20 / 604
出張
PHASE-10
しおりを挟む
振り返るより先に、タンカラーのフードと外套で体全体を覆った存在が、僕の横を通り過ぎていく。
その早さは常人のものでないことは、常人の僕でも理解できた。
「さがって」
通り過ぎる時に、僕に向けられる言葉。
と、同時に外套から輝く物がちらりと見えた瞬間、それの正体が細剣であり、刺突する先端が狙っているのは不死王さんだった。
「やらせん」
ワイトのホーリー・ライムライトさんが、深紅のローブを派手になびかせて、細剣を、手にしたショートソードで払いのけた。
「ちっ」
強襲の失敗から、頭を覆うフードの奥から舌打ちが聞こえる。
「見事な攻めであったが、奇襲を仕掛けるならば、声を出すのはいただけん。覚悟という言葉は不要であったな。しかしながら、非戦闘員であるウィザースプーン殿への配慮の言葉は賞賛である」
擬音にするならピシャーンであろうか、天に真っ直ぐ伸びた姿勢で腕を組み、ワイトさんの後方で微動だにしないで、強襲を仕掛けた相手に語りかける不死王さん。
「この様な場で仕掛けてくるとは、その勇気は買ってやろう」
大公様、椅子から立ち上がり、不死王さんに負けないくらいの不動の姿勢で口を開くと、
「正体見せよ。我々は常に市井に兵を置き不審な者を探っているのだ。勇者なのだろう?」
継いで語る。
――――いや、うん。あのね……、大公様。勇者は不審者じゃないです…………。勇者は勇者です。
ばれていたかとばかりに、フード付きの外套を豪快に脱ぎ捨てる。
――ほほう、これは……、
「やっぱり、強襲なんて卑怯な手はボクには似合わないみたいだ」
快活のよい口調に似合う、活動的な亜麻色のショートカット。右手に細剣。鎧は何処の防具屋にでもあるような量産特化の革製。
お世辞にも魔王幹部に挑むような装備ではない。
だがしかし――――、
「ボクッ子か!」
「ボクッ子ですね!」
正直、装備なんて、そんな物はどうでもいい。問題なのは亜麻色の髪を持つ方が、男性ではなかったというところ。
革の鎧は胸部分で隆起しており、腰回りはヘソ出しの柳腰。
大きなアメジストカラーの瞳を持った可愛い女性であること。
そして、ボクッ子。これが重要なことなんだ。僕たちにとっては!
そんなボクッ子に対して、僕よりも早く反応した整備長に、ボクッ子って先に言われたのが正直悔しい。僕が先駆けてボクッ子って言いたかった……。
「女の勇者か……とはいえ、この古都に足を踏み入れたとなれば、覚悟の程はできていよう」
大公様が右手を勢いよく前に出すと、それを合図に兵の皆さんが壁上に集まり、槍や剣を構える。
集まった一般の人々の避難も始まり、いまにも本格的な戦いが始まろうとしている。
――――……、
しかし、である。
いくら勇者とはいえ、女の子一人にこの布陣。しかも、槍や剣を装備する兵が、人で構成されて、避難に動いてるのがアンデットって……、どうよ?
逆でしょ、逆! なんで、人間側が勇者相手にやる気満々なの。どこまで大公様は現状のままでいたいの……。
判官贔屓ってのもなんだけど、ここは可愛い勇者さんを心の中で応援したい。
「我が名はサージャス・バレンタイン。クリネアの出自」
クリネアって魔術学で有名な大きな都市じゃないか。
魔王軍との戦いを定められた者は、幼少期から魔法を教わり、才能ある者は、年齢が十になる前に、大魔法まで至るとも聞いたことがある。
卓抜な魔道の使い手を多く輩出している都市だ。
反面、若い頃から強力な魔法を使えることから、他を見下したりしちゃう問題児も結構いるとの噂。道徳も一緒に教えるべきだと思う。
「あれ? あの子は……」
なんですか整備長? 意味深な。
「丁寧な名乗り、痛み入る。我は魔王様より不死軍を預かる、ガルエロン・デ・ラマンディール。最近、愛する民達から、涙が名水百選と呼ばれる者である。そして、私はそれを非常に気に入っている」
急いで整備長から、口上を耳にするために、不死王さんに視線を戻した途端、最後が台無しな名乗りを耳にするはめになった……。
しかし、どうする。たった一人でこれだけの数を相手にする気なのだろうか?
