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王都の休日
PHASE-05
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――とりあえず、落ち着きのある男を目指さないとな。
起伏の激しい男は、まだまだ男の子と扱われてしまうだろうから。
男として見てもらえるように、器を大きくしなければ!
男を磨こうじゃないか! そのためにも、僕が格好いいと思うケーシーさんの立ち振る舞いを目にして、身につけていこう。
「お嬢ちゃん可愛いね~いくつ?」
「ななつだ」
「元気だね~将来、美人になるよ」
左からロールさん、僕、ケーシーさん、レインちゃん。その隣に二十代半ばくらいの男性。
なんの変哲もない、子供に向けての会話。
――そう、なんの変哲もなかった。
男性が、小さな子に性的な興奮をもって話しかけたとか、誘拐しようとか、そういうものは一切無く。ただ、隣に座っている女の子に話しかけてきた。本当に、ただ、それだけだ。
もっと言うなら、先に席に着いていたのは男性であって、僕たちは後からやってきて隣席。それに対する社交的な挨拶でしかなかった。
「おい」
普段以上の低音な声。でも、凄く耳朶に響く声。
瞬時にして一帯に冷気が走る。前方に後方、芝居を楽しみにしている方々の楽しげな会話が、ピタリと止まった。
人間が忘却の彼方に追いやっていた野生の本能が、〝おい〟の一言で、神速で戻ってきたようだ。
ゆらりと立ち上がり、男性に近づくと、胸ぐらを掴むケーシーさん。
なぜに自分が胸ぐらを掴まれるのかと理解出来ない上に、眉がつり上がり、暗殺者を思わせる眼光で男性を睨むもんだから、頭の中は、右往左往のパニック状態のようだ。
「な、なんでしょうか!?」
何とか声が裏返りながらも、言葉を絞り出す男性。
「お前。うちの娘を狙ってんのか?」
「おっしゃる意味が……」
泣きそうな顔になっている。
「将来、美人になるって言ったろ? 狙ってんのか?」
「狙ってませんよ」
「じゃあ、なんで言ったんだ」
ケーシーさんは怒鳴らない。終始、氷のような冷ややかな声を発するだけ。
その声による見えない氷柱が、男性の体にいくつも突き刺されているようだ。
「ケーシーさん。その方、挨拶してただけなんで」
腕を掴んで席に座らせようとするけど、びくともしない。どんな体幹の鍛え方をすればその様な不動の体を作れるのか。
本当に挨拶のつもりだったのか? と、睨み付けると、泣きながら首肯する男性。
「娘にちょっかい出したら――――、解体だぞ」
左手で、胸ぐらを掴みつつ、右手を刃物に見立てるように手刀を作って、それを男性の首元にゆっくりと沿わせていく。
その後、手を放してあげて男性を自由にしてあげると、
「すいませんでした!」
と、命からがらとばかりに席を立って走り去っていった。
――――ごめんなさい。貴男はなにも悪くなかった。
「まったく。いいなレイン。ああいうのには付いていくなよ」
「おうよ!」
この親子、怖い。
――格好いい男のはずだった……。
――――でも、立ち振る舞いは参考にならないと理解した。
ケーシーさん、いま五十代だったか。
遅くに出来た子だから、溺愛している。
ただの挨拶をしてきた人にでも、容赦のない洗礼を行う父親の姿。
そして、踏みいってほしくないところにズカズカ入ってくる娘。
凄い組み合わせである……。
「周りに迷惑はかけないようにしましょう」
呆れ気味に注意してあげる。
一部始終を目にしていた周囲の方々に、頭を下げるケーシーさん。
そんなケーシーさんの雰囲気に当てられて、戦々恐々な方々が、頭を下げ返してくる。
「とうちゃんはわるいな~」
カラカラと笑いながら、頭を下げているケーシーさんの頭を、パシパシ叩くレインちゃんの仕草が喜劇のようで、笑いが生まれた。
よかった、よかった。あの男性には申し訳ないけども、収拾はついたようだ。
「目上の人にも物怖じせずに注意できるのは、感心だよ」
ロールさんの中で僕の評価が上がった。僕の脳内の小さな僕たちが太鼓叩いて踊りに興じている。
