様が! 死罪待ったなしだよ。
 
 大公様の発言に場が凍り付いてしまっている。アンデットさん達の冷えた肌がさらに冷え切っていくようだ。

「整備局の方々がお見えになったら、ちゃんと伝えて欲しいと言ったではないですか」

「来るとは思っていなかったので、せっかく、祭りにかこつけて、グライフの飛行制限もしたというのに」
 あん!? なるほどね。さっきまでは不死王さん達、アンデットの方々に対して、移動の準備の無さに不信感を持ってたけど、
 これあれだ、この大公様が嫌がらせの根源だ。
 僕たちをここに来させないように妨害してたな。どおりで、人間の兵隊さん目を泳がせてそそくさと立ち去ったわけだ。この人が命令してたんだ!
 
 アンデットの方々じゃなかったんだよ。疑ってごめんなさいだよ。
 現に、奥の扉には僕たちの左右に立っていたはずの骸骨兵さん達が移動しているもの。
 このままでは埒が明かないと判断して、不死王さんを呼びに行ってくれた証拠だ。

「遠路はるばる疲れたでしょう、奥で飲み物を用意していますのでそちらに移動を」
 カグラさんを始め、魔王軍の方は本当に腰が低い。僕たちを誘導して、奥の部屋に招待してくれる。
 
 横目で、大公様を通りすがりに一瞥すると、〝ふんっ〟と、鼻でぞんざいに対応してそっぽ向かれた。
 

 
 ――――このゆったりとするソファはいいものなんだろうけど、体が沈んで行く感覚が庶民の僕には合わないや。
 
 大きな天窓からは陽射しが入り込んで、室内全体を自然光が明るく照らし、燭台の活躍は夜や曇天の時だけといったところ。
 正直、アンデットの方々には不釣り合いな部屋。もっとこう、ジメジメして、天井から水滴が落ちてきたりと、そんな薄暗い部屋を想像してしまう。
 
 想像とは違う素敵な応接室に招待されて、革張りのソファに腰を下ろして、注がれたアイスティーをいただく。喉が水分に喜んでいる。
 螺旋階段でもってかれたからね! 大公様め!
 
 あまりの美味さに、一気に飲み干してしまうと、直ぐに御代わりを注いでくれるのは不死王さん自らだ。

「大公殿が申し訳ない。あの方どうしても自分でこの古都を回したいそうで」

「占領地であるのに自由にさせている事が驚きです」
 潤ったせいか、喉が滑らかになったのか、率直に発言してしまった。
 余計な発言と整備長、渋面。

 ――――占拠して四十年。
 この四十年間。大公様はなんの抵抗もする事無く、働いているそうだ。自ら忠臣とか言ってたし……。
 
 理由は何とも自己中心的だった。
 大公という王様に次ぐといってもいい階級であるせいか、周囲が全部仕事をこなしてくれる。自分で行いたいのに全部取り仕切ってくれる有能な将官たち。
 
 大公様このことがどうにも嫌だったようで、自分で仕事がしたいという思いが相当に鬱積していて、不死王軍がここへと攻め込んだ時、王族を避難させ、自分の指揮で不死王軍と対決。
 まあ、それはそれは生き生きしてたそうで、自分で動いて仕事をこなすことに生気が溢れんばかりに漲ったそうだ。

 不死の軍に臆する事無く、退かず闘った姿に、不死王さんも強く感銘を受けて、門を開き進行する時には、民衆には一切手を出さないように厳命し、それを耳にした大公様は、これ以上の流血は良くないと降伏。
 
 その後、自分が如何に戦上手だったかを不死王さんに説くと、あろう事か下臣にして欲しいと願い出たそうだ。
 
 何を言っているのか訳が分からないと思ったのだが、熱い思いが伝わる強い瞳に心が動いたそうで、大公様と臣下ひっくるめて下臣に取り入れた。
 本人のたっての願いで、統治を取り仕切らせて欲しいと言われ、周囲からは占拠した者に任せるのはいただけないとの声が当然のように上がったが、不死王さんは大公様の瞳の情熱を信じて、統治を託したそうだ。
 
 ――――瞳の情熱をってなんだよ……。そんなんで決めることなのか? 不死王さんって脳筋なのか? 
 
 ――で、復興をしている間に先代の王が提案した勇者魔王間戦闘規定条約を勇者ギルドと魔王軍が承諾して。これ以上の進行は無くなり、この古都を更に豊かにすることに力を注いだ結果、不死王さんたち不死王軍の人気は民衆の間で絶大なものとなり、旅商人や旅芸人なんかも治安がよいから、安心して日が暮れた後でも商いが出来ると喜ばれているそうだ。
 
 大公様、家臣達に任せることなく自由に政務に力を入れたれることに大きな喜びを抱いて、職務に傾倒しまくっているそう。
 
 僕たちに木で鼻をくくる態度丸出しだったのは、ここに役所を作れば自分の仕事が奪われるからという嫌悪感からだったんだろうね……。
 でも、統治者である不死王さんが役所の設置に首肯してるとのことだから強くは出れない。だから大公様は僕たちに馬車とか用意しない嫌がらせでの意趣返しを行ったんだろう。
 昇降機の張り紙も十中八九この人だろう。
 
 八つ当たりもいいところ……。てか、ちっさ。器ちっさ。本当に賢君だったのか疑うね。

 嫌がらせの中、城にたどり着いた僕たちの出張理由。
 占拠され空白となっていた役所および各局の設置。
 それに対して首肯して、尚且つ交渉の場を設けてくれた不死王さんから、設置了承の言質を取って、書類に証明となるサインをいただくこと。
 後から来るお偉方のための地ならしが、僕たちの仕事。

「街並みを拝見しましたが、素晴らしいの一言でした。人々の豊かな笑顔と賑わいは君主が素晴らしい働きをしている証拠。低頭という姿で無ければ対応出来ません」
 魔王軍に対して、普段の強気な姿はいずこへかと消えている整備長は、ペコペコ頭を下げるばかりだ。
 
 分かりますよ。僕たちの背後から気配感じるからね。その気迫に重圧受けてんでしょ。僕もそうですからね。
 
 ちらりと後方に目を向ければ、主に対して不遜はゆるさんぞ! と、ばかりの仁王立ちの大公様。
 僕たち公務員が絶対に逆らえない存在は潤った喉を渇かしてくる。

「やめてください。ラゼン大公殿のご活躍が大きいのです」
 そっちこそやめてください。頭下げる整備長に頭下げるの。
 
 主が頭下げてる姿に、怒りに震えている王佐の才が、こめかみの血管になんか生物飼ってるように蠢かせてますから…………。
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