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出張
PHASE-14
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「何故に戦闘の中止を求める」
不死王さん無事で、すっかり血行のよくなった大公様が問うてくると、
「それはですね――――我々の管轄の事案が発生しまして」
整備長、ポケットからメモ帳を取り出す。
ペラペラとページをめくり、そして目的のページで指を止めると、不死王さんにメモの中身を見せている。
不死王さんメモの中身を確認するように目を動かし、
「あら~……はあ~これは……」
サージャスさんの方に目をやり、同情に染まった瞳で見つめる。
なんなの? メモの中身が気になったので、足を進めて見せてもらう。
――――……、
あ~これは……。
僕も不死王さんと同じ表情になってしまった。
皆さん気になったようで、大公様や幹部の方々も近づいて、それを目にし、やっぱり僕たちと同じ目になって、サージャスさんを見る。
「なによ? 貴男の勝ちでしょ! 殺したければ殺しなさい!」
捨て鉢な態度は変わらない。
力なくペタリと臀部を石畳に付けて、座り込んでおられる。
「いや~死なれちゃ困るんですよ。サージャス・バレンタインさん。戦闘を始める時に名乗っていただきありがとうございます。おかげで簡単にメモ帳から検索出来ました」
蹲踞で目線を合わせた整備長が、サージャスさんにメモ帳を見せると、サージャスさんの額から、全力で立ち回った、戦闘で流したサラリとした汗から一変して、じっとりとした脂汗がにじみ出ていた。
「整備局の方でしたか……」
「この服装で気付いたください」
「すみませんでした……」
整備局員だと分かった途端に弱々しい語気。
「貴女の状況を考慮したら、強くも言えないのですが――」
流石の整備長でも、同情からか強気な姿勢になれないようで、
一度、澄み切った空を眺めてから、サージャスさんに顔を戻して、
「2億飛んで――――4万9千51ギルダーの支払い頑張ってください」
「――…………はい……」
とんでもねえ額だよ……。エルンさんのも相当だったけど、比じゃない……。これは個人では無理だろ~。
――――メモを拝借。
サージャスさんがどうして、これだけの違反金を支払わなければならないのか……、が、書かれていた。
しかも彼女のそっくりな似顔絵まで描かれてる――――。
ペラペラとページをめくって眺めてみる。
――ちょっと待て! なんだこの女性ばかり書かれているメモ帳は、
新しいページ部分には、エルンさんのお供の三人まで書かれてる。
違反者のデータみたいだけども、女性しか載ってない。
!? カグラさんまで載ってる!
なんて素敵なアイテムを持っているんだ。
整備長! 写させてくれぃ! お願い! お礼に、あめ玉あげるから。
――これは後でじっくりと見させていただこう。必要なデータは即写しだ!
そのためにも、この場の状況を素早く終わらせるために、サージャスさんの内容にしっかりと目を通さねば――。
――――事が起こったのは今から一年と半くらい前。
パーティーを組んでいた男の魔法使いが独断行動で違反を犯した。
内容は大魔法使用禁止区域での大魔法の使用。
歴史的建造物に大きな損害が生じたらしく、これにより莫大な弁償金と違反金の支払いが課せられた。
その男、保険に加入しておらず、困り果てていたようだが、サージャスさんは、ちゃんとパーティーのための集団加入をしており、それで支払うとしたものの、いかんせん金額が金額であるから、持ち合わせも少なかった事から、二週間以内の支払いが不可能だった。
そうなれば督促状がパーティーに送られるわけだが、送られても払う事も出来ず、必死にクエストをこなしても焼け石に水。
それでも懸命に少しずつ支払いをしていたんだけども、あろう事か、張本人である男の魔法使いが夜逃げしたのである。
最低である! クズの中のクズである!!