男性には本当に申し訳なかったけど、僕の株が上がったので良しとしよう。申し訳ない! さっきの方。
貴男の犠牲は無駄にしません。
頑張って、男磨きをしていくぞ~。
――――夕日が沈み始める頃に、野外演劇の舞台に、明かりが灯されていく。
見物人に全体が見えるように、明かりは、光系の魔法が封じられている魔石を使用したものでのライティング。
すこぶる明るく、これが普及していけば、火を使ったランプは終わりを迎えるかも知れない。
〝古くさい物は、いざという時に役に立たない〟
なんて言って、ランプを木に吊したりして、石を投げないでね。時代の流れに逆らわないで、ランプ職人の方は、再就職を目指してがんばってください。
新しいものが現れれば、今までのものが消えていく。そんな愁思をいだいている中で、舞台上に役者が現れ、見物人から拍手が生まれる。
役者さん達はその流れに慣れているからか、第一声を発しようとする煌びやかな服装を着た男性が大きく呼気を行って、如何にも今から台詞を言いますというのを暗に伝えると、拍手は息を合わせたようにピタリと止まった。
――――芝居が始まる。
タイトルは【談論風発】
五幕から成る演劇。
内容は、先代である王様が主人公。
不死王軍から、逃れ、現在の地に王都を遷都させるまでが第一幕。
古都を奪還するために兵を集めるために無理な徴兵を行おうとし、それを臣下に止められ、奪還を理由に私怨に駆られ、精神が憔悴していく、第二幕。
弱り切った心を癒やすために、湯治へと赴いた村で、魔王軍によって命の危機に瀕した王。
村へと現れた女の勇者と、共に行動をするアサシンの少年に救われ、出会うまでが、第三幕。
彼女たちの助力を得て、魔王を討伐するのではなく、条約を作ることで、今後の世界のために会談を行うことを提案する。
そして、会談に反対する一部の家臣たちとの亀裂までが、第四幕。
会談に反対する者達の妨害を退けつつ、魔王との協議を取り付け、協議の場に参加した者達の合意を得て、条約が無事に締結し、その後、最後を迎える王の姿までが、第五幕。
簡単にまとめると、こんな感じだろう――――――。
起伏の激しい男は、まだまだ男の子と扱われてしまうだろうから。
男として見てもらえるように、器を大きくしなければ!
男を磨こうじゃないか! そのためにも、僕が格好いいと思うケーシーさんの立ち振る舞いを目にして、身につけていこう。
「お嬢ちゃん可愛いね~いくつ?」
「ななつだ」
「元気だね~将来、美人になるよ」
左からロールさん、僕、ケーシーさん、レインちゃん。その隣に二十代半ばくらいの男性。
なんの変哲もない、子供に向けての会話。
――そう、なんの変哲もなかった。
男性が、小さな子に性的な興奮をもって話しかけたとか、誘拐しようとか、そういうものは一切無く。ただ、隣に座っている女の子に話しかけてきた。本当に、ただ、それだけだ。
もっと言うなら、先に席に着いていたのは男性であって、僕たちは後からやってきて隣席。それに対する社交的な挨拶でしかなかった。
「おい」
普段以上の低音な声。でも、凄く耳朶に響く声。
瞬時にして一帯に冷気が走る。前方に後方、芝居を楽しみにしている方々の楽しげな会話が、ピタリと止まった。
人間が忘却の彼方に追いやっていた野生の本能が、〝おい〟の一言で、神速で戻ってきたようだ。
ゆらりと立ち上がり、男性に近づくと、胸ぐらを掴むケーシーさん。
なぜに自分が胸ぐらを掴まれるのかと理解出来ない上に、眉がつり上がり、暗殺者を思わせる眼光で男性を睨むもんだから、頭の中は、右往左往のパニック状態のようだ。
「な、なんでしょうか!?」
何とか声が裏返りながらも、言葉を絞り出す男性。
「お前。うちの娘を狙ってんのか?」
「おっしゃる意味が……」
泣きそうな顔になっている。
「将来、美人になるって言ったろ? 狙ってんのか?」
「狙ってませんよ」
「じゃあ、なんで言ったんだ」
ケーシーさんは怒鳴らない。終始、氷のような冷ややかな声を発するだけ。
その声による見えない氷柱が、男性の体にいくつも突き刺されているようだ。
