11 / 604
出張
PHASE-02
しおりを挟む
「誰を描いてるの?」
気になったので、通りの端っこで数人の子供たちが紫色のクレヨンを手にして描いている人物を質問してみる。
わざわざ紫色を使用しているのだから、人間ではないと推測出来る。魔王軍の方の絵だろう。
「ガルエロン様だよ。僕も将来、不死王軍に入るんだ」
金髪、そばかす、上の前歯が一本ぬけている一人が、澱みのないキラキラと輝かせた瞳で、とんでもない夢を語る。
ガルエロンさん。現在この古都を統治している魔王不死王軍のトップ。カグラさん同様に幹部の方だ。
不死王が示すように、不死であるアンデットの軍を率い、倒れない。空腹にならない。眠らない。と、人間の兵からしたら卑怯すぎる能力を有した兵達によって、この古都は落とされた。
子供たちがこんなにも心酔しているんだから、民心の掌握は行き届いているようだ。だからこそ、住人はこの占拠四十周年祭というふざけたネーミングの祭典を楽しんでいるのだろう。
――小休止を終えて子供たちに別れを告げる。
――――やっとこさ目抜き通りを抜け、最初にくぐった二重の西門と同様の煉瓦造りのアーチ門と城壁が見えてくる。
川をそのまま利用した広大な堀。難攻不落と言われたのがよく分かる。
唯一、城門に繋がる六連アーチからなる壮大な橋を渡りつつ、透明度の高い川を眺め、正面やや上方に目を向ければ白亜の巨城。
とてもアンデットの根城と思えない聖なる感を迸らせてる。
「あ、どうもご苦労様です」
ここにきて、整備長の声のトーンが下がった。疲れたか? 普段からそういうトーンで口を開けば僕や勇者御一行、魔王軍の方々から慕われるかもしれませんよ。
まあどうせ、不死王さんとかにあえば態度でかくなるんだろうけどね。
証明書を見せると、今度は入念なチェックが入る。
「口を開けてください」
番兵の方がそう言うので、それに従い口を開いて、暗器になるような類いの物は持ってない事をアピール。
「どうぞ」
で、通過。
流石は城に入るというだけあって、市街地の西門とは目つきも厳しさも違う。
「おお……」
本当に不死王さんが統治してるんだと――、痛感。
城内になると、人間の兵とともに、警邏、歩哨にアンデットな方々が混在している。
骸骨な方が、ギシギシと鎧が発しているのか、体からのものなのか、分からない音をたてて、中庭を徘徊――――もとい警邏。
塔の壁から突如あらわれたのが、半透明の青白い鎧兵の方。人間の姿はしてるけど、出入り口を無視した移動方法からこの方は幽霊兵あたりの方かもしれない。
「今日、どう一杯? 非番でしょ、寝かさないよ~まあ、俺は寝ないんだけどね」
「その発想、面白いっすね~」
僕らの前を通過する、人間の兵の方と、左手に自分の頭を抱えながら談笑しているデュラハンさん。
なんなのこの摩訶不思議な世界……。
未だかつて経験した事のない僕たち二人は恐怖を抱きつつ、見るもの全てに首を傾げながら一本道を歩いて行く。
――中庭正面の番兵の方が僕たちを確認すると、扉を開いてくれる。
すると、
「案内いたします」
小鳥ほどの体で、灰色の羽根を羽ばたかせた愛らしい女の子の妖精が、僕たちの前で軽く会釈を行う。それにつられて僕たちも会釈。
正面に顔を戻せば白目の部分は充血している。
「バンシーだな」
「バンシーですね」
死者が出ると、それを知らせるために泣くっていわれてる妖精兼アンデットのバンシー。
アンデットでも愛らしいから正義だ。
小さな体に案内されつつ。真っ赤で光沢のある長く続く絨毯の上を歩き、洒脱な作りの螺旋階段を上っていく。
何で階段を上がらにゃならんのか……。もう足は限界突破しているぞ。
昇降機の使用出来ないという張り紙が悪意だ。城内になっても何かしらの悪意を感じてしまう。
――上り終える頃には、二人そろって努力呼吸。
整備長に至っては、顔面蒼白で今にも倒れそうな感じ。アンデットの方に混ざれば分からないくらいの肌色。
葉煙草が原因の体力低下だと思われる。
深呼吸を数回繰り返して、廊下に設けられている椅子に腰を下ろして再び小休止。その間バンシーさんは窓枠に座って、僕たちの息が整うのを待ってくれている。愛らしさに心が癒やされる。
――――再び歩き出して、ようやく扉の前に到着。正直、古都に足を入れてから城まで歩きとか、本当に考えられない。
愚痴ばかりこぼしてしまう。
こんな状態で話なんて出来るのだろうか……。
「失礼します」
僕の感情なんか無視でノックをする緊張気味の整備長。
声が裏返ってる。
――――…………。
破城槌を準備しようか。
これは完全になめられている! いくら現在この古都を統治しているとはいえ、些か調子に乗っているのではなかろうか、ガルエロン氏。
応答がないってどうよ。
「どうぞ」
と、思っていたら、ようやく返答がきて、ガチャンと重々しいノブが動き開いていく。
開かれたドアの両サイドには骸骨兵が二名。
待たせた事を申し訳なかったかのように頭を下げてくる。いかんせん骸骨なもんだから表情が伝わらないけど、罪悪感は感じ取れた。
それよりも、開かれた先に立たれていると、恐怖で心臓に悪い……。
奥に進むと、もう一つの扉があり、先ほどの骸骨兵さん達が足早に移動して開いてくれる。
あれ!? 親切だよ?