そうなると、残ったパーティーメンバーも付き合いきれないと言いだし、パーティーを抜けサージャスさんを見捨てたそうだ。
そいつらも中々にクズじゃないか。
連帯保証人となって、債務者に逃げられたことで、保証責務を課せられた借金生活を送る人みたいになってしまったサージャスさん。
それでも彼女は健気に支払いを続けた。
しかし、役所は彼女に対して、支払能力なしの烙印を押し、サージャスさんが使用している装備一式を差し押さえたそうで、実力はあってもお金のないサージャスさんの装備はジリ貧なものになってしまった。
まともな装備でもないから、こなすクエストも限られてしまうという、悪循環にも陥ってしまった状況。
同じ、公務員が下した行為だと思うと、心苦しい…………。
「それで、装備が簡単に手に入る安物なのか――」
本人の高い実力に伴わない装備。
それを使用して、不死王さんに戦いを挑んで、相手にならなかったとしても、吹き飛ばしたりしちゃう本人の地力は相当なもの。
実力に見合った装備と強力な魔法の使用を可能にしていれば、不死王さんが言うように、不死王さんや、幹部の皆さんと良い勝負が出来てたはずだ。
「古都の取り締まりはきついからね。武装したまま入り込むにはそれなりの許可をもらわないといけない。手頃に装備を調えるなら、現地調達に限られる。といってもここで売られているのは、今のボクが使用しているのと大差はないけどね」
僕の声が耳朶に届いていたようで、喋々と説明してくれた。
大公様……、取り締まりきつすぎでしょ。
しかも、武器、防具の販売品質にも制限かけてるとか……。これじゃ、他にもこの古都を奪還するために活動している勇者さん達も攻略が相当に厳しいだろう。
徹底している。この古都を今の主に委ねたいという大公様の意志が徹底している。
心の底から魔王軍の一員になっている。
――――しかし、メモ帳に記入されている額を見返す度に嘆息しか出ない。
僕の返済金じゃなくても出てしまう。
端数だけでも僕の給料の二ヶ月分とちょっとくらいか。
二億か~。二億ね……。
一生遊んで暮らせるよね。とてもじゃないが個人で返せる額じゃない。
子々孫々、債務に負われることになるだろうな。
会社立ち上げて、大成功を収めるしかないか返済は出来ないかもしれない。
後は――――、勇者だからね。魔王軍の幹部倒せば、ギルドからのクエスト報酬も莫大なものだろう。
だから、不死王さんを倒したと思った時に、大粒の涙を流して喜んだわけか。
でも、報酬でも二億はないだろな。
そんな金を個人に払うなんて考えられない。もちろん十分な支払い報酬は得られるだろうし、名声も上がるから、それだけで次に繋がる利になることもあるだろうけど、二億返済のためには何人の魔王幹部を倒さなきゃ行けないのかな……。
頑張れって言ったところで、頑張ってるって返ってくるだけだろうし、こういう時なんて言葉をかけてやればいいのか……。
十代の僕には荷が重すぎる…………。
「こういう無茶はやめてもらいたいですね。命を落とされたら、莫大な返済金はご家族に累が及びますよ」
「君は戦闘に関しては天稟を持った存在であったようだが、仲間を選ぶ才は、凡庸以下だったということだ。単身で挑む覚悟は、愚かではあるが、心意気は買ってやるがね」
整備長に続いて、モノクルを正しながら大公様のお言葉。
――慈悲がない……。
でも、正論なんだよね。
勇敢と蛮勇は違うし、仲間選びもよろしくない。夜逃げしたり、かかわりたくないと言って抜けるような奴らを見抜いて避けるのも、勇者の素質だと思う。
だからこそ、サージャスさんも無言で首肯するしか出来ないのだろう。
なんだか一気に重苦しくなってきた。
幹部の方々だけでなく、周辺の兵隊さん達にも内容が伝わっていくと、何とも形容しがたい暗い雰囲気が伝染していく。
天にまでがそれが伝染したのか、先ほどまで快晴だったのに、どんよりとし始めてきた。
――――誰もが口を一文字。
静寂な中で、城壁で無事な箇所に掲げられている、不死王軍の軍旗がはためきで生み出す音だけが耳朶に届いてくる――――。
――――静まりかえった壁上に、城壁の下側では、戦いが終わったのか? と、住人の方々が、アンデット兵の方々を押すような感じで、近づいて来ているようで、ざわざわとした声が、はためく音と混ざり始めた。
「やっぱり、挑んだところで無理だったな……。無難に手堅いクエストをこなしながら、後は…………春を鬻ぐしかないかな……なぜか、ボクには男の人がよく寄ってくるし……」
戦闘時は、快活の良いものだったのに、一転してお通夜ムード。
誘蛾灯のように男を寄せ付けるだけの形貌をもっているのも確かだけど、勇者様が体を売るとか言っちゃったら駄目だよ……。
もはやなんと言ってやればいいのか皆さん分からないといった感じで、視線を下に向ける。
――そんな中で、パチンとはじける音が響く。
僕をはじめ、下を向いていた皆さんが音の発生元へと目を向けると、不死王さんがサージャスさんの前に立っていた。
サージャスさんの左頬がほんのり紅に染まっている。
平手打ちを見舞ったようだ――――。
不死王さん無事で、すっかり血行のよくなった大公様が問うてくると、
「それはですね――――我々の管轄の事案が発生しまして」
整備長、ポケットからメモ帳を取り出す。
ペラペラとページをめくり、そして目的のページで指を止めると、不死王さんにメモの中身を見せている。
不死王さんメモの中身を確認するように目を動かし、
「あら~……はあ~これは……」
サージャスさんの方に目をやり、同情に染まった瞳で見つめる。
なんなの? メモの中身が気になったので、足を進めて見せてもらう。
――――……、
あ~これは……。
僕も不死王さんと同じ表情になってしまった。
皆さん気になったようで、大公様や幹部の方々も近づいて、それを目にし、やっぱり僕たちと同じ目になって、サージャスさんを見る。
「なによ? 貴男の勝ちでしょ! 殺したければ殺しなさい!」
捨て鉢な態度は変わらない。
力なくペタリと臀部を石畳に付けて、座り込んでおられる。
「いや~死なれちゃ困るんですよ。サージャス・バレンタインさん。戦闘を始める時に名乗っていただきありがとうございます。おかげで簡単にメモ帳から検索出来ました」
蹲踞で目線を合わせた整備長が、サージャスさんにメモ帳を見せると、サージャスさんの額から、全力で立ち回った、戦闘で流したサラリとした汗から一変して、じっとりとした脂汗がにじみ出ていた。
「整備局の方でしたか……」
「この服装で気付いたください」
「すみませんでした……」
整備局員だと分かった途端に弱々しい語気。
「貴女の状況を考慮したら、強くも言えないのですが――」
流石の整備長でも、同情からか強気な姿勢になれないようで、
一度、澄み切った空を眺めてから、サージャスさんに顔を戻して、
「2億飛んで――――4万9千51ギルダーの支払い頑張ってください」
「――…………はい……」
とんでもねえ額だよ……。エルンさんのも相当だったけど、比じゃない……。これは個人では無理だろ~。
――――メモを拝借。
サージャスさんがどうして、これだけの違反金を支払わなければならないのか……、が、書かれていた。
しかも彼女のそっくりな似顔絵まで描かれてる――――。
ペラペラとページをめくって眺めてみる。
――ちょっと待て! なんだこの女性ばかり書かれているメモ帳は、
新しいページ部分には、エルンさんのお供の三人まで書かれてる。
違反者のデータみたいだけども、女性しか載ってない。
!? カグラさんまで載ってる!
なんて素敵なアイテムを持っているんだ。
整備長! 写させてくれぃ! お願い! お礼に、あめ玉あげるから。
――これは後でじっくりと見させていただこう。必要なデータは即写しだ!
そのためにも、この場の状況を素早く終わらせるために、サージャスさんの内容にしっかりと目を通さねば――。
――――事が起こったのは今から一年と半くらい前。
パーティーを組んでいた男の魔法使いが独断行動で違反を犯した。
内容は大魔法使用禁止区域での大魔法の使用。
歴史的建造物に大きな損害が生じたらしく、これにより莫大な弁償金と違反金の支払いが課せられた。
その男、保険に加入しておらず、困り果てていたようだが、サージャスさんは、ちゃんとパーティーのための集団加入をしており、それで支払うとしたものの、いかんせん金額が金額であるから、持ち合わせも少なかった事から、二週間以内の支払いが不可能だった。
そうなれば督促状がパーティーに送られるわけだが、送られても払う事も出来ず、必死にクエストをこなしても焼け石に水。
それでも懸命に少しずつ支払いをしていたんだけども、あろう事か、張本人である男の魔法使いが夜逃げしたのである。
最低である! クズの中のクズである!!
そうなると、残ったパーティーメンバーも付き合いきれないと言いだし、パーティーを抜けサージャスさんを見捨てたそうだ。
そいつらも中々にクズじゃないか。
連帯保証人となって、債務者に逃げられたことで、保証責務を課せられた借金生活を送る人みたいになってしまったサージャスさん。
それでも彼女は健気に支払いを続けた。
しかし、役所は彼女に対して、支払能力なしの烙印を押し、サージャスさんが使用している装備一式を差し押さえたそうで、実力はあってもお金のないサージャスさんの装備はジリ貧なものになってしまった。
まともな装備でもないから、こなすクエストも限られてしまうという、悪循環にも陥ってしまった状況。
同じ、公務員が下した行為だと思うと、心苦しい…………。
「それで、装備が簡単に手に入る安物なのか――」
本人の高い実力に伴わない装備。
それを使用して、不死王さんに戦いを挑んで、相手にならなかったとしても、吹き飛ばしたりしちゃう本人の地力は相当なもの。
実力に見合った装備と強力な魔法の使用を可能にしていれば、不死王さんが言うように、不死王さんや、幹部の皆さんと良い勝負が出来てたはずだ。
「古都の取り締まりはきついからね。武装したまま入り込むにはそれなりの許可をもらわないといけない。手頃に装備を調えるなら、現地調達に限られる。といってもここで売られているのは、今のボクが使用しているのと大差はないけどね」
僕の声が耳朶に届いていたようで、喋々と説明してくれた。
大公様……、取り締まりきつすぎでしょ。
しかも、武器、防具の販売品質にも制限かけてるとか……。これじゃ、他にもこの古都を奪還するために活動している勇者さん達も攻略が相当に厳しいだろう。
徹底している。この古都を今の主に委ねたいという大公様の意志が徹底している。
心の底から魔王軍の一員になっている。
――――しかし、メモ帳に記入されている額を見返す度に嘆息しか出ない。
僕の返済金じゃなくても出てしまう。
端数だけでも僕の給料の二ヶ月分とちょっとくらいか。
二億か~。二億ね……。
一生遊んで暮らせるよね。とてもじゃないが個人で返せる額じゃない。
子々孫々、債務に負われることになるだろうな。
会社立ち上げて、大成功を収めるしかないか返済は出来ないかもしれない。
後は――――、勇者だからね。魔王軍の幹部倒せば、ギルドからのクエスト報酬も莫大なものだろう。
だから、不死王さんを倒したと思った時に、大粒の涙を流して喜んだわけか。
でも、報酬でも二億はないだろな。
そんな金を個人に払うなんて考えられない。もちろん十分な支払い報酬は得られるだろうし、名声も上がるから、それだけで次に繋がる利になることもあるだろうけど、二億返済のためには何人の魔王幹部を倒さなきゃ行けないのかな……。
頑張れって言ったところで、頑張ってるって返ってくるだけだろうし、こういう時なんて言葉をかけてやればいいのか……。
十代の僕には荷が重すぎる…………。
「こういう無茶はやめてもらいたいですね。命を落とされたら、莫大な返済金はご家族に累が及びますよ」
「君は戦闘に関しては天稟を持った存在であったようだが、仲間を選ぶ才は、凡庸以下だったということだ。単身で挑む覚悟は、愚かではあるが、心意気は買ってやるがね」
整備長に続いて、モノクルを正しながら大公様のお言葉。
――慈悲がない……。
でも、正論なんだよね。
勇敢と蛮勇は違うし、仲間選びもよろしくない。夜逃げしたり、かかわりたくないと言って抜けるような奴らを見抜いて避けるのも、勇者の素質だと思う。
だからこそ、サージャスさんも無言で首肯するしか出来ないのだろう。
なんだか一気に重苦しくなってきた。
幹部の方々だけでなく、周辺の兵隊さん達にも内容が伝わっていくと、何とも形容しがたい暗い雰囲気が伝染していく。
天にまでがそれが伝染したのか、先ほどまで快晴だったのに、どんよりとし始めてきた。
――――誰もが口を一文字。
静寂な中で、城壁で無事な箇所に掲げられている、不死王軍の軍旗がはためきで生み出す音だけが耳朶に届いてくる――――。
――――静まりかえった壁上に、城壁の下側では、戦いが終わったのか? と、住人の方々が、アンデット兵の方々を押すような感じで、近づいて来ているようで、ざわざわとした声が、はためく音と混ざり始めた。
「やっぱり、挑んだところで無理だったな……。無難に手堅いクエストをこなしながら、後は…………春を鬻ぐしかないかな……なぜか、ボクには男の人がよく寄ってくるし……」
戦闘時は、快活の良いものだったのに、一転してお通夜ムード。
誘蛾灯のように男を寄せ付けるだけの形貌をもっているのも確かだけど、勇者様が体を売るとか言っちゃったら駄目だよ……。
もはやなんと言ってやればいいのか皆さん分からないといった感じで、視線を下に向ける。
――そんな中で、パチンとはじける音が響く。
僕をはじめ、下を向いていた皆さんが音の発生元へと目を向けると、不死王さんがサージャスさんの前に立っていた。
サージャスさんの左頬がほんのり紅に染まっている。
平手打ちを見舞ったようだ――――。
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