「ケーシーさん。その方、挨拶してただけなんで」
腕を掴んで席に座らせようとするけど、びくともしない。どんな体幹の鍛え方をすればその様な不動の体を作れるのか。
本当に挨拶のつもりだったのか? と、睨み付けると、泣きながら首肯する男性。
「娘にちょっかい出したら――――、解体だぞ」
左手で、胸ぐらを掴みつつ、右手を刃物に見立てるように手刀を作って、それを男性の首元にゆっくりと沿わせていく。
その後、手を放してあげて男性を自由にしてあげると、
「すいませんでした!」
と、命からがらとばかりに席を立って走り去っていった。
――――ごめんなさい。貴男はなにも悪くなかった。
「まったく。いいなレイン。ああいうのには付いていくなよ」
「おうよ!」
この親子、怖い。
――格好いい男のはずだった……。
――――でも、立ち振る舞いは参考にならないと理解した。
ケーシーさん、いま五十代だったか。
遅くに出来た子だから、溺愛している。
ただの挨拶をしてきた人にでも、容赦のない洗礼を行う父親の姿。
そして、踏みいってほしくないところにズカズカ入ってくる娘。
凄い組み合わせである……。
「周りに迷惑はかけないようにしましょう」
呆れ気味に注意してあげる。
一部始終を目にしていた周囲の方々に、頭を下げるケーシーさん。
そんなケーシーさんの雰囲気に当てられて、戦々恐々な方々が、頭を下げ返してくる。
「とうちゃんはわるいな~」
カラカラと笑いながら、頭を下げているケーシーさんの頭を、パシパシ叩くレインちゃんの仕草が喜劇のようで、笑いが生まれた。
よかった、よかった。あの男性には申し訳ないけども、収拾はついたようだ。
「目上の人にも物怖じせずに注意できるのは、感心だよ」
ロールさんの中で僕の評価が上がった。僕の脳内の小さな僕たちが太鼓叩いて踊りに興じている。
男性には本当に申し訳なかったけど、僕の株が上がったので良しとしよう。申し訳ない! さっきの方。
貴男の犠牲は無駄にしません。
頑張って、男磨きをしていくぞ~。
――――夕日が沈み始める頃に、野外演劇の舞台に、明かりが灯されていく。
見物人に全体が見えるように、明かりは、光系の魔法が封じられている魔石を使用したものでのライティング。
すこぶる明るく、これが普及していけば、火を使ったランプは終わりを迎えるかも知れない。
〝古くさい物は、いざという時に役に立たない〟
なんて言って、ランプを木に吊したりして、石を投げないでね。時代の流れに逆らわないで、ランプ職人の方は、再就職を目指してがんばってください。
新しいものが現れれば、今までのものが消えていく。そんな愁思をいだいている中で、舞台上に役者が現れ、見物人から拍手が生まれる。
役者さん達はその流れに慣れているからか、第一声を発しようとする煌びやかな服装を着た男性が大きく呼気を行って、如何にも今から台詞を言いますというのを暗に伝えると、拍手は息を合わせたようにピタリと止まった。
――――芝居が始まる。
タイトルは【談論風発】
五幕から成る演劇。
内容は、先代である王様が主人公。
不死王軍から、逃れ、現在の地に王都を遷都させるまでが第一幕。
古都を奪還するために兵を集めるために無理な徴兵を行おうとし、それを臣下に止められ、奪還を理由に私怨に駆られ、精神が憔悴していく、第二幕。
弱り切った心を癒やすために、湯治へと赴いた村で、魔王軍によって命の危機に瀕した王。
村へと現れた女の勇者と、共に行動をするアサシンの少年に救われ、出会うまでが、第三幕。
彼女たちの助力を得て、魔王を討伐するのではなく、条約を作ることで、今後の世界のために会談を行うことを提案する。
そして、会談に反対する一部の家臣たちとの亀裂までが、第四幕。
会談に反対する者達の妨害を退けつつ、魔王との協議を取り付け、協議の場に参加した者達の合意を得て、条約が無事に締結し、その後、最後を迎える王の姿までが、第五幕。
簡単にまとめると、こんな感じだろう――――――。
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