気になったので、通りの端っこで数人の子供たちが紫色のクレヨンを手にして描いている人物を質問してみる。
わざわざ紫色を使用しているのだから、人間ではないと推測出来る。魔王軍の方の絵だろう。
「ガルエロン様だよ。僕も将来、不死王軍に入るんだ」
金髪、そばかす、上の前歯が一本ぬけている一人が、澱みのないキラキラと輝かせた瞳で、とんでもない夢を語る。
ガルエロンさん。現在この古都を統治している魔王不死王軍のトップ。カグラさん同様に幹部の方だ。
不死王が示すように、不死であるアンデットの軍を率い、倒れない。空腹にならない。眠らない。と、人間の兵からしたら卑怯すぎる能力を有した兵達によって、この古都は落とされた。
子供たちがこんなにも心酔しているんだから、民心の掌握は行き届いているようだ。だからこそ、住人はこの占拠四十周年祭というふざけたネーミングの祭典を楽しんでいるのだろう。
――小休止を終えて子供たちに別れを告げる。
――――やっとこさ目抜き通りを抜け、最初にくぐった二重の西門と同様の煉瓦造りのアーチ門と城壁が見えてくる。
川をそのまま利用した広大な堀。難攻不落と言われたのがよく分かる。
唯一、城門に繋がる六連アーチからなる壮大な橋を渡りつつ、透明度の高い川を眺め、正面やや上方に目を向ければ白亜の巨城。
とてもアンデットの根城と思えない聖なる感を迸らせてる。
「あ、どうもご苦労様です」
ここにきて、整備長の声のトーンが下がった。疲れたか? 普段からそういうトーンで口を開けば僕や勇者御一行、魔王軍の方々から慕われるかもしれませんよ。
まあどうせ、不死王さんとかにあえば態度でかくなるんだろうけどね。
証明書を見せると、今度は入念なチェックが入る。
「口を開けてください」
番兵の方がそう言うので、それに従い口を開いて、暗器になるような類いの物は持ってない事をアピール。
「どうぞ」
で、通過。
流石は城に入るというだけあって、市街地の西門とは目つきも厳しさも違う。
「おお……」
本当に不死王さんが統治してるんだと――、痛感。
城内になると、人間の兵とともに、警邏、歩哨にアンデットな方々が混在している。
骸骨な方が、ギシギシと鎧が発しているのか、体からのものなのか、分からない音をたてて、中庭を徘徊――――もとい警邏。
塔の壁から突如あらわれたのが、半透明の青白い鎧兵の方。人間の姿はしてるけど、出入り口を無視した移動方法からこの方は幽霊兵あたりの方かもしれない。
「今日、どう一杯? 非番でしょ、寝かさないよ~まあ、俺は寝ないんだけどね」
「その発想、面白いっすね~」
僕らの前を通過する、人間の兵の方と、左手に自分の頭を抱えながら談笑しているデュラハンさん。
なんなのこの摩訶不思議な世界……。
未だかつて経験した事のない僕たち二人は恐怖を抱きつつ、見るもの全てに首を傾げながら一本道を歩いて行く。
――中庭正面の番兵の方が僕たちを確認すると、扉を開いてくれる。
すると、
「案内いたします」
小鳥ほどの体で、灰色の羽根を羽ばたかせた愛らしい女の子の妖精が、僕たちの前で軽く会釈を行う。それにつられて僕たちも会釈。
正面に顔を戻せば白目の部分は充血している。
「バンシーだな」
「バンシーですね」
死者が出ると、それを知らせるために泣くっていわれてる妖精兼アンデットのバンシー。
アンデットでも愛らしいから正義だ。
小さな体に案内されつつ。真っ赤で光沢のある長く続く絨毯の上を歩き、洒脱な作りの螺旋階段を上っていく。
何で階段を上がらにゃならんのか……。もう足は限界突破しているぞ。
昇降機の使用出来ないという張り紙が悪意だ。城内になっても何かしらの悪意を感じてしまう。
――上り終える頃には、二人そろって努力呼吸。
整備長に至っては、顔面蒼白で今にも倒れそうな感じ。アンデットの方に混ざれば分からないくらいの肌色。
葉煙草が原因の体力低下だと思われる。
深呼吸を数回繰り返して、廊下に設けられている椅子に腰を下ろして再び小休止。その間バンシーさんは窓枠に座って、僕たちの息が整うのを待ってくれている。愛らしさに心が癒やされる。
――――再び歩き出して、ようやく扉の前に到着。正直、古都に足を入れてから城まで歩きとか、本当に考えられない。
愚痴ばかりこぼしてしまう。
こんな状態で話なんて出来るのだろうか……。
「失礼します」
僕の感情なんか無視でノックをする緊張気味の整備長。
声が裏返ってる。
――――…………。
破城槌を準備しようか。
これは完全になめられている! いくら現在この古都を統治しているとはいえ、些か調子に乗っているのではなかろうか、ガルエロン氏。
応答がないってどうよ。
「どうぞ」
と、思っていたら、ようやく返答がきて、ガチャンと重々しいノブが動き開いていく。
開かれたドアの両サイドには骸骨兵が二名。
待たせた事を申し訳なかったかのように頭を下げてくる。いかんせん骸骨なもんだから表情が伝わらないけど、罪悪感は感じ取れた。
それよりも、開かれた先に立たれていると、恐怖で心臓に悪い……。
奥に進むと、もう一つの扉があり、先ほどの骸骨兵さん達が足早に移動して開いてくれる。
あれ!? 親切だよ?
0
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる