拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4

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出張

古都でのグルメ

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 ――――やはり良質なベッドは違う。体に昨日の疲れが残っていない。
 素晴らしい朝だ。顔を洗い、歯を磨き、定位置となったテーブルセットに腰を下ろして外を見る。
 
 澄んだ青空。
 
 自由に空を飛ぶ小鳥。
 
 視線を下方に向ければ、朝早くから仕事を始める行商人さんの姿。
 普段なら僕も仕事着姿で職場で仕事を始める時間帯。ゆっくりとした朝を迎えられる出張っていいな。用件はすませているから、ゆっくりなんだけどね。今日帰らなきゃだし、明日からはまた早起きだ。
 
 リビングからカチャカチャと小気味の良い、食器が奏でる音が耳朶に届く。
 朝食の時間だ。
 
 ――――エッグスタンドに乗るゆで卵をエッグトッパーを使用して上部をカット。
 それを僕の前に出してくれる専属料理人。わざわざ部屋に出張してくれるのはスイートの特権なのかな? 庶民ではその辺がよく分からない。
 
 要望どおりの半熟に、岩塩を少々いれてスプーンで一口。黄身の濃厚さと、白身の淡泊が織りなすハーモニー。
 それを引き立てる名助演の岩塩の濃く深い味わい。
 これだよ、この一口で幸せを実感出来る、朝採れ卵のありがたさ。
 
 堪能している目の前では、料理人さんが準備された鉄板の上に生地をのばし、その隣で千切りのタマネギとジャガイモを炒めて、それを生地に乗せ、生ハムで色添え。
 続けて粉チーズを豪快に振りかけ、中央に二個目となる朝採れ卵を投下。生地を正方形に折りたたみ蓋をして待機状態。
 
 その間に半熟を食べ終えて、よく冷えたオレンジエードを飲み、グラスをテーブルに置いたところを見計らったように、出来上がったガレットが皿に乗せられ僕の前に置かれる。
 
 チーズの匂いが鼻孔に直撃。流石に朝から重いんじゃないだろうかと思いつつも、ナイフとフォークを使って切っていく。
 
 いいじゃない、いいじゃない。切っていく過程で黄身が全体に広がっていくところなんてエンターテイメントみたいじゃないか。卵と卵がかぶっているが、そんなものを気にしていては美味いもんには出会えない。

 ええい、辛抱たまらん! 大きめの一口サイズに切ってからガブリ。
 
 ――――黄身とチーズのとろけたうま味に頭もとろける~。それにこのそば粉のもちもち感がいとおしいじゃないか。
 生ハムにジャガイモ、タマネギ。咀嚼の喜びをすこぶる僕に伝えてくる。
 
 素材も一等なら、作り手も一等。こりゃたまらん。たまらんぞ~。ナイフとフォークが意志に背くかのように勝手に口にガレットを運んでくる。
 
 おいおい、待ってくれ。僕はこの味をもっとゆっくりと味わいたいんだ。
 
 ――――まったく困った諸手だ。次から次へと口に運んでくる。幸せじゃないか、朝からでもこんなに濃い味をおいしくいただけるなんて、丈夫な胃袋を持った体で生んでくれた母親に感謝だ。
 
 ――ちょいと一呼吸入れて、ガレットを食してる間に、そっとご登場のコンソメ様に目を奪われる。
 白い器に黄金のスープ。美しいものはうまいと相場が決まっている。フォークとナイフをちょいと開放、スプーンの出番。
 
 黄金をひとすすり。
 目を見開く美味さ!
 
 ――飲み込んだ後も、肉や野菜から出てきたうま味の余韻が優しく残る。この優しい味の感動に、見開いた目を閉じてしまう。
 うま味だけじゃない、滋養が体に染み渡っていくのも分かる。この美味さはちびちびスプーンで飲むのは駄目だ。下品と思われようとも器から直接いかなきゃ人生の損だしコンソメ様に失礼だ。
 
 ――さあ、飲み干した。ラストスパートだ。おかえりナイフとフォーク。残りのガレットも一気に平らげようじゃないか――――。



「は~おいしかったです」
「なによりです」
 壮年の料理人さん笑みで返してくれる。
 口内にガレットの余韻も残したいところだけど、眼前に準備されている物を目にしてしまったからにはリセットせねば。
 
 オレンジエードをグビグビと飲んで、スッキリとしたお口へと戻したところで、これまた時宜を見計らっていたかのように、
「木イチゴとバニラのセミフレッドです」
 
 来ましたデザート! 甘い物は別腹とはよく言ったものだ。僕の胃袋はまだまだこれからとばかりに空きが出来てきているのが分かる。
 
 では、一口。
 うん、うん、ほらね。やっぱり。――――間違いない。期待を超えてくる美味さだ。
 木イチゴ特有の甘酸っぱさをバニラがマイルドにして、美味さの相乗効果が爆誕だ。
 それに、このアイスのようでケーキのようなダブルの食感を楽しめるのもセミフレッドの素晴らしいところだよな~。他のデザートではお目にかかれないものだ。
 
 まあ、ふだん僕が、手の込んだデザートを口にしてないから、そう思うのかも知れないけど、セミフレッド、アイスとケーキに似たこの食感は奇跡の出会い。
 
 さあ食うぞ~。朝食をしっかりとった者が、一日を制するんだ。

「――――ごちそうさまでした」
 古都一のホテル偉大なり。ホテルの料理人様さらに偉大なり。大満足だ。いずれは自分の稼いだお金で、来たいところ。

 ――その時はおっさんとではなく、可愛い女性と訪れたい。
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