拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4

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出張

PHASE-11

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 壁上では不死王さんと、サージャスさん二人を取り巻くような状況。
 
 兵士の方々も、先ほどまで向けていた槍の穂先は空に向け、剣は鞘に戻し、二人が動きやすいように一定の距離を開けて見守る。

「私との一騎討ち、受けてくれるかな?」

「是非に及ばず! この僥倖、感謝する」
 炎の細剣を華麗に振り回し、炎の軌跡を作りながら、壁上を滑るように疾駆し、下方から剣を斬り上げる。

「ぬう、流石は勇者。その程度の剣でも我が体に傷を作るか。それに炎はやはり脅威だな。アンデットである私には」

「随分と、余裕だね。ボクの一太刀を受けて口を開くなんて。まさかこれで終わると思ってる?」
 ――神速の剣技と評するべきか、常人の目では全く見えず、炎が後を追うように動いているのがわかるくらい。
 不死王さんの体から煙が上がり、長い灰色のウェーブヘアーにも火がついている。

「これはいかん」
 髪についた火を手で振り払い。

「放っておけば、髪の毛を失うところであった。ははははっ」
 豪快な笑い。

「余裕は与えない」
 停止する事のないサージャスさん。追撃の手を緩める事はない。
 
 刺突の構えから、人間でいうところの心臓の部分に向けて、壁上の敷石を踏みしだいてからの高速の突き。

「ふん!」
 それを容易く諸手で挟んで止める。白刃取りってやつだ。
 
 止められた剣を引き抜こうとするも、諸手はガッシリと剣を放さない。小柄なサージャスさんでは、偉丈夫な不死王さんとの力の差は歴然。

「ふん!」
 もう一度、力を込めると。ガキンと音を立てて剣を折った。

「あちちっ」
 炎の剣を諸手で挟み取って、且つ折るまでの動作で流石に熱かったのか、直ぐに折れた剣先をかなぐり捨てた。
 両掌をふぅふぅしている。

「さてさて、剣が折れて、心も折れてくれれば、これで終いにしてもよいのだが」

「冗談! 安物の剣一本で折れる心を持つくらいなら、ボクはこんなところで貴男に挑もうなんて思わない」

「その心意気は良し! では、どう攻める」

「こう攻める!」
 問いに即答。
 拳を作って、気合いを入れるかのように左右の拳をぶつけてから構えると、またも先行してサージャスさんが動く。
 
 まさかの徒手空拳とは、体格差で、もはや勝負は見えている。

聖闘衣セイクレッド

「チャクラ!? モンクではないか!」

よろずに精通しなければ勇者ではない。と、思うのがボクの理念」
 体全体に青白い光であるチャクラを纏うと、拳打数発を不死王さんに打ち込んだ。
 
 勇者で有りながら、モンクの十八番おはこである、体内エネルギーを放出し、戦闘に使用するチャクラ。
 それによる攻撃は、アンデットには抜群の威力のようで、体格差を無視したように丸太のような腕のガードを崩し、剣技の時のように、強い踏み込みで敷石を踏みしだき破損させつつ、不死王さんの腹部に掌底を直撃させた。
 
 重量級な体格が木の葉のように容易く吹き飛ぶ。
 完成したばかりの煉瓦造りのタレットに直撃して、大穴ができた。
 
 自分たちにとって、絶対的な存在である王が、吹き飛ばされる姿には配下の方々は驚きを隠せず、大穴が出来る原因となった、サージャスさんに視線が向けられる。
 彼女は、そんな視線を気にもとめずに、大穴の方を凝視しながら、蝋燭の火のように揺らめくような姿態。
 
 これは、主をやられたんだから怒り心頭なんじゃないだろうか。集団で命を奪うかも知れない。

「「「「おお!」」」」

「やるではないか。ガルエロン様がこんなにも吹き飛んだのはこの地にて初めて見たぞ」
 怒るどころか、サージャスさんに拍手を送るアンデットの幹部さん。
 
 反面、大公様は渋面だけども、周りの幹部の方々が感嘆の拍手を送っているので、しかたなく付き合っているご様子。
 
 ――しかし、なぜにサージャスさんは一人なんだろうか? パーティー組んでないのか? これだけ強いのに装備も整ってないし、問題児なのやっぱり? でも、僕を気遣う発言とか、良い子感が出てるんだけども。

「いやはや、最近は内政に尽力していたから。体がなまってしまったようだ」
 瓦礫と化したタレット。
 濛々と上がる埃の中から大きな黒い影が出てきて、体についた汚れをポンポンと落としながらサージャスさんの前に立つ。

「不死王が、体がなまってしまったなんて言い訳をするなんて」

「いやいや、これは言い訳ではない…………ふむん。確かにこの状況で発言すればいい訳か。常在戦場の心構えに脂肪がベッタリはりついてしまっているな」
 失言だったと、深々と頭を下げる不死王さんに対して、僕の目では追えないだけなのか、サージャスさんが揺らめくような動きをしていた場所から消えた。

「常在戦場なんでしょ! だったら頭さげて隙つくってる貴男が悪い」

「その言やよし」
 不死王さんのすぐ前に現れたサージャスさん。顔を狙った蹴撃を、不死王さん両掌で防ぎ掴もうとするも、サージャスさん蹴撃を中断したことで空振り。
 
 フェイントで体勢を崩したところに、サージャスさん本命の蹴撃を放つ。
 見事に不死王さんの顔面に見舞った……。
 見舞ったのである…………。
 ミマッたんじゃないのこれ……。
 
 ゴキリと鈍い音と共に、不死王さんの首が可動域を超えていて、顔があらぬ方向を見ている。
 
「死んだんじゃないですか」
 アンデットに死んじゃったって発言もおかしいけども。常人は目を塞ぎたくなる光景。
 
 横に立つ整備長や、僕らの盾になってる兵士の方に語りかけるけど、状況に目を奪われて口を開いてくれない。

「とどめ!」
 チャクラを右腕一点に集結させて、それが拳に収斂しゅうれん
 強く青い光を纏った拳を振り上げ、狙いを定めたようで、それを振り下ろす。

「その発言は早い」
 あらぬ方向の顔から、くすんだエメラルドグリーンの瞳だけが動き、サージャスさんを捕捉すると、渾身の一撃であろう、拳を容易く掌で受け止めた。

「ふん」
 拳を掴むと、それを引き、サージャスさんの軽量な体が不死王さんの方へと誘われ、豪腕二本に細い体が締め付けられる。
 
 ベアハッグだ、

「かはっ」
 まともに締め付けが入ったようで、口を開いて天を仰いでいる。
 仰がされていると見るべきか。
 美しい柳腰や、背中が音源である軋みが、僕の耳朶にまで届いているのだから、相当のダメージをサージャスさんは受けているに違いない。
 
 ――――こんな緊迫した戦いの中で思うのも不謹慎だけど、僕、もし笛持ってたら、それを思いっ切り吹いて、食指を不死王さんに向けてから、〝はい、それセクハラです〟って言うと思う。
 
 ――そんな、邪なことを想像している中で、振り払おうと力を入れていたサージャスさんの腕がだらりと力なく落ち、呼吸もままならないようで、開かれた口からはだらしなく涎が流れている。

「ふむ、終わりかな?」
 その台詞に、弱々しく首を動かし不死王さんを見ると、

「なめるな……」
 ままならない呼吸の中で、か細く継続の意思を伝え、折れてない精神が宿ったようにアメジストカラーの瞳が輝き、

狂戦士ラーテル
 ――と、継いだ――――。
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