伏兵がいるのかな?
それとも見下しちゃう問題児の方なのかな?
一人で十分とか思ってるのかな?
ここはまだ、整備局も入っていない状況。大魔法の使用も有りではある。倫理を逸脱する事になるだろうけど。
「行くぞ」
剣を横に寝かせるサージャスさん。見れば細剣も、どの町でも出回っている質の低い代物だ。
「炎加護」
鍔から剣身にそって切っ先までを食指と中指でなぞると、細剣が炎を纏う。瞬間、周辺に暖かい風が流れる。
サージャスさん魔法剣の使い手のようだ。
「それで剣のアドバンテージを得たとでも?」
ワイトさんもサージャスさんと同じ動作。
「猛毒加護」
紫色の霧が剣を纏う。いかにも毒々しい。ようやく名前とは違う、アンデットっぽい所作だ。
「行くぞと言っていたが、あえて言わせてもらう。こちらから行くぞ」
構えるとすぐに一直線に跳躍。
――しかし、ワイトさんが向けるショートソードは、サージャスさんの、二歩ほど手前で停止する。
「主?」
ワイトさんの両腕を不死王さんが止めていた。
大公様を含めた周囲の方々も、なぜに止めたのか疑問符が浮かんでいるようだ。
「せっかく、単身で来たのに多勢に無勢は卑怯である」
「しかし、これは戦い。卑怯であろうとも、万全を期すのが私の使命」
「大公殿の考えは理解出来ます。が、いかんのです」
「なにがです?」
「我が魂魄がいかんと言っとるのです!」
でたよ、熱血劇場だよ……。なんでこの方はアンデットなのに魂魄とか言うかな。いかん、いかん。気にしちゃ駄目だったな。この古都では……、
解決するのは双方の行動のみだ。
黙って、兵士の方々に守られながら、後ろから見ていよう。整備長は完全に野次馬モードだし。
「この戦い。名乗りを上げた、このガルエロンが受ける。手出し無用。これは統治者としての厳命である」
強く揺るがないとばかりのその声には誰も口を出す事はなく、ワイトさんも魔法を解いて、剣を鞘に収めて、不死王さんに一礼すると、静かに後方に下がっていった。
その早さは常人のものでないことは、常人の僕でも理解できた。
「さがって」
通り過ぎる時に、僕に向けられる言葉。
と、同時に外套から輝く物がちらりと見えた瞬間、それの正体が細剣であり、刺突する先端が狙っているのは不死王さんだった。
「やらせん」
ワイトのホーリー・ライムライトさんが、深紅のローブを派手になびかせて、細剣を、手にしたショートソードで払いのけた。
「ちっ」
強襲の失敗から、頭を覆うフードの奥から舌打ちが聞こえる。
「見事な攻めであったが、奇襲を仕掛けるならば、声を出すのはいただけん。覚悟という言葉は不要であったな。しかしながら、非戦闘員であるウィザースプーン殿への配慮の言葉は賞賛である」
擬音にするならピシャーンであろうか、天に真っ直ぐ伸びた姿勢で腕を組み、ワイトさんの後方で微動だにしないで、強襲を仕掛けた相手に語りかける不死王さん。
「この様な場で仕掛けてくるとは、その勇気は買ってやろう」
大公様、椅子から立ち上がり、不死王さんに負けないくらいの不動の姿勢で口を開くと、
「正体見せよ。我々は常に市井に兵を置き不審な者を探っているのだ。勇者なのだろう?」
継いで語る。
――――いや、うん。あのね……、大公様。勇者は不審者じゃないです…………。勇者は勇者です。
ばれていたかとばかりに、フード付きの外套を豪快に脱ぎ捨てる。
――ほほう、これは……、
「やっぱり、強襲なんて卑怯な手はボクには似合わないみたいだ」
快活のよい口調に似合う、活動的な亜麻色のショートカット。右手に細剣。鎧は何処の防具屋にでもあるような量産特化の革製。
お世辞にも魔王幹部に挑むような装備ではない。
だがしかし――――、
「ボクッ子か!」
「ボクッ子ですね!」
正直、装備なんて、そんな物はどうでもいい。問題なのは亜麻色の髪を持つ方が、男性ではなかったというところ。
革の鎧は胸部分で隆起しており、腰回りはヘソ出しの柳腰。
大きなアメジストカラーの瞳を持った可愛い女性であること。
そして、ボクッ子。これが重要なことなんだ。僕たちにとっては!
そんなボクッ子に対して、僕よりも早く反応した整備長に、ボクッ子って先に言われたのが正直悔しい。僕が先駆けてボクッ子って言いたかった……。
「女の勇者か……とはいえ、この古都に足を踏み入れたとなれば、覚悟の程はできていよう」
大公様が右手を勢いよく前に出すと、それを合図に兵の皆さんが壁上に集まり、槍や剣を構える。
集まった一般の人々の避難も始まり、いまにも本格的な戦いが始まろうとしている。
――――……、
しかし、である。
いくら勇者とはいえ、女の子一人にこの布陣。しかも、槍や剣を装備する兵が、人で構成されて、避難に動いてるのがアンデットって……、どうよ?
逆でしょ、逆! なんで、人間側が勇者相手にやる気満々なの。どこまで大公様は現状のままでいたいの……。
判官贔屓ってのもなんだけど、ここは可愛い勇者さんを心の中で応援したい。
「我が名はサージャス・バレンタイン。クリネアの出自」
クリネアって魔術学で有名な大きな都市じゃないか。
魔王軍との戦いを定められた者は、幼少期から魔法を教わり、才能ある者は、年齢が十になる前に、大魔法まで至るとも聞いたことがある。
卓抜な魔道の使い手を多く輩出している都市だ。
反面、若い頃から強力な魔法を使えることから、他を見下したりしちゃう問題児も結構いるとの噂。道徳も一緒に教えるべきだと思う。
「あれ? あの子は……」
なんですか整備長? 意味深な。
「丁寧な名乗り、痛み入る。我は魔王様より不死軍を預かる、ガルエロン・デ・ラマンディール。最近、愛する民達から、涙が名水百選と呼ばれる者である。そして、私はそれを非常に気に入っている」
急いで整備長から、口上を耳にするために、不死王さんに視線を戻した途端、最後が台無しな名乗りを耳にするはめになった……。
しかし、どうする。たった一人でこれだけの数を相手にする気なのだろうか?
伏兵がいるのかな?
それとも見下しちゃう問題児の方なのかな?
一人で十分とか思ってるのかな?
ここはまだ、整備局も入っていない状況。大魔法の使用も有りではある。倫理を逸脱する事になるだろうけど。
「行くぞ」
剣を横に寝かせるサージャスさん。見れば細剣も、どの町でも出回っている質の低い代物だ。
「炎加護」
鍔から剣身にそって切っ先までを食指と中指でなぞると、細剣が炎を纏う。瞬間、周辺に暖かい風が流れる。
サージャスさん魔法剣の使い手のようだ。
「それで剣のアドバンテージを得たとでも?」
ワイトさんもサージャスさんと同じ動作。
「猛毒加護」
紫色の霧が剣を纏う。いかにも毒々しい。ようやく名前とは違う、アンデットっぽい所作だ。
「行くぞと言っていたが、あえて言わせてもらう。こちらから行くぞ」
構えるとすぐに一直線に跳躍。
――しかし、ワイトさんが向けるショートソードは、サージャスさんの、二歩ほど手前で停止する。
「主?」
ワイトさんの両腕を不死王さんが止めていた。
大公様を含めた周囲の方々も、なぜに止めたのか疑問符が浮かんでいるようだ。
「せっかく、単身で来たのに多勢に無勢は卑怯である」
「しかし、これは戦い。卑怯であろうとも、万全を期すのが私の使命」
「大公殿の考えは理解出来ます。が、いかんのです」
「なにがです?」
「我が魂魄がいかんと言っとるのです!」
でたよ、熱血劇場だよ……。なんでこの方はアンデットなのに魂魄とか言うかな。いかん、いかん。気にしちゃ駄目だったな。この古都では……、
解決するのは双方の行動のみだ。
黙って、兵士の方々に守られながら、後ろから見ていよう。整備長は完全に野次馬モードだし。
「この戦い。名乗りを上げた、このガルエロンが受ける。手出し無用。これは統治者としての厳命である」
強く揺るがないとばかりのその声には誰も口を出す事はなく、ワイトさんも魔法を解いて、剣を鞘に収めて、不死王さんに一礼すると、静かに後方に下がっていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる